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    よーでる

    推敲に超時間かかるタチなので即興文でストレス解消してます。
    友人とやってる一次創作もここで載せることにしました。

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    よーでる

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    龍のうたった祭り歌、作中本編で主な舞台となる世界の始まり、前編。

    ##龍のうたった祭り歌
    #龍のうたった祭り歌
    festivalSongsSungByDragons

    世界をすくう少女の生い立ちと旅立ち さて、辺鄙な山奥の寂れた寒村で、その少女は暮らしていました。言い過ぎ? うーん、確かに。
     山の恵みは豊かだったし、他所と交流は少なくても排他的にならず、心が広く優しい人たちが暮らしてたしね。流行り病で生き残ったのがその女の子だけだからって、言いすぎたよ。ごめんごめん。
     改めて。緑深い山奥の秘められた里で、その少女は墓守をしていました。そう、家族の墓です。血の繋がりはなかったけどね。うん、捨て子だったんだ。
     ん? ちがうちがう。実は大魔法使いの娘だとか王様の娘だとか勇者の末裔とか、そういうのはないよ。軽はずみな旅行者が置き去りにしただけ。予防接種くらいはさせてたみたいだけどね。おかげで女の子は流行り病に罹らなかったわけだし、一応それが肉親からの贈り物だったのかな。
     とにかく、その女の子は自分を育ててくれた村の人たちのことが大好きだったので、独り生き残った後も外に旅立とうとはせずに、みんなの墓を守り、みんなの教えを守り、精霊に祈りを捧げて過ごしていました。

     そう、その少女はその時代では珍しい、世界の声に耳を傾ける少女でした。大地や大気には精霊という見えない存在が宿っていると仮定して、その振る舞いを演算することで、逆説的に「精霊は在る」という結果を……え、どうでもいい? 人の信仰対象を仮定とか言っちゃうのどうかと思う? はい、すみません。
     とにかく、その少女は珍しい、時代遅れの廃れた魔法を使う魔法使いでした。問答無用で世界に言うことを聞かせたほうが一々お伺いを立てるより手っ取り早くて便利ですからね。
     ですが、少女の魔法は、魔法使いにコロコロ変えられたせいで自分を忘れてしまった世界に、元の自分を思い出させることができました。

     その魔法を探していた人がいました。王子様です。え? いやいや、あだ名だよ。世界の終わりに立ち向かう三人の魔法使い、その子どもだったんだ。見目良し育ち良し頭も良くって心が綺麗。だから王子様。わかりやすいでしょ?
     王子様は乱暴者の魔法使いといっしょに、世界中の魔法を旅して調べていました。一見何の役に立たなさそうな魔法でも、少しの工夫で役立ったり、ピンポイントで助かる場面があるものです。ですが、まさかこんなダイレクトに世界を救える魔法があるなんて思いもよりませんでした。もしかしたら他にもいたかもしれませんが、王子様が出会えたのは彼女だけでした。
     だから、と言うのは間違いですね。秘された山里を訪ねた王子様は、ひとりぼっちで墓守をしている女の子を見つけて、放っておけなくなっただけです。だから誘いました。

    「いっしょに、生きてることの可能性を探しに行こう」

     長くなったから、王子様と、女の子と、語り損ねた乱暴者の旅路は割愛。またの機会に。
     これが少女の生い立ちと旅立ち。彼女はどこにでもいそうな、普通の女の子でした。ちょっと珍しい魔法が使えただけです。
     ブロンドの髪とすみれ色の瞳も珍しかったかもしれません。スキンケアなんて知らなかったから顔はそばかすだらけ。健康には気を使っていたから動きは溌剌として姿勢も良かったです。
     可愛いものが好きで。家族が好きで。人が死ぬのが嫌で。王子様とは大の仲良しで。乱暴者とは喧嘩もしたけど仲良しで。ただそれだけの、ありふれた、かけがえのない女の子。
     後にわずかながら世界を救い、千年王国の祖と讃えられ、今の世では精霊と呼ばれ信仰され続けている、このときはまだ、十七歳の女の子。
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    よーでる

    PROGRESS完!! うおおお、十数年間ずっと頭の中にあったのでスッキリしたぁ。
    こういうカイムとマナが見たかったなー!!という妄執でした。あとどうしてカイムの最期解釈。
    またちょっと推敲してぷらいべったーにでもまとめます。
    罪の終わり、贖いの果て(7) 自分を呼ぶ声に揺すられ、マナはいっとき、目を覚ました。ほんのいっとき。
     すぐにまた目を閉ざして、うずくまる。だが呼ぶ声は絶えてくれない。求める声が離れてくれない。

    (やめて。起こさないで。眠らせていて。誰なの? あなたは)

     呼び声は聞き覚えがある気がしたが、マナは思い出すのをやめた。思い出したくない。考えたくない。これ以上、何もかも。だって、カイムは死んだのだから。
     結局思考はそこに行き着き、マナは顔を覆った。心のなかで、幼子のように身を丸める。耳を覆う。思考を塞ぐ。考えたくない。思い出したくない。思い出したく、なかった。

     わからない。カイムがどうしてわたしを許してくれたのか。考えたくない。どうしてカイムがわたしに優しくしてくれたのか。知りたくない。わたしのしたことが、どれだけ彼を傷つけ、蝕んだのか。取り返しがつかない。償いようがない。だって、カイムは、死んでしまったのだから。
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