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    妄想の産物…

    #降志
    would-be

    「もっと良い人がいるから、ね」と、遠回しに振られた。

    あれから5年。振られたのに関係を繋ぎ止めたくて、本業の傍らたまに捜査協力をする未練たらしい女。密かに持ち続ける恋心を悟られないように、ずっと奥底に蓋をしてしまい込んで5年。

    もう28になる。頼んでもないのにお見合いを提案される年頃。何度も何度も同じことを言われるのに嫌気が差したし、結婚したら彼を忘れられるかもと酷いことを考えて、受けた。最低な女。

    今日は私の結婚式だそう。
    普通の女性ならドレスを選んだり、披露宴の内容を考えたり、ワクワクするイベントのはずなのに…
    呼べる人がいないから、と理由をつけて相手の家族だけを招待した小さな結婚式。ドレスは借りると高くつくから、安いものを買った。
    締付けのきついインナーとドレスを着せられ、化粧を施され、髪を結われ、鏡に写る自分自身はまるで別人の様。

    ふと鏡から視線を横に逸らすと「食事会が終わったら出しに行こう」と言っていた、婚姻届がそこにある。
    これを出したら結婚してしまう…
    そう思うと胸が苦しくなって、上手く呼吸ができなくて、胃から何かが出てきそうになる。彼を忘れたくて結婚すると決めたのに、私の中に残る彼への思いが溢れて止まらない。5年も蓋をしてたのに。

    荒い呼吸を整えることもなく、勢いに任せて私はその婚姻届を手に取りビリビリに引き裂いた。高いヒールを脱ぎ家から履いてきたスニーカーに履き替えて、スマホを握って、控室を出る。2階建ての小さなレストランなのに、上がってくるエレベーターを待つ時間すら惜しくて、ドレスを掴んで裾を上げ階段を降りる。安モノだから薄くて助かった。走って出ていく私を見つけたスタッフが大声で叫んでる。無視してレストランを出て、小さなお庭を抜けて、大通りに向かう。急に出てきたウェディングドレス姿の女に驚いて何人もの歩行者が私を見るけど、気にせず手を上げてタクシーを拾う。

    「米花中央病院まで!」
    ドレスを手繰り寄せてタクシーに乗り、行き先を告げる。この運転手は家族が危篤になった花嫁とでも思っているだろうか。ロータリーの手前で止めてもらい、スマホケースに忍ばせておいた万札を渡し、車から降りる。

    ドレスを掴んで裾を上げてまた走り出す。
    走って、走って、さっきとは違う荒い息を感じて。気持ちが高ぶって涙が出てきた。新郎と家族への申し訳無さもあったかもしれない。汗と涙できっとひどい顔になってる。せっかく結ってもらった髪も崩れてきた。

    病院から5分くらいの狭い路地裏に彼のアパートはあった。現役警察官の住むところらしからぬアパート。私は彼が5年前に住んでた家しか知らない。引っ越してしまったかもしれないけど、そこしかゆく宛がない。そのお粗末なアパートにはオートロックもなにもない。外階段を駆け上がり、彼の部屋のインターホンを何度も鳴らし、おまけにドアも叩く。

    ガチャっと音がして開いたドアの先には、いた。私の格好を見て、大層驚いた表情を浮かべる彼が。
    彼を見たら涙がポロポロ出てきて、嗚咽が止まらなくて、言葉を紡ぐことができない。言葉が出ない代わりに、一歩近づき彼の胸に抱きついた。

    でも感の良い彼はすぐに何が起こったか気づいたようだ。彼の温かい手は心地よく背中に当たり、「君って子は…、本当に困った娘だ。志保」と聞こえてくる。

    ゆっくりと閉まっていたドアがカチャリと音を立て、世界と二人を隔てた。
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