猫の日 朝、聶明玦が目をさますと、かたわらにあるはずの弟の気配がなかった。敷布のくぼみには、まだほんのりとぬくもりが残っている。
着替えて弟を探しに行くよりも先に、明玦の目が寝台のある部分にとまった。天蓋のついた広い寝台の足もとがもりあがっている。明玦が布団をめくると案の定、弟の聶懐桑がそこに寝ていた。
――まるい。
ここまでまるまっていると、呆れるというかおもしろくなってしまう。
懐桑は細いからだを胎児のように小さくして、まるくなっていた。犬や猫が鼻先を毛皮にうずめてまるくなっているのにも似ていた。
明玦が背中にそって手をすべらすと、肉づきの薄いからだは背骨の所在がよくわかる。肩にかかる髪をはらい、背をなでているうちに、もぞもぞと身動きして懐桑が目をあけた。
「大哥……?」
はっきりしない声でつぶやき、懐桑は明玦のあぐらをかいた太腿の上にあたまをのせた。筋肉のついた逞しい脚のやわらかい部分を探して、あたまの位置をずらした。
「懐桑がそうしていると、猫みたいだな」
「そう?」
明玦はくしゃりと目じりにしわを寄せて笑った。
「おまえが猫だったら、好きなときに寝て起きて遊んで――いや、いまとあまり変わらないか」
「ひどいよ、大哥」
懐桑はむくれて兄を見上げた。寝乱れてはだけたままの寝衣から、胸もとだけでなく、さらに奥まで見える。夜狩にも行かない懐桑の肌は白く、傷ひとつなかった。
喉の奥で低く笑い声をたて、明玦は猫にやるかのように懐桑の顎の下をくすぐった。
「懐桑がふわふわの小さな毛玉みたいな子猫になったら、いつでも大哥のふところに入れておくのにな」
懐桑は気持ちよさげに目を細めた。
「猫ね。猫になるのもいいかもしれない」
明玦が親指の腹で懐桑の唇をたどると、懐桑は指に軽く歯を立てた。白い歯がのぞく。
「こら、痛いぞ」
「猫は気まぐれなんだよーだ」
ゴロゴロと喉を鳴らしたいようすで、懐桑はあたまを明玦の大きな手へすりつけた。