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    miharu_2

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    miharu_2

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    フォロワーさんのお誕生日のお祝いに書いたもの。
    ほんとは曦澄前提の叔父甥になるはずだったんだけど肝心の金凌さんでてこなかった。あんまりお祝いっぽくなくてごめんなさいだったやつ!

    ##曦澄
    #曦澄

    龍眼 数日掛かりの夜狩からようやく不知処の山門まで登ってきたところによく知る背中をみつけて、へとへとの背をしゃきりと伸ばして景儀と並んで拱手する。
    「沢蕪君、ご無事のお戻り何よりです」
     ゆったり振り返った人は微笑んで、ひとつ頷いた。確か政務で十日ほど留守にするという話であったはずだが、どうやら戻りが同じになったらしい。
    「ああ、ちょうどよかった」
    「……?」
    「二人とも、あとで私のところに来なさい」
     諸々落ち着いてからでよいから、と付け加えた藍曦臣は門番にひとこと労いの声をかけて先に門を潜った。
    「寒室に来いってことだよな、俺たち何かしたっけ?」
     引き攣った表情の景儀に袖を引かれたが、思い当たるものはなかった。直接の師と仰ぐ含光君ならともかく、宗主直々の呼び出しとなると相当のことだ。
    「いつも通りのようには、みえたけれど」
    「だから!かえって何の話なのかが怖いんだろぉ」
     仮に〝あの〟沢蕪君の笑みが消える程のことを仕出かしてたとしたら、俺たち揃って今日が命日だぞ。
     ちょっと失礼な言い様ではないかなと思いつつ、しかしその感情の読めなさという意味においては流石は兄弟で、師とよく似ている御方ではある。
    「心当たりが無いなら、これ以上は考えても無駄だよ」
     ゆっくりでいいとは言われたものの、落ち着いてはいられようはずもなく、早々に報告を済ませて綺麗な校服に着替えて二人、恐々と寒室に向かった。

    「早かったね。急かしてしまったかな」
    「……いえ」
     まぁ座りなさいと促されて、顔を見合わせてそれぞれ席につく。おもむろに茶器を手にした曦臣は一客ずつ目の前においた。姑蘇では珍しい甘い香りが漂う。
    「首尾はどうだったかな」
     たまたま金氏の一行に遭遇して金凌と共闘をしたこと、また弓の腕前が上がっていて危ないところを助けられた話を掻い摘まんで報告すると、黙って耳を傾けていた人は目を伏せて、にこりと笑みを刻んだ。
    「なるほど。負けずにしっかり励まなくてはならないね。……さて、本題だが」
     結局なぜここに呼ばれたのかはこれまでの流れではどうも判然としないが、どちらかと言えば機嫌がよくみえて、少なくともお叱りの呼び出しではないようだ。
     振る舞われた茶に一口だけ口をつけて待つと、すっと袖から取り出された乾坤袋からこんもり小さな茶色い実が盛られた竹編みの籠が出て来た。
    『龍眼!』
     枝付きの龍眼は葉の様子を見るに、収穫されてから時間はそれほど経っていないようだ。甘みが強く瑞々しい食感を想像して景儀と二人思わず口元が緩む。
    「立派だろう?江宗主から君たちに、と預かってね。新鮮なうちに二人でいただきなさい」
     足が速いからと急かされて戻ったが、ちょうどいい頃合に届けられて良かった。
     ほぼ同時に山門に着いた様であったのに道すがら出会わなかったのは、どうやら徒歩ではなく御剣の術で飛んで戻ったからだと分かった。
    「沢蕪君も、少しいかがですか?」
     なぜ江宗主からなのかは分からなかったが、有難くいただくこととして。新鮮なうちにと御剣で戻ってくれたという話であるなら、お裾分けもすべきだろう。
     ひと房手に取ると曦臣は何を思いだしたのかくすりと笑ってやんわり押し止めた。
    「私はもう頂いたからね」

    「金凌がよく世話になっているようだな」
     ふよふよどこぞから飛んできた金色の伝令蝶が江澄の指先に止まり、ふっと消える。
     一体何の話かと思えば、思追らと金凌が夜狩で鉢合わせたらしい。彼らが仲良くしているという話は魏無羨などからも時折耳にしており、共に高め合う仲間が出来たらしいことは我が事のように嬉しく思っていた。
    「こちらこそ。負けじと一層励んでいるようだね」
     しばし若者談義に花を咲かせていると、良きものが手に入ったからと家僕が籠を手に現れた。――龍眼だ。
    「これは珍しい」
     有難く枝からひとつもぎ取って、つるんと剥いてそのまま口に運ぶ。よく冷やされて弾力のある透けるような実を口の中で転がすと甘みが広がって、思わずそのまま二つ目に手が伸びた。
    「フン。欲という欲が無い沢蕪君も、どうやら果実には目がないようだな」
    「……あなたも人が悪い」
    「ま、そのぐらいしか楽しみが無いなら仕方がないが」
     雲深不知処の食事と言えばとにかく味が薄く質素で、時々しか口に入らない果実の甘みに弱い者は多い。
     特に龍眼や茘枝のような足が速い果物は生を口にできる機会が少ないから、物珍しさも相まってちょっとしたご褒美の様な存在だ。
     そんな話をすると腕を組んで少し考えた江澄は、何かを思いついた顔をして籠を手に取った。
    「折角だ、二人にも食わせてやるといい」
    「ここから運んだのでは傷んでしまうよ」
     足が速いという話をしたばかりであるのにと指摘すると、江澄はニヤリと好戦的な顔をした。
    「沢蕪君ともあろう者が弱気なことだ。あなたなら飛べばすぐだろうが。よし、そうと決まれば早く発て」
    「……ええ?」
     そんな、無茶苦茶な。
     言い返す間もなく善は急げと籠をぐいぐい押し付けてきた江澄に押されて、袖口から乾坤袋を取り出して籠ごとまるっと手の内に納めた。
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