長編 肆 寝台のスプリングが鳴く。
仰向けの中原を囲うように手をついた太宰は唇が触れる直前に呟いた。
「ねえ。別れよう」
それは存外、穏やかな声で告げた言葉。
中原は口端を上げる。
「だろうな」
対する中原の声も落ち着いたもので、太宰は面白くないと言いたげに口端を下げた。
「別れ話だというのに随分、落ち着いてるんだね」
「そりゃ、解ってたからな」
言いながら中原は太宰の右目の縁をなぞる。くすぐったいのか太宰は微かに目を眇めるが、手を払うことはない。
「俺らがこうなったのは、相棒で居られなくなったからだ」
横浜を霧が包んだあの事件、それが終わりだった。
ポートマフィアの双黒は、あの日、終わりを告げ、太宰によって新しい双黒となる若い芽が芽吹いた。三刻構想を含めて、この横濱という街を護るための存在。
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