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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    ガンマト。入れ替わる二人

    #ガンマト
    cyprinid

    チェンジリング「おっじゃましまーす」
     ポップはいつものようにマトリフの洞窟へと訪れた。晴れた午後の穏やかな頃、波も穏やかで緩い風が吹いていた。
    「その声はポップくん!」
     洞窟の中から聞こえてきた声にポップはびっくりして立ち止まる。ポップくんと呼んでいつも出迎えてくれるのはガンガディアだが、今聞こえてきた声はガンガディアではなくマトリフの声だった。
     するとこちらへと走ってくる足音が聞こえる。その足音もデストロールの足音にしては小さ過ぎた。案の定、顔を見せたのはマトリフだ。マトリフが走るなんて珍しい。
    「やはりポップくんだ。ちょうどいい時に来てくれた」
     マトリフに嬉しそうに言われてポップは後退る。ポップくん、なんてマトリフに呼ばれたことなんて今までに一度もない。それにそんな笑顔もだ。何か得体の知れないものを見たようにポップは逃げようとした。
    「待ってくれ!」
     マトリフが追いかけてきた。なんかもう怖過ぎると思ってポップは逃げるが、意外にもマトリフは追いついてきた。マトリフはぜいぜい息を切らせながらポップの腕を掴む。
    「逃げないでくれ。これには理由があって」
     そのとき大きな音がして洞窟が揺れた。それと同時にガンガディアの声がする。
    「痛てぇな。何だってこんなに窮屈なんだよ」
     どしんどしんと足音がして、不機嫌そうなガンガディアが現れた。頭や腕を洞窟の壁にぶつけている。ガンガディアはジロリとポップを睨めつけた。
    「なんでえ、ポップじゃねえか」
     その言い方がいつもマトリフが出迎えるときの言い方にそっくりで、ポップはガンガディアとマトリフを交互に見えた。
     ガンガディアのようなマトリフと、マトリフのようなガンガディア。その点と点を繋げるとすれば、可能性はひとつだった。
    「師匠たち、入れ替わってる!?」
     それからポップは二人からこうなった経緯の説明を受けた。二人は新しく作った呪文の失敗のせいで、精神が入れ替わってしまったという。
     ポップは改めて二人を見た。マトリフは見たことがないほど背を伸ばして真剣な表情でポップを見ている。その表情が誠実そうで、普段のマトリフを知っているものだから違和感がすごい。そしてガンガディアは椅子に座れないからと床に寝そべっていた。その寝方も普段マトリフがベッドに寝転がっているときの姿と一緒で、表情もなんというか人相が悪い。元々のガンガディアの迫力のある巨躯でそれをするものだから、威圧感がすごい。
    「それで、元に戻る方法は?」
     二人を直視しないように視線を泳がせながらポップは言う。あまり見続けると笑ってしまいそうだ。
    「それがわからなくて困っているのだよ。ポップくんの手も借りたい」
    「あ、あのさ。ガンガディアのおっさん」
     とポップはマトリフの姿をしたガンガディアに言う。
    「なにかね」
    「師匠の声でポップくんって言われるのマジで気色悪……変な感じするからポップって呼んで」
    「しかし大魔道士の弟子である君を呼び捨てにするのは」
    「いいから。全然気にしてないからマジでお願い」
    「ケケケ。じゃあオレがポップくんって呼んでやろうか」
     ガンガディアの姿をしたマトリフが揶揄うように言う。こっちは放っておこう。
     ポップは解決策を探そうと考え込む。しかしマトリフとガンガディアが揃っても見つけられないのなら、それは不可能に近いのではないか。しかしこのままでは二人はずっと入れ替わったまま過ごすことになる。
    「そうだ、面白いからアバンやハドラーに見せにいくか」
     ガンガディアの姿をしたマトリフが突然に言った。
    「この体ならハドラーの野郎をぶん殴れるぜ」
     途端にガンガディアの姿をしたマトリフが立ち上がった。そのまま体をあちこちにぶつけながら洞窟を出ていく。
    「待ちたまえ大魔道士!」
     マトリフの姿をしたガンガディアの声も虚しく、ガンガディアの姿をしたマトリフはルーラで飛んでいってしまった。

     ***

     豪速ルーラで飛んでいったガンガディアをポップは見上げる。マトリフとハドラーは犬猿の仲だからどうせ碌なことはしないだろう。
    「だ、大魔道士」
     マトリフがヨロヨロとやってきた。壁に手をついて息を切らせている。
    「大丈夫かよ師匠……じゃなくてガンガディアのおっさん」
    「この体……疲れる……」
    「ジジイだからなあ」
    「こんな体で日々生活しているとは」
     マトリフは涙を浮かべてマトリフに同情している。なんだかおかしな状況で頭がこんがらがりそうだ。
    「大魔道士を止めないと。すまないがポップく……ポップ。ルーラでハドラー様のもとへ連れていってくれないか」
     くん付けを言い直してくれたのはありがたいが、マトリフの姿と声で「ハドラー様」と言っていることのほうが大変な違和感だった。
    「それはいいけどさ。今のガンガディアのおっさんであの師匠を止められるのかよ」
     力においてガンガディアとマトリフには大きな差がある。ガンガディアの体を手に入れたマトリフを、マトリフの体のガンガディアは止められないだろう。ポップも止められる気がしない。
    「確かに君の言う通りだが、放ってはおけない」
    「しょうがねえ。じゃあ行くぞ」
     ポップはマトリフを……ではなくガンガディアを連れてルーラを唱えた。
     次の瞬間には景色は森へと変わる。ポップたちはハドラーの家の正面に着地した。家の煙突からは炊事の煙が上がっている。
    「こっちだ」
     ガンガディアが家の裏へとまわった。途端に「大魔道士!?」と大きな声が上がる。見ればガンガディアが倒れていた。つまりマトリフの精神が入ったガンガディアの肉体が倒れていた。その傍にはハドラーが立っている。拳を握っているから、ハドラーはマトリフを殴り倒したのだろう。
    「なんだ貴様ら」
     ハドラーの機嫌は悪そうだった。来るのが遅かったようだ。マトリフはハドラーに喧嘩を売って返り討ちにあったらしい。
    「大丈夫かよ師匠」
     ポップは倒れたガンガディアの体に手を当てた。そのまま回復呪文を唱える。
    「大魔道士、しっかりしたまえ」
     ガンガディアはマトリフに縋っている。するとハドラーが怪訝な顔をした。
    「ついに耄碌したのか老ぼれ。そういえばガンガディアも様子がおかしかったな」
    「ハドラー様、大魔道士をそのように呼ぶのは止めてくださいと何度も申し上げています」
     ハドラーはギョッとして後退った。事情を知らないハドラーからすれば、突然にマトリフから丁寧に喋られたので驚くのも無理はない。そこでポップは簡単にことの経緯を説明した。
    「つまり、老ぼれがガンガディアの体を乗っ取ってオレに殴りかかってきたのか」
     ハドラーは怒りに震えた。すると目を覚ましたマトリフが起き上がった。
    「痛ってぇなおい!!」
     マトリフはハドラーに向かって吠えるが、それは自業自得なのではないかとポップは思った。
    「おや、賑やかだと思ったらみんないたんですか」
     エプロンをつけたアバンがハドラーの家から出てきた。ポップは事態をややこしくする前に斯々然々と説明する。一通り説明を聞いたアバンは「じゃあみんなでお昼にしましょうか」と朗らかに言った。

     ***

     穏やかな昼食。大人数になるならと、アバンはテーブルにいっぱいに食事を並べた。食事のときだけはとハドラーも怒りをおさめ、みんなで揃って食卓についた。
     ガンガディアの膝にはマトリフが座る。それは一見いつも通りの風景ではあるが、中身が入れ替わっているものだから、異常な光景になっていた。
    「おいおい、もう食わねえのか? いつもオレに肉をいっぱい食べたまえ、なぁんて言ってるのはどこのどいつだよ」
     ニヤニヤと意地悪そうな顔のガンガディアが言う。中身はマトリフだ。
    「う……しかしもうお腹がいっぱいで」
     マトリフはしょんぼりと項垂れている。もちろん中身はガンガディアだ。最初はアバンが作る美味しい昼食を食べていたが、早々に腹が膨れてしまっていた。
    「それより欲しいものがあるんじゃねえか? ほれ、正直に言ってみな」
     マトリフが促すと、ガンガディアは苦悶の表情を浮かべた。
    「……酒が飲みたい」
     認めたくないと言わんばかりの表情でガンガディアは言う。普段ガンガディアはマトリフの飲酒について口煩く控えるように言っていた。だがマトリフの体は飲酒の欲求を強く感じている。ガンガディアはその欲求に耐えるように唇を噛んだ。対してマトリフはカラカラと笑う。
    「飲めばいいじゃねえか。オレは構わねえぜ」
     マトリフはチェリーパイ一切れを手で掴むとそれをそのまま一口で食べた。先ほどから肉も野菜もどんどん食べている。いくら美味いアバンの料理でも歳を取ってからは昔のように食べれなくなっていた。ところがガンガディアの体ならどんどん食べられる。これはいいとマトリフは遠慮なく食べていた。
    「ああ、大魔道士。そんなに甘いものばかり食べないでくれないか。肉もできれば脂肪の少ない部位を選んで」
     ガンガディアはマトリフの食べっぷりに悲鳴を上げそうだった。ガンガディアの体は元々脂肪がつきやすい。それを不断の努力で維持しているのだ。
    「嫌なこった。あぁ美味えな」
    「もうマトリフ。あまりガンガディアを困らせてはいけませんよ。いっぱい食べてくれるのは嬉しいですけど」
     アバンはやんわり制すが、マトリフは聞く気がない。あまり酔わないのをいいことに、ワインもガバガバ飲んでいた。
    「っていうかさ、元に戻る方法とかどうすんだよ」
     ポップは食事に夢中な大人たちに向かって言う。このままだとガンガディアが可哀想だ。
    「それならいい呪文を知ってますよ」
     あっけらかんとアバンが言う。
    「呪文を強制解除する呪文なんですが、破邪の洞窟で見つけて修得しておいたんですよ。あとで試してみましょう」
    「今すぐに頼む!」
     ガンガディアは悲壮な声で言う。しかしマトリフは「もうちょっとくらいいいじゃねえか」とワインをあおった。
    「そうだな、あと一晩このままでいいんじゃねえか?」
     マトリフが悪い顔で笑う。魔王軍の幹部にぴったりな悪い笑みだ。この人やっぱり碌なことしないなとポップは思った。
     するとガンガディアが不安そうな顔でマトリフを見上げる。
    「……何をするつもりかね」
    「別に。なにもとって食おうってんじゃねえから安心しな」
     それを笑いながら言うものだから信用ならない。ガンガディアも同じように思ったのか、むしろ覚悟を決めた顔で頷いた。
    「わかったよ。普段私が君にしていることだ。甘んじて受け入れよう」
     あ、これエッチな話だとポップはピンときた。でもちょっと待って。っていうことは普段はガンガディアのおっさんが師匠を……と考えたところで、アバンに両目を塞がれた。
    「駄目ですよ。ポップが見ているのに」
    「おいこら、勘違いを助長させてんじゃねえよ」
     今さら目を塞がれても意味が無いんじゃないかと思いながらも、その先を想像するのは止めておいた。
     すると今まで大人しく食事をしていたハドラーが口を開く。
    「ガンガディア。キサマ普段からこの老ぼれになにをさせているんだ?」
     純粋な疑問をぶつけるようにハドラーが言う。それはアレじゃん、とポップは思ったが口に出すのは憚られた。
    「それは……その」
     ガンガディアはもじもじと手を動かして俯いてしまう。
    「やめろよ三流。ガンガディアが恥ずかしがってるじゃねえか」
     むしろ師匠は恥ずかしがらないんだ、と思ったポップだったが、懸命なのでお口にチャックしておいた。

     ***

     ポップはこっそりとマトリフの洞窟に近づいた。すっかり夜も更けている頃。波の音だけが静かに響いていた。
     あの昼食の後でマトリフとガンガディアは帰っていった。結局マトリフに押し切られて呪文の解除は明日することになった。今晩二人は入れ替わったままである。
     ポップは抜き足差し足で洞窟に忍び寄る。別にやましい気持ちで来たわけではない。ちょうどマトリフから借りていた本を返し忘れたことを思い出したからだ。
     洞窟の岩戸は少しだけ開いていた。中から明かりが漏れている。さらに近付けば二人の声が聞こえてきた。ポップは息を殺して耳を澄ませた。
    「んっ、あ……」
     マトリフの声が聞こえてポップは両手で顔を覆った。やっぱりエッチなことしてんじゃん、と心の中で‪叫ぶ。
    「もう降参か?」
     揶揄うようなガンガディアの声に、中身はマトリフなのだと思い出す。するとベッドが軋むような音が聞こえた。すかさずマトリフの声が響く。
    「痛い! 大魔道士、力が強すぎる」
    「おっと、悪い悪い。加減が難しいな。ええっと、どこだっけな。気持ちいいポイントがあったはずだが」
     ゴソゴソと聞こえてくる音にすらエッチさを感じてポップは唾を飲み込む。
    「あ……そこ」
     上擦ったマトリフの声がする。
    「ココだよな。ココを押されるとどんな感じだ?」
    「あぁ、その……すごく気持ちがいい」
    「じゃあいっぱいしてやるよ」
    「ふ、う……その、あまりそこばかり……」
    「気持ちいいんだからいいだろ?」
    「それはその……私は別に……」
    「おめえだって気持ち良くなればいいじゃねえか。ほら、体は喜んでるだろ」
    「しかしツボも押しすぎてはかえって悪い。あなたのおかげで十分に体はほぐれてきたよ」
     ポップはずっこけた。あまりの驚きとベタさに高く飛び上がって脳天から地面に着地した。これはただのマッサージで、全然エッチなやつではなかった。紛らわしいことすんなよと泣きながらルーラを唱える。別に師匠のエッチなやつとか全然見たくねえよと夜空に叫んだ。

    「……まあこんなもんだろ」
     洞窟を覗く気配が去ったと気付いてからもマトリフはマッサージを続けていた。ガンガディアは足を抱えてベッドに沈んでいる。しばらく立ち上がれそうになかった。マッサージは日課であるが普段はガンガディアが細心の注意を払って力加減をし、尚且つ正しい知識で行っているが、今晩はマトリフが慣れない怪力とうろ覚えでやったので、普段の倍ほど痛かった。
    「私はあなたの健康のためにやっていたのに、そんなにこのマッサージが嫌だったのかね」
     ガンガディアは啜り泣いている。それを見てマトリフもようやく罪悪感を覚えた。
     ちなみに夜のマッサージは足ツボだけではない。全身のストレッチ、軽い運動、そしてクソまずい健康ジュースを飲むとろこまである。全てガンガディアがマトリフの健康を考えて組んだメニューだ。それはマトリフも理解しているし、おかげで夜もぐっすり眠れるようになった。
    「健全過ぎるんだよなあ……」
     もうちょっとあるだろ。夜にやる運動がさ。お互いの体を使って気持ち良くなるやつがよ。だがマトリフはそれを自分から口にはできなかった。そして口にできないまま現在に至る。
     マトリフはガンガディアを見下ろした。つまり本来のガンガディアの視線を通して自分を見た。その小ささは想像以上だった。
    「オレってこんなに小せえのかよ」
     このガンガディアの体で力加減を間違えば、マトリフのような人間の体は簡単に破壊できる。そのためにガンガディアはマトリフに触れるときに必要以上に注意を払っているのだろう。
    「私からすれば大体の者が小さく見えるよ」
    「慰めになってねえよ」
     翌日、二人はアバンに呪文を解除してもらい、元の体へと戻った。マトリフは急に近くなった地面に眩暈を起こし、ガンガディアは腹に贅肉がついたような気がしてならなかった。
     ガンガディアはこれまで以上にマトリフの体に気を使うようになり、たくましく見られたいマトリフはささやかながら運動量を増やし、筋肉増量を目指した。

     
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