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    miharu_2

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    最終回後。温情の手記がもしも残っていたら、みたいなところから着想した雰囲気な掌編です。いろいろ捏造…陳情令ベース。時間切れなので供養します。そのうち機会があったら書き直したいです。曦澄はできたてぐらいかなの感じ。

    #忘羨
    WangXian
    #曦澄

    「温寧からの文だって?」
     そうだ。頷いた藍忘機は文箱をあけて取り出すと魏無羨に差し出した。
     かつて温氏の若君であった頃であればともかく、今の温寧が文を書く様がうまく想像ができぬまま手渡された文を広げる。雲深不知処に戻た藍思追が持ち帰ったもので、帰還の挨拶の折りに手渡されたという。
     内容は乱葬崗に残された藍思追を引き取り藍姓までもを与えて育てた事への礼が短く綴られており、最後にひとつ思い出したことがあるとして一文添えられていた。
    〝姉は日々の記録をつけていたから、もしまだどこかに残っているなら魏の若君の金丹に関することも細かく記録されていると思う〟
     温氏の残党狩りが進む中、夷陵監察寮に残されたままの大量の医術書はまるごと藍氏が引き取ったが、あの頃は雲深不知処の立て直しの方が急務であり、温情ほどの腕利きの医師もまた居なかったこともあって整理の手が及ばぬまま蔵書閣の片隅に放置され、そのままいつしか忘れられていた。
    「お前がここに戻ることがあれば、共に確認しようと思っていた」
     それらしき冊子があることまでは書簡を受け取ってすぐに確認済だと付け加えると、魏無羨はどこか気乗りしない表情で僅かに眉を寄せ広げた文を畳んだ。
    「それってつまり、他人の日記を勝手に覗き見するってことだろ?……趣味が良いとは言えないな。俺なら嫌だ」
     これまでに何度か共情で他人の過去を覗かせて貰ったことはあるのだから大して違いは無いようにも思うが、故人とはいえそれなりに関わりのあった知人のものと思うとやはりどうにも気が引ける。
    「魏嬰」
    「わかってるよ。出来ることは全部やってみる、だろ?」
     これからもお前の隣で共に歩むために。金丹を失い限りなく只人に近い肉体の魏無羨が共に生きるために、再び結丹する方法を模索する。遊歴から雲深不知処に戻った夜二人で誓いあった事だ。
     とはいえ医術の領域には二人とも詳しくはないためどこから手をつけたものかと思い巡らせていたが、頼りになる道侶はそんな話をする前からあたりをつけていたということだろう。
     温情の残したものから何か見つかることがあるとすれば、それはきっと小さくとも有効な手掛かりのひとつになるに違いなかった。
    「……許してくれるかな」
    「おそらく」
     頷いた藍忘機に笑って鼻を擦った魏無羨は、明日早速行ってみようかと亥の刻を知らせる鐘に立ち上がった。
     ――翌朝、手伝いに呼んだ藍思追と藍景儀に医術書の整理を任せると温情の手記のみを抜き出して、備え付けの香机の端に積み上げる。一冊ずつ手に取ると内容を確認する。
     夷陵に移る以前の記録から何冊も手記が残されているのは、寮主としての任が臨時ではなく正式なものだったからだろうか。当時の温氏の勢いを思えば彼らがあのような滅亡の未来を予測していたわけもなく、彼女も長期滞在するつもりで岐山より移ったものと思われた。
     静かな蔵書閣に、紙を捲る音だけが響く。
     手記のほとんどは読み込んだ医術書に関する所感や薬の調合の記録、そして温寧に関する記録で薬に関しては温情ほどの効果は望めないにしろ今後の役に立ちそうなものが数多く記されている。
     彼女が遺した宝は追々改めて有り難く整理することとして、検分を始めること十冊を数えようかというところで、時系列はようやく蓮花塢から三人で落ち延びた時期にたどり着いた。
     彼女にとっても大きな出来事であったのか、夷陵への赴任を命じられた経緯なども記録があり、その当時を思い出すとじくりと胸が痛んだ。
    「藍湛?何か見つけたのか」
     音が止まったことに気づいて声を掛けると、無言で差し出されたのは冊子に挟まっていたらしい二つ折りの料紙だった。
    「……これって」
     弾かれるように藍忘機の顔を見つめると、優しく頷いた彼は手元の冊子を机上を滑らせるように寄越すと、此処だ、と人差し指でトンと叩いた。



    「あいつに渡してくれませんか。澤蕪君からなら、多分素直に受け取ると思う」
     ある日、夕餉を終えた頃にひとりひょっこり寒室に現れた魏無羨は、黄ばみも見える古い料紙を差し出してきた。
     蔵書閣で熱心に何かを探している弟たちを見かけたのはつい先日のこと。夷陵から引き取った書物だと聞いておおよその目的は察したものの、広げた料紙に記されていたのは意外な内容だった。
    「これは食谱?」
     にこりと頷いた魏無羨によれば、蓮花塢を攻められ夷陵監察寮に匿われていた時期、江厭離は食事をつくる手伝いをしていたらしい。
     三品ほどの作り方が細かく記されており、温情の記録にもいくつか雲夢の料理を教わったと記載があって、その時に書かれたものだろうと。
     雲夢料理の作り方であれば、現在の主である江澄にとってはさして珍しくもないのではなかろうかと思ったところで、魏無羨は微笑んで続けた。
    『師姉の筆跡なんだ。これはあいつが持つべきものだと思う。金凌にも師姉の味が食べさせてやれる』
     まぁ全く同じ味ではないかもしれないけれど。作り方は同じであっても、すでに遠くなった思いでの再現は難しいものだと寂しげな顔をしたかの人は確かに記憶にあって、確かにこれは江澄に渡されるべき記憶だと頷いた。
    「承知した、私が預かろう。君たちの探し物も良い成果があったようだね」
     驚いた顔をする魏無羨に弟がご機嫌であったようだからと笑ってみせれば、それだけで分かるのは貴方だけだと呆れられる。
    「……聞かないんですね。江澄のことも」
     いつもの人好きのする笑みの中にどこか厳しさを包んだ視線を寄越す彼には思わず苦笑した。言わんとしていることは十分伝わって、言葉を探して少し考えてから、口を開いた。
    「そうだな……知りたいと、思う。彼の口から聞ける日が来たら良い、とも」
     生まれ変わって改めて見る世界は色で溢れていて、光の側には影があり、僅かに角度が変わるだけで表情が変わることを今更ながらに気づく。
     額縁越しに眺めていた景色はそのすべてが嘘では無かったかもしれないが、勝手に落款を押してしまった世界はそれ以外のものには見えないから。
    「そんな話をしてやってもいい相手に、なれるだろうか」
     答えになっているかな。黙って耳を傾けていた魏無羨は、頭の後ろで手を組む仕草をしてにっかと笑った。
    「そんなに難しい奴でもないと思いますけどね。まぁ口実も手に入れた事だし、息抜きしてきてください。最近根を詰め過ぎだって藍湛も心配してましたよ」
     お土産もよろしくと調子よく付け足されたのには流石に笑って頷いた。
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