クレジットまで離さないで「ふふ……。じゃあ美咲、ほら」
ソファに座った薫が、足を開いてその間をぽんぽんと叩く。座れ、ということらしい。それは美咲を安心させたいが故なのか、それとも薫自身が怖くて一人では耐えられそうにないからなのか。まあきっと両方なんだろうな、と思いながら美咲は素直にそこへと座った。きゅ、と腰に腕が回り抱き留められる。
事の発端は一本のDVD。りみから借りてきたというそれは、彼女のセレクトにしては珍しい邦画ホラーだった。一人で観るのはちょっと怖い。でも薫が観るのは無理だろう。それでも、薫は美咲の為ならと顔色を悪くしながらソファに腰掛けたのだった。そうだ、彼女はそういう人だった。
「……っ、」
不協和音のBGMと共に、徐々に物語は佳境に入っていく。何故邦画ホラーってこんなにじわじわと展開を勿体振らせるんだと、美咲は息を呑む。手頃にあったクッションを掴み寄せるとぎゅっと両腕で抱き締めた。ぎゅ、と薫も倣うように美咲をより強く抱き締める。
「み、美咲……。その、終わったかい?」
すぐ後ろに震える声。薫の顔は美咲の首筋に埋まっていて、画面は殆ど観ていないに等しい。それでも聴覚は恐怖で侵されているようで、がたがたと震えながら、その手を美咲の手に重ねてきた。
まだですよ、と震え声に返事をしながら、映画の内容は段々頭の片隅へ。
(かわいいなこの人)
普段なかなか見れない薫の姿は新鮮で。普段格好つけることが多い“王子様”な彼女だからこそ、そのギャップに胸を打たれてしまう自分がいる。
「大丈夫ですよ、薫さん」
美咲が安心させるような柔らかい声音で頭を撫でる。いつもとは逆の光景に、なんだか面白くなって笑みを溢してしまう。当然、薫からは美咲の表情は見えないし、そもそも画面を見ないように顔を伏せているので見えっこないのだが。
“嬉しい”だなんてこの場に似つかわしくない気持ちを抱いてしまうのはきっと、見栄っ張りな所がある薫が自分だけには等身大の姿を見せてくれるからで、それに優越感のような感情を抱いているのだろう。振り向いてみれば目は少しだけ涙が滲んでいるように見える。そんなに怖かったのか。
怯える薫の姿が少し可愛く見えただなんて、相当惚れ込んでるらしい。なんて、美咲は顔に熱が集まるのを感じていた。
最後のシーンが終わり、物語は後味悪い結末のままエンドロールへ。もし、今度また同じようなDVDを借りてきたら、今度こそ怒るだろうか。……それとも、仕方ないねって見栄を張って一緒に観てくれるだろうか。
(……まあ、薫さんの身が持たないだろうから、ほんとにたまにでいいけどね)