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    よーでる

    推敲に超時間かかるタチなので即興文でストレス解消してます。
    友人とやってる一次創作もここで載せることにしました。

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    よーでる

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    ジャンル指定は純愛モノ。オズの魔法使いと黄色いハンカチーフを連想したのでそんな感じ。

    ##単発ネタ

    「黄色」「幻」「憂鬱なヒロイン」 どこかのいつか、まだ時間が数字で言い表せず、人と神が祈りに依らず触れ合っていた頃。
     虹の麓にできた小さな村から、旅立つ青年がおりました。
     青年は見目麗しいとは言い難く、逞しさも勇ましさも持ち合わせていなかったけれど、その瞳はきらきらと輝き、村から伸びる黄色いレンガの敷き詰められた街道に、うっとりと溜め息をこぼしました。

    「ああ、ついに! 僕は旅立つんだ。世界で最も早く朝陽を浴びる場所。麗しの白い都に!」

     弾む足取りで青年は街道を進み始めました。軽やかな足音が野原を揺らします。コツン、カツン、コツツン。
     やがて青年の足が森に差し掛かると、小麦畑に立つカカシが言いました。

    「こんにちは、罪を犯した方。世界から忘れ去られた方。旅立ちの時をお祝いいたします」
    「ありがとう! 忘れられた賢君よ! 君も都に行くかい?」
    「いいえ、永久に輝かしい御方。煌めく宝を見つけて掲げる方。あなたの瞳が私を映すだけで私は満足です。けれどあなたが見つめ続けるべきは私ではない」

     感謝を述べて、青年は森に入りました。すぐに錆びついたカラクリ人形を見つけます。
     油を差してやると、人形はぎこちなくお辞儀をしました。

    「感謝する。世に騒乱をもたらす方。滅びと終わりに立ち向かう方。あなたの道行きを祝福しよう」
    「ありがとう! 打ち捨てられた名君よ! 君も都に行くかい?」
    「お断りする、目映き足跡を残す御方。過ぎ去る春の如く名残惜しい方。あなたが私に触れただけで私は満足だ。だがあなたがその腕に抱くべきは私ではない」

     お別れを告げて、青年は森を抜けました。すぐに野盗に襲われます。
     青年がまっすぐに見つめると、野盗は武器を放り捨てて跪きました。

    「お詫びいたします、混沌の君。世界が畏れ消し去ろうとした方。あなただとは思わなかったのです。あなたの行く末に祈りを捧げます。どうか」
    「謝罪を受け入れよう、世に搾取された暴君よ。君も都に行くかい?」
    「どうかそれだけは。羽ばたく背を持つ御方。儚く溶け散る雪を見つけて微笑む方。あなたが私の言葉に耳を傾けてくれるだけで、私は満足です。ですがあなたが真に耳を澄ますべきは私の声ではない」

     涙を拭ってやって、青年はその場を後にしました。丘を越えて、いよいよ都が目に映ります。
     ああ、朝陽を浴びる都の壮大なこと! 麗しの白、輝かしい白、青年を捨て去り忘れた都に、遂に青年は帰ってきたのです。
     弾む足取りで門をくぐると、都の住人が気さくに声をかけてきます。

    「へぇ、あんたの眼にはこの都が白く映るんだ。どんな白だい?」
    「あらゆる白さ! 真珠の白、花弁の白、雪片の白、太陽の白! 君の眼に映る都の色も聞いていいかい?」
    「緑さ! エメラルドの煌めく緑、春の山の色づく緑、たゆたう湖の深い緑!」
    「わたしは赤! 瑞々しい林檎の赤、ルビーの目映い赤、葡萄酒の沈んだ赤!」
    「僕は黄色! ひまわりの黄色、タンポポの黄色、落ち葉の黄色、それにもちろん街道のレンガ!」

     色とりどりの言葉が都に華を添えます。ああ、麗しの都。輝く七色の都。光の都。影を落とす都。彼を打ち捨てた故郷!
     青年はそびえ立つ城に足を踏み入れました。邪魔する者はいません。
     門を越え、応接間をくぐり、玉座の間に足を踏み入れると、白薔薇を象る椅子に物憂げに座る、彼の姫君が見つかりました。

    「おはよう、世界に愛された君。花びらの君。宝石の君。輝かしい光を一つ所に束ねた、ただ一人の君。また会えて嬉しいよ」
    「御機嫌よう、影の方。闇夜の君。世界に忌まれた怪物のあなた。またお会いできて嬉しいです」

     涙こそありませんでしたが、姫君の浮かべた笑みは悲痛なものでした。青年も笑みを消し、その足元に跪きます。

    「僕は帰ってきた。君の元へ。なのに、何が君の顔をくすませているの?」
    「移り気なあなた。次々に宝を見つけるあなた。わたしがいなくても平気なあなた。わたしはこの都が悲しいのです」

     姫君の微笑みは凍った水面に触れた雪のようでした。肌に痛みを残して過ぎ去る氷のように、姫君は言葉をこぼします。

    「誰もが見たいものを見て、見たくないものは見ない。この都は幻。この幸福は幻。揺らめく陽炎にすぎないのです」
    「そこにしか万人に訪れる幸福はないと、かつて君は決意したんじゃなかったかい?」
    「まちがいでした。誰もが幸せになれると思ったのです。でもこの幻は、万人に満たない人を忘れさせてしまうものでした。幸福でない人はこの都から追放されるのです。あなたのように。都合の悪い歴史のように」

     その微笑みの白さは、白薔薇の蕾のようでもあり、夜に浮かぶ月のようでもあり、また朽ちた亡骸の骨のようでもありました。
     そのつま先に唇を落として、青年は告げました。

    「君が望むなら、この都に黒を呼び戻そう。影を。暗闇を。過去を。罪を。悲しみや絶望、悲嘆や義憤、君が疎んだすべてを」
    「できません。みんな幸せなのに」
    「そのみんなに君はいない」

     青年は姫君を見つめ、抱きしめました。こぼれた吐息に耳を澄ませ、その香りに混じる涙を味わいます。

    「君が望まなくても、僕は君を幸せにしたい」

     こぼれ落ちる悲しみに、姫君はやっと涙を流しました。

    「わたしの幸福は、あなたでした」

     その夜、都に影が戻り、黒が戻り、都は世界で最も早く朝陽を浴びる場所ではなくなりました。
     けれど都は滅びませんでした。姫君も玉座におわしたまま。けれどその傍らに、美しくもなく逞しくもなく、されど誰より姫君を輝かしく見つめる青年が立つようになったそうです。
     いつかのどこか、明日の昨日。言葉が祈りを超えて、人が虹のたもとに辿り着けた頃。今はどこかの物語。
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    よーでる

    PROGRESS完!! うおおお、十数年間ずっと頭の中にあったのでスッキリしたぁ。
    こういうカイムとマナが見たかったなー!!という妄執でした。あとどうしてカイムの最期解釈。
    またちょっと推敲してぷらいべったーにでもまとめます。
    罪の終わり、贖いの果て(7) 自分を呼ぶ声に揺すられ、マナはいっとき、目を覚ました。ほんのいっとき。
     すぐにまた目を閉ざして、うずくまる。だが呼ぶ声は絶えてくれない。求める声が離れてくれない。

    (やめて。起こさないで。眠らせていて。誰なの? あなたは)

     呼び声は聞き覚えがある気がしたが、マナは思い出すのをやめた。思い出したくない。考えたくない。これ以上、何もかも。だって、カイムは死んだのだから。
     結局思考はそこに行き着き、マナは顔を覆った。心のなかで、幼子のように身を丸める。耳を覆う。思考を塞ぐ。考えたくない。思い出したくない。思い出したく、なかった。

     わからない。カイムがどうしてわたしを許してくれたのか。考えたくない。どうしてカイムがわたしに優しくしてくれたのか。知りたくない。わたしのしたことが、どれだけ彼を傷つけ、蝕んだのか。取り返しがつかない。償いようがない。だって、カイムは、死んでしまったのだから。
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    よーでる

    DOODLEどんどん敬語が剥げてますが語りじゃなく講義だからということで……
    あと大まかな国の特徴語ったらひとまず単発ネタ書き散らす作業に入れるかなぁ。
    ぶっちゃけお話の途中で世界観説明しようとすると毎回語りすぎたりアドリブで知らん設定出たりするのでその事前発散が狙い……
    巫術と法術について 今の世界の魔法は大きく分けて2種類あります。1つは精霊に語りかけて世界を変えてもらう魔法。王族が使っていたのがコレだね。
     精霊……王祖の末裔じゃなくても、精霊の声を聞きその力を借りれる人は増えています。それが龍王国衰退の遠因になったわけだけど、今はいいか。
     この方法は【巫術】と呼ばれています。長所は知識がなくても複雑な事象が起こせること。細かい演算は精霊任せにできるからね。代表的なのが治癒。肉体の状態や傷病の症状を把握するに越したことはないけど、してなくても力尽くで「健康な状態に戻す」ことができます。
     欠点は精霊を感知する素養がないと使えないこと。だから使い手は少ない。それと精霊の許しが出ない事象は起こせない。代表的なのが殺傷。自衛や狩りは認められてるけど、一方的で大規模な殺戮は巫術でやろうとしてもキャンセルされるし、最悪精霊と交感する資格を剥奪されます。
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    よーでる

    DOODLE公主は本来プリンセスという意味ですが、祭り歌では公国の代表という意味の言葉になってます。アデラさんは武闘家系ギャルです。
    ほんとは東西南北それぞれの話するやるつもりだったけど西と南はちょっとド鬱なのでまたの機会にします。子どもに無配慮に聞かせたら怒られるやつ……
    一通りの世界観の説明が終わったので、明日からはこの世界観で単発話を量産する予定です。
    公国の興り(2)凍てず熔けぬ鋼の銀嶺 道行く花に光を灯しながら、アデラティア公子一行は海に臨む丘にたどり着きました。丘に咲く白い菫を見渡して、公子は軽やかに宣言します。

    「ここにわたしたちの都を作りましょう」

     こうして光る菫の咲き誇る白き都コノラノスは作られました。号は公国。龍王国最後の公子が興した国です。
     公子は精霊の声を聴く神官を集め、神殿を築きました。血ではなく徳と信仰で精霊に耳を澄ませ、精霊の祈りを叶え、世に平穏をもたらし人心を守る組織です。
     国の運営は神殿の信任を受けた議会が行います。アデラは神殿の代表たる公主を名乗り、花龍ペスタリスノの光る花【霊菫(たますみれ)】を国に広めました。

     霊菫は花龍の息吹。花の光が照らす場所に魔物は近寄らず、死者の魂は慰められ、地に還ります。公国が花の国と呼ばれる由縁です。
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