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    よーでる

    推敲に超時間かかるタチなので即興文でストレス解消してます。
    友人とやってる一次創作もここで載せることにしました。

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    よーでる

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    毎日更新が途絶えたので数を埋めるために即興ネタ。プロローグっぽく。

    ##単発ネタ

    誰かを愛したかった魔女の話 昔々、まだ容易く世界が形を変えた頃。言葉が現を支配して、夢が影から這い出てきた頃。世界の端の端、地図に潜む怪物も近寄らない最果ての断崖に、それはそれは立派な魔女がおりました。
     髪は夜明けに輝く空の藤色、瞳は蝋燭の照らす葡萄酒の色、肌は夕陽を浴びる真珠のよう。腕は細く、それでいて脚は艶めかしく、思わせぶりに宙を蹴ってドレスの薄い生地をはためかせます。
     柔らかな胸と張りのある臀部を際立たせる引き締まった腰はコルセットをしていないのに優美極まりなく、その面差しは子どもたちが童話に夢見る姫君のよう。蜜蝋を塗った唇を震わせて、魔女は悩ましげに独りごちました。

    「ああ、誰かに思いっきり愛を注ぎたいわ」

     何年も何十年も何百年も、魔女は世界の隅っこで力を磨いてきました。そう、自分に愛を注いできたのです。魔力を鍛え、知識を積み上げ、美容も怠らず、体の隅々まで満足いくまで磨き抜いて、全身隈なくバランス良く整えて、そんな己を水鏡に見て、魔女は思ったのです。誰かに自慢したいと。
     いえいえ、別に責められた話じゃありません。言ったでしょう? 何百年もひとりきりで修行してきたストイックな方なんです。寧ろ謙虚だと言えるのではないでしょうか。何百年も経ってようやく承認欲求に駆られたんですから。

     魔女は軽やかに空へと跳んで、地面のひび割れた荒野に着地しました。どうせなら伸び代のある場所を愛そうと思ったのです。
     乾いた地に雨を降らせて潤します。草木を育てて枯れ果てたらまた育て、肥沃な土地に変えていきます。
     やがてしっとりした元荒野は、地面に花を山と咲かせて、魔女を讃えました。

    「ああ、そのかんばせの美しく、その御心の美しく、それよりもなおその行いの美しき方! あなたのお慈悲に感謝します。あるいは気まぐれに。
     遠い昔、遠い遠いあの頃、悪しき魔法使いに呪われて失った美貌をまた取り戻せるなんて。ああ、あなたのお恵みに尽きせぬ感謝を!」

    「その話、詳しく」

     元荒野の花畑から悪しき呪いについて詳しく聞いて、魔女は再び跳びました。ええ、一度称賛を浴びる心地よさを知ったら、もう単調な日々には戻れません。次なる賛美を求め、魔女は呪われた地を巡りました。

     望まぬ噴火に苛まれる山を宥め、その灰を固め鎮め、緑の芽吹く山肌を取り戻させます。「ああ、魔女殿、あなたの施しに感謝します!」
     嵐の過ぎ去ることなき海に晴れ間を取り戻し、脚が途絶えて久しかった流氷との再開に涙ぐませます。「ああ、魔女よ! 永久に途切れぬ友情をあなたに捧げます!」
     地面は腐り木々は歪み悪臭と毒素が蔓延する森を癒やし、健やかな木々と爽やかな緑の香りを甦らせます。「ああ、魔女様。あなたに忠誠を誓います。この森があなたを拒み、あなたを迷わせることは決してないでしょう」

     魔女は弾む足取りで次々に呪いを解いて大地を癒やして回り、もはや世界に悪しき呪いは一つもありません。
     良いことをしたと満足した魔女は、久々にゆっくりしようと世界の端っこに帰ろうとして、森の片隅に捨て置かれた、小さな赤子を見つけてしまいました。

     とても可愛い赤子でした。赤ちゃんはみんな可愛い? それはそうですね。でも一際、一等、素晴らしく、魔女にはその赤子が愛らしく見えました。
     思わず頬ずりしたくなるようなあどけない頬。ふっくらとしていてすべすべの肌。極上の絹よりなお柔らかく希少な産毛。ぱっちりした目が魔女を見上げて、にっこり笑います。
     どうしてこんな小さな子を捨てたのでしょう? きっとたくさん愛されていたのに。これが最後といっぱいお乳を吸わせてもらって、赤子はうとうとと産着にくるまれて、魔女を見つけてにっこり笑ったのです。

     ああ、見つかってしまった。魔女は独りごちました。ええ、何度も何度も繰り返されてきたこと。
     魔女の力は大きすぎて。魔女の愛は大きすぎて。ひとりの生き物に注いでしまうと、その子のために世界を滅ぼしてしまうのです。
     みんなきっと、悪しき魔法使いになんてなりたくなかったのに。世界に呪いを振りまきたくなんてなかったのに。心優しく善き隣人でありたかったのに。誰かを愛したいと思ってしまった。それだけだったのに。

     赤子を抱き上げて、魔女は微笑みかけます。何も知らない赤子は好奇心の赴くまま、魔女の指にもみじの手を絡めました。ああ、その手の小さなこと、柔らかいこと、あどけなく愛らしいことといったら!
     外気で冷えた肌が不憫で抱き寄せると、ぽかぽかと温かくて。魔女は己の胸に火が灯るのを止められませんでした。この子がどうして捨てられたのか。風が、木々が、大地が、大恩ある魔女に報いようと教えてくれます。

    「ああ、そうだったの」

     この子は誰もが待ち望んだ王となるべき子。でも欲深い現王が、その蜜を啜る佞臣たちが、この子を疎み、殺そうとしたのです。
     母はこの子を逃して死にました。心ある騎士たちも討たれました。この子は戦いの最中に藪の中に隠されて、眠っていたこの子は追っ手が去るまで気づかれなかったけれど、飢えて凍えて寂しく死ぬはずだったのです。

    「ゆるせないわ」

     ひと目見て心奪われたこの子への非道を、どうして許せるはずがあるでしょう? 止めようとしても止まりません。善き隣人でありたかった。心優しい存在でいたかった。ええ、どうしてでしょうね? どうしていつも、そんなちっぽけな願いが叶わないのでしょう?

     風に、森に、大地に、海に、空に輝く星々に、魔女は燃え盛る心のままに命じました。

    「わたしの愛し子を殺めようとする、すべての獣を撃ち殺せ。彼らに恵みを与えることは許さない。一抹の灰も遺さず焼き尽くし、煙さえ天に帰れぬ毒となるがいい!」

     今は昔、言葉が容易く世界を変えた頃。魔王と呼ばれるようになった魔女が、愛した子に討たれるまでの物語。
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    よーでる

    PROGRESS完!! うおおお、十数年間ずっと頭の中にあったのでスッキリしたぁ。
    こういうカイムとマナが見たかったなー!!という妄執でした。あとどうしてカイムの最期解釈。
    またちょっと推敲してぷらいべったーにでもまとめます。
    罪の終わり、贖いの果て(7) 自分を呼ぶ声に揺すられ、マナはいっとき、目を覚ました。ほんのいっとき。
     すぐにまた目を閉ざして、うずくまる。だが呼ぶ声は絶えてくれない。求める声が離れてくれない。

    (やめて。起こさないで。眠らせていて。誰なの? あなたは)

     呼び声は聞き覚えがある気がしたが、マナは思い出すのをやめた。思い出したくない。考えたくない。これ以上、何もかも。だって、カイムは死んだのだから。
     結局思考はそこに行き着き、マナは顔を覆った。心のなかで、幼子のように身を丸める。耳を覆う。思考を塞ぐ。考えたくない。思い出したくない。思い出したく、なかった。

     わからない。カイムがどうしてわたしを許してくれたのか。考えたくない。どうしてカイムがわたしに優しくしてくれたのか。知りたくない。わたしのしたことが、どれだけ彼を傷つけ、蝕んだのか。取り返しがつかない。償いようがない。だって、カイムは、死んでしまったのだから。
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    よーでる

    DOODLEどんどん敬語が剥げてますが語りじゃなく講義だからということで……
    あと大まかな国の特徴語ったらひとまず単発ネタ書き散らす作業に入れるかなぁ。
    ぶっちゃけお話の途中で世界観説明しようとすると毎回語りすぎたりアドリブで知らん設定出たりするのでその事前発散が狙い……
    巫術と法術について 今の世界の魔法は大きく分けて2種類あります。1つは精霊に語りかけて世界を変えてもらう魔法。王族が使っていたのがコレだね。
     精霊……王祖の末裔じゃなくても、精霊の声を聞きその力を借りれる人は増えています。それが龍王国衰退の遠因になったわけだけど、今はいいか。
     この方法は【巫術】と呼ばれています。長所は知識がなくても複雑な事象が起こせること。細かい演算は精霊任せにできるからね。代表的なのが治癒。肉体の状態や傷病の症状を把握するに越したことはないけど、してなくても力尽くで「健康な状態に戻す」ことができます。
     欠点は精霊を感知する素養がないと使えないこと。だから使い手は少ない。それと精霊の許しが出ない事象は起こせない。代表的なのが殺傷。自衛や狩りは認められてるけど、一方的で大規模な殺戮は巫術でやろうとしてもキャンセルされるし、最悪精霊と交感する資格を剥奪されます。
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    よーでる

    DOODLE公主は本来プリンセスという意味ですが、祭り歌では公国の代表という意味の言葉になってます。アデラさんは武闘家系ギャルです。
    ほんとは東西南北それぞれの話するやるつもりだったけど西と南はちょっとド鬱なのでまたの機会にします。子どもに無配慮に聞かせたら怒られるやつ……
    一通りの世界観の説明が終わったので、明日からはこの世界観で単発話を量産する予定です。
    公国の興り(2)凍てず熔けぬ鋼の銀嶺 道行く花に光を灯しながら、アデラティア公子一行は海に臨む丘にたどり着きました。丘に咲く白い菫を見渡して、公子は軽やかに宣言します。

    「ここにわたしたちの都を作りましょう」

     こうして光る菫の咲き誇る白き都コノラノスは作られました。号は公国。龍王国最後の公子が興した国です。
     公子は精霊の声を聴く神官を集め、神殿を築きました。血ではなく徳と信仰で精霊に耳を澄ませ、精霊の祈りを叶え、世に平穏をもたらし人心を守る組織です。
     国の運営は神殿の信任を受けた議会が行います。アデラは神殿の代表たる公主を名乗り、花龍ペスタリスノの光る花【霊菫(たますみれ)】を国に広めました。

     霊菫は花龍の息吹。花の光が照らす場所に魔物は近寄らず、死者の魂は慰められ、地に還ります。公国が花の国と呼ばれる由縁です。
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