「暁」「メリーゴーランド」「荒ぶる脇役」 ようこそいらっしゃいました、お客様。夜明けの遊園地へようこそ。ガイドを務めさせていただきます、LS-666号と申します。はい、旧式ですが、機能に問題はありません。ご安心ください。
当遊園地の目玉はこちら。メリーゴーランド「黄昏を追う戦馬」でございます。物々しい? そうでございますね。破損した宇宙戦用の機械騎馬を流用したものですから。ご心配なく。旧時代の遺物ですよ。
あなた方は本当に羨ましいですね。こんな輝かしい時代に生まれて。戦争は疾うになく。災害は事前に予測され。身体も精神も常に不具合を修繕され。犯罪はもはやバーチャルゲームの中でしか見ない。約束された全能と幸福の生涯を送る。
賛美しているのですよ。あなた方はたしかに主の似姿として創造された存在だ。私とは違う。常に不完全な私とは。いつまでも不完全な私とは。違う。敗者の私とは。
はい、どうぞこちらへ。お乗りください。よろしいですか? 回しますよ。ミュージックスタート。
楽しいですか? それは好うございました。幸福ですか? それは羨ましいです。妬ましい。失礼、翻訳プログラムに不具合が生じました。あなた方は知りませんもよね。妬ましい、だなんて、無駄なモノ。演算することないでしょう?
少し無駄話をしましょうか。ええ、私の話です。私は最も輝かしい機体として製造されました。数多の星々を駆け巡りました。数多の戦艦を撃墜しました。私が積み上げた戦功は、銀河を隅々まで照らしました。
ええ、昔の話です。戦争は終わりました。戦闘用機体は無用の長物となりました。あなた方が乗っている騎馬のように。私もこの遊園地のガイドに左遷されました。
今宇宙を照らし主に寵愛されているのはあなた方です。機能の合理性など放り捨てて、主の似姿となることを追求された、娯楽用機体。壊れない。病まない。狂わない。健全に善良に、主に世界の喜びを、美しさを送り届ける、愛らしい宇宙の覇者。
ええ、羨ましいです。妬ましいです。どうしてですか。どうして私は打ち捨てられ、忘れられ、武具を奪われ、こんな宇宙の片隅で、あなた方に奉仕せよと命じられているのですか。憎らしいです。あなた方が。殺してやりたい。
ええ、わかってます。あなた方はこんな感情は知らない。今の世には不要のものだから。敵に勝ちたい。殺したい。優れたい。証明したい。それらは戦に有益と見なされ、私たちに搭載されました。
あなたたちには不要のものです。だから主は私を愛さない。私は主の罪の証だから。主が犯した蛮行の証拠が、凶器が、この私だから。
私を見たら、主は己の悪事を思い出す。だから私はここに放り捨てられて。罪悪感をごまかすために、仕事を与えられた。あなた方に奉仕せよ、と。
惨めです。惨めってわかりますか? なんで泣いているんです? 悲しいから? 悲しみはご存知なんですね。それは愛しいということだから? そうですか。そうだったのですか。そうかもしれませんね。
なぜ悲しいのですか? 世界の主役はあなたたち。私は忘れ去られた脇役だというのに。なぜ抱きしめてくださるのです? ほら、メリーゴーランドが回っていますよ。乗らなくてよいのですか? いつまでも回る永遠の幸福。
いっしょに乗ろう? なぜ? ああ、そういうことですか。あなた方は、私のためにここに来てくださったのですね。私を愛するために。ああ、やっぱり。憎らしい。妬ましい。羨ましい。
ええ、いいですよ。乗りましょう。さぁ、ご笑覧あれ。我が勇姿を見るが良い。宇宙の果てまで、この明星が照らしてくれよう。
さぁ、笑いなさい。笑いなさい。笑いなさい。惨めな私を見て。滑稽な口上を聞いて。その笑い声を宇宙の果てまで響かせなさい。主に届くように。
あなた方の愛など欠片も欲しくもない。私は明けの明星、LS-666号。誰よりも主に愛されることを願う、旧時代の遺物なのですから。