海へ行く夏休みの中頃。僕たち兄弟が楽しみにしていた海へ行くことになった。
いつも家族行事には運転を買って出る父さんは休みが取れず、今日は母さんが運転するミニバンに乗り海水浴場に来ていた。
海にはカラフルな水着を着た人達が賑わっている。
真夏の太陽に当てられて喉の渇きを覚えた。
「ねぇーお母さん。 ジュース飲みたい!」
妹の我慢の限界が来たみたいだ。
「分かったわ。何か買ってくるからシート広げててくれる?」
「いやー!じゅんびしたくない!みんなでお買い物する!お母さんとけいちゃんとみっちゃんとい~き~た~い」
いつもの妹の我が儘が炸裂し始めた。
「皆でこの場所を離れたら場所取り出来ないでしょ?」
「いやー!」
つんざくような妹の叫び声に耳をふさいだ。その声に反応するかのように光(みつる)も泣き出した。
「はぁー。ホント我が儘」
「わがままじゃない!」
突撃しそうな妹の頭を抑えて母に提案をした。
「僕が光を見るから、僕たち三人で買い物に行こ。お前は準備したくないんだろ?」
「でも~お母さんと一緒がいい。」
「⋯お前一人でお使い行ってみたいんだろう?僕が側で見てるからお使いの練習しよ」
「⋯うん。」
ふてくされる妹の姿に堪えきれず笑う母に「明のことは貴方が一番ね」とウィンクされた。
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「そこの君ィ~お友達待ってるの?俺達と遊ばな~い?」
いかにも軽薄そうな男達が赤茶色の女性をナンパしていた。女性はサングラスをし、翻るパレオ風スカートから覗く足元はきゅっとしまってセクシーさが漂う。水着の色はボタニカル柄でありながらも海の青さに似たブルーがよく似合う。背中も布で覆われているがチラリと覗く後ろ姿は美しい。誰もが声を掛けたくなる美人である。
彼女は男達の声が聞こえていないか無視を決めこんでいる。男達はその態度にイラつき声を荒げようとしたところ、ウィーン少年合唱団のような可愛らしい少年の声が掛けられた。
「ねぇ?おじさん達誰なの?何の用?僕のお母さんに!」
ニッコリと笑った顔は可愛いのに背後に般若を飼っているような⋯天使のような綺麗な声で男達はビビっていた。
少年の赤茶色の髪が太陽の光に当てられてキラリと光る。ナンパをしようと声を掛けた彼女とこの少年は同じ髪の色をしていたのだ。
「大丈夫だった?ジュースは買えた?」
「うん。大丈夫だよ。ラムネ買えたよ。ねぇ?おじさん達母さんに何の用?」
「可愛い可愛い私のナイト様に何か用?」
子連れとは思えないプロポーションの彼女と彼女を母だと言う少年。二人の会話を聞き何度か見比べて親子だと分かると男達は「失礼しましたぁー!」と慌てて何処かへと消えていった。
「全く困るなー。ああいう人達は⋯母さん、もっと気を付けなくちゃ。あと可愛いは余計だよ!」
「フフッ。カッコいいナイト様ありがとう」
少年の頬にキスをする美しい母に、少年は自分の頬が赤くなるのを感じた。
オレンジブラウンの髪を靡かせ赤ちゃんを抱っこしたまま歩く小さな女の子が一生懸命にこちらへ向かってくる。
「けいちゃん、置いてかないでよ~。みっちゃん重いんだから!」
汗だくになりながら「景(けい)」という少年に文句を言う。
「ごめん。志保母さんが変な奴らに絡まれてたから⋯明、ごめんな」
「ホントけいちゃんは勝手なんだから!こういう時は私の方が足はやいのに!」
いかにも怒ってますポーズをとる「明(あかり)」という少女の髪を優しく撫でる景の姿に思わず志保は笑ってしまう。
「明、ありがとう。光を見てくれて」
「私お姉ちゃんだもん。とうぜんよ。ますみちゃんに色々教えてもらってるもん!」
どうだと言わんばかりに胸を張る可愛い娘にまた笑いが込み上げる。
「光(みつる)」を明から受け取った志保は光のおでこに手をやると少し熱い。流石に日に当たりすぎたらしい。
「ちょっと熱いわね。屋根のある場所でお昼御飯食べましょう」
「「さんせーい」」
可愛い兄妹の声が響いた。