そういうところが 魔法舎の中庭で猫と戯れるファウスト様を見かけた。ふと見えた少年のような気の抜けた顔に思わず零れた言葉に返事が返ってきた時は心臓が飛び上がるほど驚いたのだ。
「かわい……」
「は?」
間髪入れずに返ってきた声音が剣呑だったのと険しい顔に縮み上がってその場で鋭く「ご無礼をお許しくださいッ!」と返事をした後脱兎のごとくその場を逃げ出したことがあった。その後しばらくは極力顔を合わせないようにして逃げ回っていた。
「確かにそんなこともあったな……」
ふと思い出したようにその話題を出されて口を引き結ぶ。今にして思えばそんなに目くじらを立てることではなかったし、気の抜けた瞬間を目撃されて気恥ずかしかったから過剰反応しただけなんだと分析もできるが、如何せんあの頃は余裕がなかった。周りにも信頼が置けずにピリピリしていた時期でもあったし、誰かに侮られることを酷く警戒していた。特にリリーに対しては毅然とした態度で接しなければと息巻いていた頃でもある。だがそれを抜きにしたって思うところはあったんだ。
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