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    momo_kz12

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    momo_kz12

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    続き。

    #夏五
    GeGo

    すきすきだいすきつきあって!(3)「傑ーぅ、好きだよ♡」
    「はいはい」
    「結婚して♡」
    「聞こえなかったな」
    「け っ こ ん し て!!!」
    「うるさ」
    「聞こえてんじゃん!」
    もはやおなじみとなった光景に、同席している家入や夜蛾は何も突っ込まない。終わった授業の教科書類を鞄にまとめつつ、夏油はにじり寄る五条をあしらっていた。
    最初は座学と実践半々だった授業も、雨がばたばた降る頃には寝る時間を削って任務に行くようになった。1年生ですらこれなので、呪術師は相当ブラックなんだろうなぁと夏油はすでにげんなりしている。五条の方はと言えば相変わらず無尽蔵な体力と慣れもあってか文句は聞けども疲れは見えず、家入の方はと言えば純粋な睡眠不足が辛いようだった。
    「次の任務の資料は読んだか?」
    テキストを閉じた夜蛾が夏油に尋ねる。
    「はい、読みました。15:00に補助監督が来るんですよね?」
    「そうだ。もうお前ひとりでも大丈夫かもしれないが、少なくとも一学期までは二人で任務を行ってもらう」
    「だって!」
    相変わらず夏油のすぐ隣にいる五条が耳隣りでわめく。
    「聞こえてるよ」
    「だってさっきのが聞こえなかったからとうとうぼけたのかなって」
    しらーっとした顔で小首を傾げる五条の頭を払うようにして正位置に戻す。大体16なんだから結婚しようにもできないだろ。高校入学と同時に結婚とか世の中、少なくとも近所のビックニュースになってしまう。しかも男同士。思春期真っ只中の夏油は目立つのは嫌いじゃないが、そういう目立ち方をしたいわけではないのである。
    「婚約指輪ちょーだい!」
    「私たち付き合ってもないよ」
    「いーじゃん指輪ぐらい」
    「じゃあ君が自分で買ってきたら」
    「エッ買ったらつけてくれるの!?」
    「ごめん今のなし私が悪かった」
    目を輝かせいそいそと鞄を持ってどこかに行こうとする五条の首根っこを掴む。そうだった。コイツはこういう奴だった。ぼーっとしてたら高校卒業する頃には押しかけ女房にでもなってそうである。というかむしろここまで逃げている自分を称賛して欲しいぐらいだ。今の部屋?五条に入り浸られているし、自分もそこそこ五条の部屋に行っている自覚はあった。そこはほら、だって五条の隣は居心地いいし。致し方ないですし。もうどうにでもなれ!夏油は投げやりだった。
    離せ!とかばかりに身を捩る五条だったが、その程度では夏油の鍛えられた体幹を揺るがすことはできなかった。机に突っ伏して携帯を見ていた家入が、体はそのままに、顔だけ夏油の方を見て口角を上げる。
    「いいじゃん、貰えるものは貰っときなよ」
    「ほら、硝子もこう言ってるし!」
    五条はそう言って駆け出そうとする。ず、と椅子ごと引っ張られた夏油は、犬のリードを引くように五条を引きずって教室のドアから離した。
    「いーりーまーせーん。元の棚に戻してきなさい」
    「ちぇ」

    ***

    おおよそ準一級案件と言われていた任務を終えた2人は、木陰に入って補助監督が迎えに来るのを待っていた。雨が降る前の生ぬるい空気をため息と共に飲み込む。傘は持ってきていないから、それより前に来てくれると嬉しいんだけどなあ、とどんよりした雲を眺めた。
    「すぐるー」
    「なに」
    「言っただけ」
    「キショ」
    「ひでえ〜」
    笑う五条の声にもハリがない。蒸し暑さと任務の疲れでお互いバテていた。携帯も繋がらないので、ただただ空中を眺めるぐらいしかやることがない。
    「傑ー、暇だからしりとりしよ!蛾からね」
    「もういいよ蛾は...」
    以前のゴキブリ任務ならぬ、今回は蛾案件だった。一匹なら大したことのない蛾も、大量に集まればうるささも気持ち悪さも増す。しばらくは蝶すら見たくなかった。
    じ、と夏油の発言を待つ五条を横目に見、口を開く。
    「骸骨」
    「積み木」
    「金」
    「お前やる気なさすぎない?」
    「暑いんだよ」
    「じゃあ次勝った方がアイス奢りね」
    「乗った」

    しばらく続いたしりとり合戦は、五条による怒涛のプ攻めによって夏油が敗北した。世の中にそんなプから始まる言葉ないだろ。他に何があるっけ。プ...プ...プラモデル?じゃあプラレールもいけるな。意外とあるかも、と終わってから思い出した。夏油を煽るような顔で見つめてくるので、青筋を立てた夏油はそのまま二回戦目をふっかけた。今度は夏油の勝利だった。
    補助監督はまだ迎えに来ない。

    「それとって」
    「はい」
    夏油の隣に置いていたペットボトルを五条に手渡す。まだ開けていなかったそれを開封し、傾けられたペットボトルから水が半分ほど消えていった。

    汗の流れる五条の喉元を、ジ、と眺めている。透明な雫が突っ張った喉仏を通り過ぎ、広く開けられたカッターシャツからのぞく肩甲骨につるり吸い込まれていった。第二ボタンまで開けられた薄桃の肌には、ピタリとタンクトップがくっついている。
    「あち~」
    「...あついね」
    はい、と返されたペットボトルと共に、目線を宙に戻す。友人を所謂”そういう目”で見てしまった自分への罪悪感があった。もう、これは認めるしかないよなあと脳内で今月数十回目のため息をついた。

    健全な高校生として生きているつもりの夏油は、アフロディテもびっくりな美しさの五条悟に毎日告白まがいの宣言をされ、ものの見事に惚れてしまったのである。笑いたければ笑ってくれ。五条にどういう意図があろうとなかろうと、この青い瞳の怪物に惚れてしまったせいで、夏油の世界は変えられてしまった。だって毎日あの顔が、色白の頬をまあるく染めて、青色の瞳を煌めかせて、時にはうるうると涙を溜めて告白してくるんだぞ。性別?年齢?知ったことか。ましてや呪術高専なんて色気のいの字もないようなところにいれば脳のバグの一つや二つ起こすだろう。硝子に言ったら怒られそうだけど。いやそういう目で見てても怒られるよな。あれ、八方ふさがりでは?
    煩悩を消すように、大きな口で呪霊玉を飲み込もうとしたところで隣からストップの声がかかった。
    「どんな感じ?」
    「何が?」
    「それ」
    「あ、これのこと?」
    五条の視線の先が夏油の口元にあることに気づき、飲み込もうとしていた手を止める。五条が首肯したので、味かあ、と夏油は気まずげに目を逸らした。あじ。度々聞かれては困る質問に、む、と口をつぐんで手の中のものを眺める。まあ、オブラートを数十枚被せて御立派なクーベルチュールの膜を纏わせたところで、
    「まぁ、美味しくはないかな」
    というのが夏油の答えだった。端的に言うならゲロ。それも掃除した後の生乾きの雑巾で丁寧に包み込まれたやつ。夏油とて味音痴ではなく普通に美味しいものが好きなので、好んで食べたいものではないが、何事も代償が必要なのだろう。五条にとっての砂糖のように。一言甘味といえば聞こえはいいかもしれないが、毎日コンビニのお菓子を買い占めるほど糖分が必要と言われると話が別である。悟の場合趣味な気もするけど。半分ぐらいは多分そう。この前はスタバの全タッピング載せという呪文を放っていた。少しだけ飲ませてもらったが、一口エスプレッソの苦味がきたと思ったらシロップの甘さに全部流されて行った。もはや何味だったのかもわからない。バニラだったような気もすれば抹茶だったような気もするしコーヒーだった気もする。とにかくめちゃくちゃ甘かった。千円越えのそれをものの数分で飲み切った五条は、いい笑顔で次のカフェ行こうぜ!と誘ってきた。流石である。夏油としては千円の飲み物より美味しい定食が食べたいし、五条の好むようなカフェよりも駅前の牛丼屋の方が好きだ。それでもこう、やっぱり、五条の笑顔があれば別にどこに行ってもいいんだよな、と思えるあたりもう重症である。
    そんなことをつらつらと考えていたのがいけなかったのだろうか。
    「ふぅん」
    空返事をした五条が、こちらに手を伸ばしてくる。なんだ、と思った瞬間には手の上にあった感触が消えていた。え、と言葉を発する暇もなく、五条の手のひらの上に移った呪霊玉が、その大きな口に吸い込まれる。
    「悟!?」
    汗ばんだ喉仏が大きく上下する。それはつまり、飲み込んだと言うことで———。
    「ちょっと、大丈夫!?」
    上を向いて神妙な面持ちのまま固まった五条に声をかけるも反応がない。目の前でひらひらと手を振っても柔らかな髪が手に触れるだけでなんの応答もなかった。しばらくして、壊れたロボットのようにゆっくりと首を動かした五条は思いっきり眉を顰めて、べ、と吐き出すような動作をした。
    「...お、まっっっっっず」
    「言わんこっちゃない!ていうかそれ食べて大丈夫なの?」
    「傑が食ってるから大丈夫だろ」
    「いやまあそれはそうなんだけど、私以外の人が食べてるの見たことないし」
    「結局は呪霊の塊だろ?なんとかなるって。多分」
    存外へらりとした顔の男がこう言うのだから、大丈夫なのかもしれないと思いながら会話を交わしたのも束の間。ぎゅ、と不自然に五条の喉が引き攣ったのを夏油は見逃さなかった。
    「...悟?」
    「大丈夫」
    「まだ何も言ってないよ」
    「大丈夫だってば」
    「それ大丈夫じゃない人が言うやつだろ。顔色悪いよ」
    「は〜?お前の目が節穴なんだろ。俺はいつでもスーパーイケメンな五条様です〜」
    「軽口叩く余裕あるならいいけど...」
    口をへの字に曲げて言い返す様はいつものようだったが、抑えてるつもりだろう背中の震えは一目瞭然だった。少しでも苦しさが和らぐようにと背中を撫でると、一瞬硬直するように力が入ったが、諦めたのか波打つように動く背中を隠そうととしなくなった。そうして数分たったころ。いよいよ限界だった五条が口元に手を当てた。
    「............ごめ、、っ、もど、す」
    首を前に突き出した五条の口からびちゃびちゃと流れ出る胃液と黒い塊。地面にシミを作りながら広がっていくそれは、薄ら闇がかかったまま元の形を取り戻していく。胃液を纏っててらてらと光る羽と、しっとり質量を感じさせる黒色の胸部。もたげられた触覚から、たらりと粘着質な液体が伝っている。ざりざりと音を立てて地面から這い上がった蛾は、夏油が取り込もうとした時よりも明らかに大きくなっているようだった。
    「わあ。......グローい」
    「言ってる場合か!っ、うわ」
    蛾が羽ばたくたびに砂が巻き上げられて視界が悪い。臨戦体制に入った蛾を相手にひとまず拳で殴りかかった夏油だったが、虫とは思えない硬さに一撃入れて離れる。おかしい。さっきはこれで祓えたのに。続けて蛾の羽が振るわれて、鋭い風が頬を掠めた。どうやら拳程度では歯が立たないらしい。相性がいい手持ちの呪霊を脳内で検索しながら距離を取ろうと試みる。五条の胃液のせいか蛾が風を起こすたびに、なんともいえない酸っぱい匂いがする。オェ、私も吐きそう。
    「ちょっと!なんかした!?」
    後方で何もせず眺めている五条に声を荒げて聞くと、のんびりとした回答が返ってきた。
    「飲み込んで吐いただけだけどー」
    「それは見ればわかる!そうじゃなくて、なんか心当たりッ、ない!?」
    先ほど相手したときとは比べ物にならないぐらい纏う雰囲気が重い。飛んできた風の攻撃を上半身を逸らして避ける。首元の服が少し持ってかれた感覚があった。ギリギリ肌にはくらっていない。
    「ンー、あるとしたら俺の呪力喰ってちょっと強くなったとか?」
    「そんなことあるの?っあぶな、悟も突っ立ってないで加勢してよ!」
    「傑ならいけるって」
    「君のせいだろ!?」
    「や傑の呪霊だしぃー」
    体制を立て直そうにも視界の悪さと、たまにイタズラのように飛ばされる五条の呪力に邪魔されて十分な距離を取ることもできない。いやあの呪力は確実に嫌がらせだろう。必ず夏油の進行方向に打ち込んでくるのだから。
    「ちょっとぐらい協力してよ」
    苛立ちながら声を張り上げると、フーン、ともったいぶるようにしたり顔の五条が近づいてきた。
    「じゃあ結婚して!」
    「じゃあってなんだよ!」
    「助けてあげるから結婚してください!!!」
    「嫌です!!!」
    「なんで!?」
    断られると思っていなかったのか、心底驚いた表情で夏油の隣に並んで肩を押し付けてくる。五条の無限が伝染し、激しく揺れていた髪や服があるべき姿を取り戻した。五条は先ほど吐いて体力を消耗したのが嘘のようにけろりとしており、蛾のことよりも告白のほうが大事なようであった。一方いくら守られているとはいえ、これが一般道の方に向かったら危険だということを認識している夏油は五条の無限から離れ、戦闘に戻った。
    「この状況で了承する馬鹿がいるか!!」
    「この状況じゃなきゃ結婚してくれるってコト!?!?」
    「そうは言って無いだろ!!さっさと祓え!!!!!」
    「エーン傑のインポ~~~~」
    「......ふうん」
    ブチ、と夏油の中で我慢の限界を変えた音がした。
    目の前にあった五条の襟元をつかみ、引き寄せる。止まない攻撃の嵐が夏油の前髪を数本持っていった。それも気にせず、ガチリ、歯と歯が当たって神経が痛む。次いて先ほどの荒々しさが嘘のように柔らかく唇を当て、音を立てて離すのを繰り返す。チ、と優しい口付けの雨を降らせた夏油は、ニコリと五条に微笑みかけた。
    「わたしが、なんだって?」
    普段ならキスだなんだと叫びだすだろう五条は、一瞬身じろいで引き攣った顔を夏油に向けた。夏油の大変にいい笑顔とは裏腹に、その指が正確に頸動脈を抑えていることを理解していたからである。
    「ナンデモナイデス...」

    完全に人を殺す人の目をしていたとは後の五条の譚である。
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