文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day12 稽古終わりの道場にそれを持ち込んだのは、部活の終了時間を見計らいフェルマーを伴ってふらりと現れた高師だった。
「……お前がこういう事するの、珍しいな」
「姉から送られてきたんだ。俺一人だと持て余すからな、普通に部員で分けようと思って持ってきただけで……決してこんな事をしようと思って持ってきた訳では無いんだがな!?」
ひと汗かいたと首に手ぬぐいを掛け剣道着を纏ったままの姿で眉を寄せポツリと呟いた汐見に、高師はその理由を説明しながらも予想外の展開に転んだ空間に向けて叫んでしまう。
高師が持ち込んだそれの周りでは稽古終わりの部員達がワイワイと群がり手ぬぐいや木刀、どこから持ってきたのかビニールシートまで用意されていた。
「こんなに立派なすいかなら、割るしかないでしょ!」
「そうですよ! こんなの割らないでどうやって食べろと!?」
手拭いを手に興奮したように叫んだ空閑に続くように、皆川が木刀片手に力説する。彼らの後輩たちもそうだそうだと同意の三唱だ。
「いや、普通に切って食えば良いだろ」
冷静に突っ込みを入れる篠原の手には新聞紙が握られているし、高師の隣をしっかりと確保しているフェルマーは「まぁ、こうなるよねぇ」と楽しげに笑みを浮かべている。
「汐見……お前、これ止めれるか?」
高師が思わず縋るように視線を向けた汐見は少しだけ考えるそぶりを見せながらも、口元だけでゆっくりと笑みを浮かべる。
「おい、皆川! 木刀くれ!」
少し離れた場所に居る皆川の手にある木刀を求めて声を上げた汐見に、彼女は我が意を得たりと頷きそれを放る。美しい放物線を描いた木刀をしっかりとキャッチした汐見は隣に立つ高師へと笑みを浮かべてその手に握られた木刀を渡すのだ。
「道場に持ち込んだのが運の尽きだな、お前には栄えある一太刀目の権利をやろう」
押し付けるように木刀を高師へと渡した汐見は、すいかの周りで騒ぐ空閑や後輩たちへと「すいかは外に設置しろよ!」と叫ぶのだ。