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    takami180

    @takami180
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    曦澄のみです。

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    続長編曦澄10
    あなたに言えなかったことがある

    #曦澄

     魏無羨は結局、藍曦臣からの伝言とやらを口に出さなかった。尋ねても、「同じようなことは伝えた」の一点張りである。
     江澄は聞き出すことを早々に諦めた。片付けを終えて私室に戻る、その途中で行き先を変えた。
     泊まる者のいない客坊は、当然なら静かである。闇に沈む室内を見回しても、誰かの名残は見当たらない。
     藍曦臣の滞在中、彼はいつも江澄の私室にいた。茶を楽しみ、楽を合わせ、碁を打った。
     それでも、ここは彼が使っていた部屋である。
     江澄は暗闇の中を進み、牀榻に腰掛けた。
     藍曦臣はここで何を思っていたのだろうか。
     彼が幸福を味わっていたとは思えない。魏無羨を遣いに出すくらいである。江澄の気持ちはすでに気取られているのではないだろうか。
     ふいに窓からぼんやりとした光が入った。細い月が山の端から顔を出している。
     江澄はごろりと寝転がった。
     聞きたいことがある。あの夜、藍曦臣が残した言葉の意味がいまだに理解できていない。
     いったい何に対しての礼を言われたのか。
     藍曦臣は微笑んでいたのに、悲しげだった。
     苦しめたいわけでも、悲しませたいわけでもない。
     魏無羨の言った「別れたいのか」が耳によみがえった。
     江澄はがばりと体を起こした。
     肝心の伝言は聞けなかったが、もしかして、別れを告げられているのだろうか。
     少しでも長く一緒にいたくて、嘘をついた。触れてもらえるのが嬉しかった。昼寝をしてしまったあの時のような、ゆるやかに流れる時間を過ごしたいと思った。
     両手で顔を覆う。
     受け入れなければならないのだろう。悪いのは藍曦臣ではない。
    (嫌だ)
     別れたくない。真実を話せば続けられるのか。もしそうなら、全部話してしまってもいい気がした。
     江澄は急いで私室に戻った。
     決定的な言葉を聞いてからでは遅い。その前でなければ。
     ——三日後にそちらへ行く。一時で構わない。時間を作ってほしい。
     二日あれば急ぎの事案は片付けられる。
     翌朝、江澄は文を魏無羨に託した。魏無羨は軽い調子で文を懐にしまうと、藍忘機と共に舟で蓮花塢を出た。藍忘機はわざわざ迎えのためだけに来たらしい。
     遠ざかる舟影を見送ってから、江澄はしばらく湖畔を歩いた。
     片手が空いているのが寂しい。
     握り返してくれるぬくもりがほしい。
     水鳥が一羽飛び立つ。
     江澄は湖に背を向けて、屋内に入った。やるべきことが山積みだった。
     
     
     雲深不知処も盛夏となればそれなりに暑い。
     江澄は手で顔をあおいだ。蔵書閣の書物はいくら読んでも興味深く、彼は許可を得て写本をしていた。
     江澄が山門に到着したとき、迎えに出たのは若い仙師だった。藍宗主は外出し、夕刻には戻るらしい。
     魏無羨は文を届けてくれたようだが、時機が悪かったのはいたしかたない。
     思い返せば、去年の夏、ここで藍曦臣と西瓜を食べたのがはじまりだった。
     今日も江澄は土産に西瓜を持参した。魏無羨は跳ねて喜んでいた。
     一年も経ったのか、と妙に感慨深い。
     とりもなおさず、藍曦臣が閉関を解いてからも一年ということになる。その一年を、藍曦臣はよく江澄と過ごしていた。
     江澄は自嘲した。自分の状況を第三者としてみれば、何を迷うことがあるのか不思議に思うだろう。それでも、ここに至ってまで、江澄は不安を拭えない。
     心の内を開け放した後で、断られたら、無理だと言われたら。
     江澄は江家宗主である。悲しみに浸り、政務を放棄することは許されない。しかし、しばらくは泣き暮らすことになりそうだ。
     やにわに、雲深不知処には不釣り合いなざわめきが聞こえた。何事かと様子をうかがっていると、廊下をやってくる藍曦臣が見えた。夕刻にはまだ大分早い。
    「江宗主、火急のご用とお聞きしました。お待たせして申し訳ございません」
     宗主として相対され、驚きが先に走った。次いで胸に痛みが差した。もう遅いのかもしれない。
     江澄は首を振った。
    「忙しいところ、申し訳なかった。急ぎというわけではなく」
    「ああ、そうでしたか」
    「すまない、行き違いがあったようだ。御用があるなら、俺はここで待たせてもらうから」
    「お気になさらず」
    「そうか、ありがたい」
     藍曦臣が微笑む。静かでやわらかないつもの笑顔だ。
     江澄は急いで机上を片付けた。全く進まなかった写本は、いつかほとぼりが冷めたころに原書を借りに来よう。
    「御用件をおうかがいしましょう」
    「……個人的な、話がある。あなたに」
     江澄は目を合わせられないままだった。
     藍曦臣は「それでは」とうながした。
    「寒室へ、どうぞ」
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     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
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    1437

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     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
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    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
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    「江宗主、今日はお越しいただきましてありがとうございました」
    金凌が丁寧に拱手をする。周りの目がある時は血縁であると忘れろ、と何度言っても叔父上、叔父上ときゃんきゃん吠えていた姿が嘘のようだった。それでも、よく出来たでしょ、と言わんばかりに緩む金凌の口元を認めて江澄は薄く笑った。
    「この度は戴冠おめでとうございます。江家は金宗主を力の限りお支えします」
    江澄は久方ぶりに眉の皺が解ける感覚を得ながら屈託なく笑みを返す。金凌は江澄の聖母のように盛り上がった頬肉を見てわずかに目を瞬かせた後、満面の笑みを返す。見慣れない江澄の表情に金凌の隣に控えていた家僕が目を見張った。
      金凌は確かによく頑張ったと思う。金光瑤の一件を経て、財と力のある金家を引きずり落とす理由を漸く見つけた他家の横槍は酷いものだった。助言すら許さなかった金光善の時代を思えば 7443

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    SPUR ME尻叩きその②

    江澄が所属しているのは映画観賞同好会(好きな時に好きな映画を見て好きな時に感想を言い合う)です
    肝試しに行ったら憧れの先輩とお清めセックスをすることになった話②時刻は21:00。大学のキャンパスのある市街地から車で約30分の郊外。参加メンバーのSUVでやってきたその廃墟は、遠目に見た瞬間から「ヤバイ」の一言に尽きた。
    そこはかつてそれなりに繁盛していたが、数年前に突然廃業した元病院なのだという。建物の外観は、壁が崩れているとか蔦が生い茂っているとか、そこまで激しく朽ちている訳ではなく、むしろつい最近まで使用されていたもののように見えるのだが、纏う雰囲気が尋常ではなく「ヤバイ」。人の出入りもなくなって久しいというが、やけに生々しい空気が建物にまとわりついているようで、それがなんとも言えない不気味さを醸し出している。江晩吟は声にこそ出さなかったが、その類まれなる美貌の顔面を、「うげぇ」という正直な感情を抑えることなく思いっきりしかめていたのだが、どうやらこの場の空気の異常さを感じているのは江晩吟と、件の同級生だけであるようだ。ほかのメンバーは、「思ったよりもきれいじゃん」だの、「ちょっと雰囲気足りなかったかなー?」だの、「やだ―虫たくさん飛んでる~」だの、まったく周囲の空気の異様さには気が付いていないようだった。
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