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    ltochiri

    二次創作いろいろ

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    ltochiri

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    『羽子板』をテーマにした斑あんです。加筆修正しました。
    1月にとったアンケートで1位だった結果を反映しています。回答ありがとうございました!

    ##小説
    ##斑あん
    #斑あん
    speckles

    エラーの理由 朝の公園に、軽やかな音が響く。
     宙を舞うのは、四枚の鳥の羽根が付いた黒色の球体。
     コン、と音が鳴って、緩やかなカーブを描く。
     そしてまたコン、と鳴り、来た軌道を戻っていく。
     打ち返すときに、羽子板と球体が当たって音が鳴るのだ。
     羽子板にはレトロと言うよりもはや古風な絵が描かれている。きっと昔から使われてきたのだろう——ところどころ絵の具が剝がれている。
     そんなレトロな道具を使って遊んでいるのは斑とあんずだ。二人とも正月らしく、華やかな和服姿だった。近くの公民館で着せ付けてもらったのだが、今は動きやすいようにと、袈裟懸けにしている。
     ドラマの登場人物に見立てるなら、斑が大名家召し抱えの料理人で、あんずはお転婆な村娘といったところだろうか。 
     そんな二人の間を、ゆっくりと羽根が跳んでいる。
     斑は右手に握った羽子板で、自身に向かってきた羽根を下からすくい取るようにしてついた。手首のスナップを効かせて高く上がった羽根は、落下地点の予測を難しくさせた。
     目測を見誤ったらしいあんずが急に駆け出した。後ろで一つに結った髪が激しく揺れる。
    「わっ!」
     健闘空しく、空振りだ。ぽとりと静かな音を立てながら羽根が地面に落ちた。あんずはその流れで体勢を崩しかけたが、転んで着物が汚れるのを避けようとしたのか、その場で足を踏ん張った。
     せっかく着付けてもらったのに、すっかり乱れてしまっている。
     ちらりと見えた足首に、目に毒だなあ、なんて。
     そんな本心は隠しながら、斑は嬉々として言った。
    「いやあ、ラリーが続いて熱くなりすぎたなあ。つい本気になってしまった」
     そして手にしていた羽子板から筆に持ち替えると、あんずに近寄った。彼女の両頬にはすでにバツ印が書かれている。
    「か、勝てない……」
     あんずは拳を握りしめて悔しそうにしている。これで三連敗だ。
     そうそう、その調子。もっと負けん気を出してほしい、と斑は思う。
     厳しい寒さのなか枯れ木の下で負けずに咲く野の花みたいに。
     空は晴れていた。ときおり吹く風は冷たいけれど、この格好で動き回っているせいか、不思議と寒さは感じなかった。
    「さあさあ、おとなしく罰を受けなさい♪」
     斑は快活に笑う。墨汁を染み込ませた筆先があんずの顔に迫った。
    「うぅ」
     その筆の冷たさからあんずは目を閉じる。すっ、と筆を動かせば、閉じた目に力が入る。
    (それにしても)
     あんずが見ていないのをいいことに、斑はうっそりと目を細める。
     毎度同じリアクションなので、そろそろ指摘した方がいいかもしれない。
     君を好きな子にとっては、それはいわゆるキス待ち顔に見えるだろう、と。
     こんなに間近に無防備な唇があるのに、奪わない自分の理性を褒めてやりたいくらいだ。
     だけどそれも、恋人らしいムードがないからかもしれない。
     ほのぼのとした雰囲気が漂っていて、気を許してくれているのだと思えば嬉しいが、警戒心がなさすぎるのもいかがなものかと斑は思う。
     新年の澄んだ陽光がそのような空気にさせているのだろうか。
     穏やかな正月遊びに耽る二人は、あくまで幼なじみ同士だと、まるで言い聞かせるみたいに。
     それならいっそ——。
     不意に筆が意図しない方向に動いた。あんずが身じろぎしたのだ。
    「んん!? どうしたあ、目を開けたら危ないぞお」
     とても勢いのいいバツ印が書けてしまった。
    「すみません、少し寒気が……」
     手を出そうとした瞬間に察知された。心配せずともあんずの防衛本能はしっかり働いているらしい。
     斑はため息をひとつ吐くとあんずの右手から羽子板を奪った。
    「汗が冷えたのかもしれない。風邪を引かれたら困るから、そろそろ公民館に戻ろう。あぁ、でもその前に顔の墨を落とさないと——」
    「今更ですよ。通行人にも町の人にも見られてますし。そのまま中の洗面所まで行きます。あそこなら鏡もあるので」
    「あんずさんがそれで構わないなら……」
     苦笑しながら斑はあんずの隣を歩いた。自分が無傷なのが反対に痛い。一度くらい手加減すればよかったかと、いまさら思っても仕方ないことを思う。
    「楽しかったです。もう少しうまくなれたらいいなって思いますけど」
    「必要ならいつでも言ってくれ。ママが手取り足取り羽根付きのコツを教えてあげよう☆ 君は生徒で俺は先生だ」
     あんずは吹き出して笑った。ケラケラと明るい声が耳に心地よくて、斑は思わず笑みをこぼした。
    「おままごとじゃないんですから。先輩のままでいいんですよ」
     思わぬ回答に、斑の足が止まる。言った本人に自覚はなさそうで、すたすたと歩いていってしまう。
     かたわらで野の花が風に揺られていた。
    「うん、そうだなあ」
     好きだと伝える代わりに素直に彼女の意見を肯定した。
     いつの日か伝えられる、そんな時がくるのかもわからず、斑はただ、穏やかに天を仰いだ。
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