ヒカテメ龍神パロ霧深い山奥のそのまた奥深い神のおわす山。私はそこに住まう龍神様に幼い頃からお世話係としてお仕えしていた。
成長し、大人となった私は色々あり、いまは龍神様に嫁入りし、神の伴侶としてこの社に龍神様、ヒカリとともに暮らしていた。
艶々の黒い長い髪を櫛で丁寧に梳かしていく。ヒカリの髪を梳かすのは、幼い頃からの私の仕事である。
「ヒカリ様…、じゃなくてヒカリ」
じっとしてください。髪が梳かせないでしょう、とこちらをちらちら見やる龍神をやんわり咎めると「まだ慣れぬのか」と彼は小さく呟く。
ヒカリ、というのは龍神様の名前である。
神様を呼び捨てするのは私はどうかと思うのだが、名を知る人間は伴侶である私ぐらいしかいないらしく誰も呼ばないのだからそう呼んでほしいと彼が言うのだ。
時たま「ヒカリ様」と呼べばこうして少し拗ねたように唇を尖らせる。私より遥かに長生きのくせにこうした仕草は、まるで年下のように見えて不思議だ。
でも、夜伽のときにヒカリ様と慣れないように私が口にするのを聞いてほんの少し興奮しているのを私は知っているのはヒカリには内緒だ。
「ん、くすぐったい…」
紅の髪紐で髪をまとめ上げて終わりましたよといえばすかさずヒカリがこちらに身体を擦り寄せてくる。
その擦り寄せられた頬を掌でざらりと撫ぜる。
いまは人型にはなっているが、額からは龍の角が生えて、肌はざらざらとした鱗に覆われている部分がある。
こういうところを見ると彼が人ならざる者なのだと改めて感じる。
何より、下半身は龍のままなのだ。蛇の尻尾のようなそれを私の体を撫で上げ、巻き付けてくる。
これは彼の甘える合図のようなものだ。
「お疲れですか?」
「あぁ」
神として民の願いは聞き届けねばならぬ、ならぬが忙しいと。
「そなたに労ってもらわねば、やってられぬ」
「もぅ……そんなこと言って…」
ぽてんと私の柔らかくもない膝に頭を落とすその神様の額をそっと撫でてやる。
「ん…」
「あ、ごめんなさい」
「角を触られると…その、むずむずするだけだ」
「じゃあ触らないほうがいいですか?」
「いや、気持ち良いから大丈夫だ」
「ふぅん」
そぅっと角に触れるとぴくりとヒカリが揺れる。そのたびに尻尾も動いて私の体を、ゆっくりと撫でていくのでくすぐったかった。
「ひ、ヒカリ……」
膝から頭を離した彼は、今度は私の体を抱き寄せる。
金色に光る瞳に見つめられる。顎に手をかけられ、頭を包まれる。
その視線から逃れられないまま、唇が近づいてくる。ほとんど距離のないまま密着した状態。
柔い唇が合わさる。ざらりとした舌先が口内を探り、私を蹂躙していく。舌も捕らえられ、絡みついていく。
熱い。
滑つくそれに頭がぼんやりしていく。肌に直に彼の尻尾が触れてくる。着物の合わせ目から差し入れられて、空気に晒された肌はひんやりとしているのに、触れられた場所が熱くなっていく。
唇が離れた瞬間、くたりと彼の体に凭れかかる。
唇が指でなぞられる。その指を思わず噛む。
「ほぉ……ふっ、愛いな」
「あっ…」
神に歯を立てられるものなどそなたぐらいだろうとヒカリが笑う。
彼に与えられた熱をなぞって、追いかけていく。
「そう煽るな」
蕩けた顔をした私をヒカリは優しく撫ぜたかと思うとふわりと体が浮く。
「まずは湯浴みを済ませよう」
あぁ、せっかく髪を整えたのにと見当外れな私の言葉にヒカリが大きく口を開けて笑った。