いつだってカーテンの隙間からわずかに光が滲む。まだ早朝と呼ばれる時間に目を覚ますと、いつもは角名を抱きこんで眠る男の大きな背中が見える。
いつもは抜け出すのに苦心する、角名を柔らかく閉じ込める檻は身体の向こう側に投げ出されたまま。
裸足のままペタペタとキッチンに向かうとペットボトルの水を口に含む。
まだ熱を持つ身体に冷えた水が心地よい。
ふう
窓のカーテンを朝の涼しい風がふわりと揺らすのをぼんやりと見つめる角名の背に、ぺたりと熱がはりつき恋人の香りに包まれる。
「おれも」
ペットボトルを差し出すと「すなー」と不満げな声が漏れる。
なんだよ。背を向けて寝てたくせに。
ぐいと水を含むと治に向き直り、首に両手を回すとゆっくりと口づける。少しずつ水を流し込むとこくりと喉が動く。
「ぬる…」
お前ねえと開いた唇にぬるりと舌が潜り込み、強欲なそれは咥内を思いのままに貪っていく。
「…っふ、ん、ぁ…」
熱い舌に触れられる咥内、そして悪戯に這い回る手が触れるとこ。
わずかに冷えたはずの身体にまた熱がポツポツと灯っていく。
ごりと腹に熱いものが擦りつけられると、触れられていない奥までが熱に浮かされる。
「あつ…」
「もっと熱くなろうや」
「うわ、ダッサ。なにそれおっさんかよ」
ふっと動きが止めた治の顔にはなんの表情も浮かんでなくて、ああまた可愛くないこと
言っちゃったとツキんと胸が痛み、すうと身体が冷える。
可愛げが欲しければ俺となんて付き合わないだろうけど、それでもこういう場面で空気が冷えることを口にする自分に呆れる。
ククク
「キッつ。でもほんま角名のこういうとこめっちゃ好きやわ」
くすくす笑いながら泣きそうな俺の目をのぞき込み、額と額をこつんとあてる治のローズグレイの瞳には楽しげな色。
ふうと気づかれないように息を漏らすと
「それはどうも」
ちゅっちゅっと頬に耳につむじにと顔中にキスを落とされ、甘やかされてると思いながらも口からはそんな可愛げのない言葉がつい零れてしまう。
汗でしっとりとした髪を撫でるようにゆっくり指を差し込むと、顔中にキスを落とす唇を捕まえてぺろりと舐めてやる。
可愛ええなあ。
なのに耳元で囁く甘やかな声に身体がびくりと震え、ぎゅっと髪に掴んでしまう。
あーもうほんまたまらんわ。
声とともに腕のなかにぎゅうと閉じ込められて、ほっと息を漏らす。
甘やかしすぎだよ。ばか。
「好き…」
ぽろんと言葉がこぼれた。
ほとんど口にしない角名のそのまっすぐな言葉に、まるで染められていくように治はかあっと頬を染めた。
「す、」
固まったままの治の頬をそっと撫でるとふわりと角名は微笑んだ。
可愛いのは治のほうだろ。・
そう口にしようとしたのに、真っ赤に染まった治の顔に、そしてこちらを見つめる瞳の優しい色に自分の顔もじわじわと熱くなっていって。
まったく。付き合って何年だよ。
お互いの身体も心も、さみしさも悔しさも。
なにもかも知らないところなんてないはずなのに。
言葉もなく互いの体に手を伸ばし抱きこむと、まるで初めてみたいな触れるだけのキスをした。