朝起きるとヴェントルーは隣にいなかった。耳をそばだてると台所の方から遠慮がちな水音が聞こえてくる。 ゆっくりと身を起こすと素肌にシーツが流れる感触と下腹部の気だるげな倦怠感が頭をもたげてきて昨日の晩を思い起こさせた。もう少し寝ていたいが空腹が限界だ。ちょうどおいしそうな匂いも漂ってきて、ベッドの下に落ちていたパンツとルームワンピースを拾って身につける。
リビングの扉を開くとヴェントルーがおはようと声をかけてきた。
「オムレツを焼くが何を入れたい?」
「パセリ刻んだやつ」
「パセリか…今切らしてるからチーズでいいか?」
「ああ」
用意された皿にはルッコラと焼いたベーコン、小鉢にはヨーグルトとブルーベリーが入っていてどこから見ても完璧な朝食だ。
食卓に着くと紅茶とコーヒーどちらがいい?と聞かれたので紅茶と答える。手を合わせてからオムレツにスプーンをいれると溶けたチーズがはみだし、口に入れると解けていった。
「前から思ってたんだが」
「なんだ?」
「何でやった後の朝は洋食なんだ?」
紅茶を口に含んでいたヴェントルーが吹き出す。
「朝から何の話をしている??!」
「朝だからだろう?!」
「そうだが、そうじゃない!」
「いつも朝は和食だろ?前やった時はパンケーキがでてきた」
「別に、ただの偶然だ。気まぐれだ」
「そうか?その前はピザトーストで、その前はサンドイッチで、その前は…」
「もうよい!それ以上言うな!」
わなわなと震えだしたヴェントルーを見てさすがにやり過ぎたと反省する。顔を覆うヴェントルーに「オムレツおいしいぞ!」と声をかけるが反応がない。
「…少し浮かれるのも許されんのか」
ヴェントルーはぽつりと呟く。
「お前浮かれてたのか?」
「うるさい!」
「浮かれると洋食になるのか?」
無言で皿を下げようとするので断固拒否する。
「…浮かれるとはまた違うのかもしれない」
取り上げられる前に食べてしまおうと口いっぱいに頬張ったままヴェントルーを見上げる。
「ただ、いつもの朝と違う朝にしたかっただけなのだ」
「ほお」
「にやにやするんじゃない」
「ヴェントルーのごはんはいつもおいしいぞ」
「当たり前だ」
「ただパンだと力が出ないから米にしてくれるとありがたい」
「よかろう」
「あともう少し乱暴にしてほしい」
「何の話だ?!?」
「夜の話だ」
「」
「丁重に扱いすぎなんだお前は。あと料理と同じぐらいレパートリーを増やせ」
「…次から朝は茶漬けでいいか?」
「よかろう!」
「皮肉が通じんやつだな!あと下着をつけろ!食事の時に話す話題を選べ!」
次から朝食はオムレツとおにぎりになった。