Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ロビぐだ♂とヘクマンを書きたい

    そのスタンプで救われる命があります

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 46

    前からちまちま画像で以下略。
    切りどころに迷ったけどまあキリの良さ重視で短いですが纏めました。
    ロビぐだ♂の告白シーンはあと100回くらい書きたいし1000回くらい読みたいですね。

    #ロビぐだ♂

    ファンタジーパラレルなロビぐだ♂第2話「――――――ああ、ロビン!いたいた!」



    名前を教えあった日から、立香は度々森を訪れるようになった。
    彼は街で一番大きな屋敷で働いているらしく、森にまつわる仕事を積極的に引き受けたり、仕事を早く終わらせたりして会いに来ているようだ。
    当初、ロビンは面食らった。今までこうも足繫く誰かに通われた経験がなかったからだ。
    とはいえ、煩わしいなら無視すれば良いだけの話ではある。やろうと思えば一切の痕跡を掴ませず他所の地域へ移ることさえ出来るだろう。その程度やり遂げられるぐらいの経験は積んできた。
    けれど、実行する気にならないのが自分でも不思議だった。立香はロビンが引こうとした予防線を軽々と越えてくる。それなのにどうしてか不快さがないのは、きっと彼がロビンの本当に踏み込んで欲しくない領域にまでは入ってこないからだ。境界の一歩手前からこちらを見つめているかのような距離感はロビンにとって心地好い。
    ただ、些か戸惑ってしまうだけで。

    「俺がロビンに会いたくて来てるんだ。俺はロビンと会って、話せるのが嬉しいよ。それじゃあ、ダメ?」

    一度訊ねてみたことがある。自分などに構って何がしたいのかと、はぐれものの所に通って何が楽しいのかと。そうして返ってきた答えが先程の言葉だった。こてん、と首を傾けた彼にロビンは肯定も否定も出来ず沈黙を選んだ。こんな風に真っ直ぐな好意を向けられたのは久方ぶりで、どうして良いか判断に迷ってしまったのだ。
    そして立香の存在は少しずつ、着実に、ロビンの毎日に馴染んでいった。気付けば彼の来訪を心待ちにするようになり、声に耳を傾けるのが楽しく感じられる。時にはロビンの方が街に出て、仕留めた稼ぎを卸すついでに少年の姿を探しもした。これまでの自分在り方からは考えられない変化。絆されていると自覚しつつも正す機会を逃し続けているのは、立香の隣があまりにも居心地の良いものだったから。

    「……それでね、この間庭師さんの植え替えを手伝ったんだけど……」

    立香はよく喋る性質だった。屋敷の花壇の花が綺麗に咲いたこと、調理場でこっそり焼き菓子の欠片を分けてもらったこと、森で見かけた青い小鳥のこと、街にやって来た旅芸人の一座のこと、刺繍が巧い仕事仲間に縫物を教えてもらっていること。よくも毎回話題が見つかるものだと感心するほどだ。だが、まくし立てるような喋り口ではないから耳を傾けていても不快ではない。話しながらくるくると変わる表情も、見ていて少しも飽きなかった。それにこちらが―――自分のことを話すのはあまり好まない筈が、彼といるとつられてしまう―――話す際には遮ることなく耳を傾ける。そういうことが自然と出来る人間であるのも、居心地の要因の一つだろう。

    そうやって邂逅を重ねるうちに、時折話が立香の身の上話にまで及ぶことがあった。
    立香はロビンと同じく天涯孤独だった。幼い頃に住んでいた村が戦禍に巻き込まれ、己の命以外の全てを失ったという。そして半ば攫われる形で人買いに売られ、今の屋敷に小間使いとして買い上げられたのだとか。
    立香、という異国の響きの名前は母親がつけたそうだ。彼女は海の向こうから訳あってこの大陸に渡り、土地の男と結ばれて息子をもうけた。黒髪と蒼眼の珍しい取り合わせはそういうことらしい。もう何年も正しい発音で名を呼ばれていないと、彼は少し残念そうに話した。さもありなん、外つ国の音は慣れていないと難しい。事実ロビンも最初の握手で聞いた通りには発声出来なかった。

    「それでも、記憶があるだけ俺は恵まれてると思う。仲間の中には、家族のこと何にも覚えてないって子もいるから。」

    名前の由来の話になった時、彼はそんな風に締めくくった。それも強がりなどではなく本心から。
    何でも、屋敷には立香と似たような境遇の者達が他に何人かいるらしい。経緯は千差万別だが身寄りがないのは皆同じで、与えられた使用人用の小屋で寝起きを共にし、住み込みで働いている。その中にはまだ十にも満たない子供や、父母の記憶を何一つ持たない子供もいるのだそうだ。立香は仲間内では年嵩で――――とてもそうは見えなかったが彼はもうすぐ十七になる。幼く、もとい若く見られるのは母方の血筋だそうだ――――年下の面倒を見てやることが多いせいか、懐かれているらしい。立香も弟妹のように可愛がっている。
    そんな彼らが、時折泣くのだ。親元で養育されている他の子供を羨み、顔も分からない父母を恋しがって。
    それが我がことの如く悲しいのだと、立香は言う。宥めて同じベッドで眠ってやるくらいしか出来ないのが不甲斐ないとも。彼とて、決して大人ではないのに。
    けれど、立香らしいとも思った。その頃にはもう理解ってしまったからだ。彼は、誰かに寄り添えてしまう気質なのだ。例え自分を後回しにしてでも。
    ―――立香は、時折片頬だけ朱くしている時があった。理由を訊いても中々言いたがらなかったが、手当てをするからと無理やり聞き出せば、主人の息子にやられたのだと云う。その後こっそり街で仕入れた情報から察するに、立香達が仕える一家は支配階級にありがちな横柄さで家人にも辛く当たっているようだ。当主は権威主義、婦人は血統主義、息子や娘は自分本意で癇癪持ち。絵に描いたような傲慢さだ。使用人の子らが夜泣きを起こす遠因はそこにもあるだろう。
    しかし仲間を思いやることはあれど、立香の口から不平不満が出るのを聞いたことがなかった。彼はあれだけ話の種を蓄えているのに、そこに誰かを謗る言葉や陰口が含まれていた試しがない。
    それをいじらしいとも思うし、やるせないとも思う。時には怒りさえ湧いてくることもあった。無論、それは立香に責がある訳でなく、かといってロビンにはどうしてやることも出来ない、行く先の見つからない衝動だ。
    決して、決して義憤ではない。差別も冷遇もよくある話だ、似たような状況は探せば幾らでも見つかるだろう。これまでだって旅先で耳にした噂に眉を顰めど、それ以上心を動かしはしなかった。
    憤るのは、立香だから。対象が他でもない彼であるから、こうも我慢ならなくなる―――気付いた時には既に手遅れ。ロビンはもう、立香に惹かれてしまっていた。

    蒼く澄んだ瞳が好きだ。朗らかな人柄が好きだ。あちこちに跳ねた黒髪が好きだ。人を和ませる雰囲気が好きだ。感情を乗せて弾む声が好きだ。肉刺のある手が好きだ。当たり前のように持ち続ける善性が好きだ。あどけなく綻ぶ笑顔が好きだ。


    立香を構成する全てが、好きだった。


    麻疹初恋はとうの昔に済ませている。その土地限りではあったが懇ろになった相手もいた。見てくれの良さと口の巧さには一端の自負があり、有効に利用してきた自覚もある。後腐れのない関係性を好んだきらいはあるが、色恋沙汰の作法は一通り身に着けていたつもりだった。
    それがどうだ、立香に対してはまるで意味をなさないのだ。
    感情の制御が利かない。情動ばかりが先行して、闇雲に手を伸ばしたくなる。雛菊を手折るが如く懐に忍ばせてしまいたいのに、誰にも傷つけられぬよう柵で囲って隠してしまいたいとも思う。奪いたくて、守りたい。ちぐはぐで矛盾した衝動。整合性が取れているのは、ただ少年が愛おしいという一点のみ。ああ、これが恋だとするならロビンは生まれて初めて焦がす炎の熱を知った。

    ――――――離れなければ。

    御せないものを抱えてしまったと悟ったロビンが、真っ先に思ったことがそれだった。

    この期に及んでなお、二十数年かけて染みついた癖は消せない。誰かに執着すること、それはロビンがずっと避け続けてきた在り方だ。誰とも同じ世界を見られない孤独。物心ついた頃から薄絹ヴェールのように己を取り囲む疎外感。どうしても振り払えないそれらは、踏み出す一歩に纏わりついて視界を遮り行く手を阻む。
    ―――とんだ臆病者だ。ロビンは自らを嘲笑う。
    結局のところ、己の変貌が恐ろしくて二の足を踏んでいるのだ。これ以上深入りすれば―――これ以上、愛してしまえば。きっともう以前の自分には戻れない。此処が最後の分岐点。昔から危機の察知だけは得意な直感がそう告げている。
    だからロビンはとうとう、ずっと触れないようにしてきた話題について口を開いた。
    それは己が人格形成の基盤にあるもの。放浪の生き方を選んだ理由。これまでは話の流れがそちらへ向かいそうになる度はぐらかしていたが、こうなっては逆に利用するまでだ。
    いっそ“妖精憑き”を気味悪がってくれたなら。その面差しに少しでも嫌悪がよぎるのを目の当たりにすれば、この感情にすっぱり見きりをつけて殺してしまえる。
    刃の持ち手を立香に託す卑怯な手段だ。しかしこれしか方法がない。
    あのきらきらと煌めく両目を前に、自分から拒絶しきれる自信がなかった。


    ◇◆◇



    「…………妖精?」

    一等星に喩えられた瞳が瞬く。交じり気のない蒼から目線を逸らしながら、ええ、とロビンは相槌を打った。

    打ち明けると決意した数日後、何も知らない立香はいつものように姿を見せた。あどけない笑顔をここまで緊張した思いで迎えたのは後にも先にも今日だけだろう。ロビンは内心の荒れ模様を出来うる限り表面に出さず迎え、木陰に座り込んで二つ、三つ、他愛もない話を挟んでから―――本題を切り出した。
    生まれのこと。孤児院のこと。放浪を選んだ理由、すなわち”妖精憑き”であること。故郷を出てから誰にも明かしてこなかった秘密を洗いざらい吐き出した。縁一杯まで水を張っていた桶を引っくり返すように、今まで担いだまま一度も下ろさずにいた荷を放り投げるように。声音は奇妙な程軽く、言葉は溢れ出て止まらない。これではまるで滑稽な狂言回しだ。そんなことをどこか頭の片隅で、他人事が如く感じていた。とめどない台詞の奔流に呑まれながら。
    それでも立香は最後まで茶化しも嗤いもしなかった。水面虹彩は漣程にも波打たず、凪いでこちらを見つめている。時折短い相槌を打つぐらいだ。

    「―――ってな訳で、流れ流れてここまでやって来たんすわ。」

    長台詞を吐き切り、軽薄な調子で締めくくる。束の間訪れた沈黙。暗転のようなそれに小さく息を吐いた。そうして前髪越しに左側を窺う。
    金茶の御簾の向こうに見える少年。そこにほんの僅かな翳りでもあろうものなら、ロビンは今日明日にでも森を発つつもりでいた。

    ―――だと、いうのに。


    「…………じゃあ、ここにも妖精がいるの?」


    こちらに向いた二対の湖面は、何も変わらず美しかった。


    「……へ?」
    「だから、この森にも妖精がいるのかなって!」

    ぽかんと口を開けてしまったロビンに立香が焦れたように迫る。前のめりで距離が縮まった分表情がよく見えた。そこには負の要素など欠片もなく、ただ好奇心と高揚に煌めいて。

    「あー、まあそりゃ居ますが……というか、最初にアンタが居るのを教えてくれたのもそいつらで」
    「っ、すっごい!!」

    呆気に取られて答えると、少年の弾んだ声音が言葉尻に被さった。やや上気した頬は童顔をますます純朴に見せる。

    「すごいね!俺、小さい頃母さんに昔話たくさん聞かせてもらったんだ。魔物退治や魔法使い、妖精の話も!魔物はたまに出るから居るの知ってるけど、そっか、妖精も本当に居るんだ……!」

    はしゃいだ調子の語り口。きらきらと眼を輝かせる様子は無邪気な少年そのものだ。あまりに真っすぐな反応をするものだから、ロビンの方が言葉に詰まってしまった。

    「……どうしたの?」

    それこそ、不思議そうに問いかけられるまで。

    「……あー、その……信じるんですか?」
    「え?嘘なの?」
    「いや本当ですけど……」

    思わず口からまろび出た思考に立香がきょとんと目を見開く。尤もな返しを反射で否定して、暫し次の言葉に惑った。

    「……そんだけ、なのかと。もっとこう疑うとか、あと、気味悪いとかそういう……」

    卑屈なことを口にしている自覚はあった。その意識がついつい目線を下げさせる。己の体質に所以する種々の感情は長年抱えるうちに縺れて簡単にほどけなくなった。複雑に凝り固まった意識は重く、自ずと顔を俯かせる。

    「―――何で?」

    その下がった視線を上向かせたのが立香だった。それも物理的に。
    彼はロビンの両頬に手のひらを添え、強引に自分の方へ持ち上げた。密度の濃い睫毛に縁取られた二つの蒼玉。曇りない眼差しが正面からこちらを射抜く。

    「何で、って……」
    「だって、言い難いことを話してくれたんでしょう。なら疑う訳ない、信じるよ。そこまで話してもいいって思ってくれたことが嬉しいもの。あと、気味悪がるとかないから。絶対ないから。」

    口ごもるロビンとは対照的にはっきり言い切る立香。迷いのない声音はいっそ清々しい程だ。想定とはまるで反対の展開にロビンは戸惑ってばかりであるのに。

    「……どうして、そこまで。」

    混乱する思考の中、やっとのことで形に出来た音がそれだった。こちらとしては当然の疑問だったのだが、彼にとっては然程不思議なことではなかったらしい。どうしてそんなことを、とでも言わんばかりの顔で一つ瞬きをしてから、にんまりと両頬を持ち上げた。
    それはいつか覚えた既視感。いつ見たもの表情だったか記憶の貯蔵庫をあたる間に、日々の仕事で荒れた手はロビンから離れていった。けれど二人の距離に変化はなく、目と鼻の先で甘やかな面差しに悪戯めいた色を刷いている。弧を描く楽しそうな双眸。しかしながら薄紅に染まった頬が底に敷かれた恥じらいを隠しきれていない。面貌に滲むほのかな艶めかしさはいつもの稚さと相反するもので、だからこそ見る者ロビンの心臓を跳ねさせた。

    「……だって。」

    一度言葉を区切り、立香はとっておきの秘密を明かす時の調子で言う。




    「―――――俺は、ロビンが大好きなんだ。今更そんなことで離れたりなんか、してあげないよ。」




    目元辺りまで真っ赤にして、それでも強がるように悪戯小僧の態度を崩さない。ふふ、と音を乗せずに吐息だけでから綻ばせた一片の花びら笑みは、たちまちロビンに届いてその喉を塞いだ。
    身体の奥底から際限なく湧き上がる衝動が堰き止められた胸元で詰まる。こんなものは知らない。愛しい。狂おしい。守りたい。恋しい。欲しい。貪りたい。苦しい。眩しい。慕わしい。愛おしい。愛おしい。愛おしい!目の前の少年へ向かう情動の流れはあまりに激しく、呼吸すら儘ならなくさせた。


    「…………オレも、アンタを愛してる。リツカ。」


    震える声音ではそう呟くのがやっとで。
    気付けばロビンは、彼の痩躯を引き寄せて強く強く抱き締めていた。


    ◇◆◇




    そうして二人は、情を通わす仲となった。
    ロビンは立香の初めての恋人であり、同時に立香もロビンにとって初めて本気で愛した相手だ。旅渡りの狩人はぐれものは自分がここまで深く誰かを慈しめたことに心底驚き、要因になった少年をますます愛おしく思う。
    晴天をくり抜いた虹彩を、風に揺れる癖っ毛を、色鮮やかに塗り変わる表情を、よく動くふっくらした唇を、誰よりも近くで見ていたい。一度観念して受け入れて―――言葉を選ばずに表現するなら“開き直って”―――しまえば、とめどなく慕情は溢れ出る。正直な欲求に従い、ロビンは逢瀬の回数を増やした。
    勿論、屋敷付きの使用人である立香にこれ以上時間を融通させるのは難題である。故にロビンが彼の元を訪れた。昔取った杵柄、本宅ならともかく敷地の片隅程度なら夕闇に紛れて忍び込むのはお手のものだ。
    一輪の可憐な野花、食べ頃に熟れた木の実、細く束ねたラベンダー、戯れに編んだ月桂冠。鳥の求愛よろしく何かしらの手土産を携えては愛を囁きに来る男に、自分は戯曲の乙女ではないと唇を尖らせつつ、満更でもなさそうに細まる瞳を見るのが好きだった。
    身を寄せ合う番のような仲睦まじい二人の噂は、妖精の間でもすぐ広まったらしい。くすくす笑いと羽音を響かせながらこぞって祝福しに来たし、風の精霊エアリエルに至っては何をどう勘違いしたのか、そしてどこで調達してきたのか、オレンジの花を頭上から大量に降らせてきた。これに関しては切に勘弁願いたかった。狩りの真っ最中に視界へ降り注いだ白い花の雨のおかげで、ロビンは狙った獲物と明後日の方向に矢を飛ばしてしまったのだ。
    とはいえ、そんなささやかな事件はありつつ二人の恋路は平穏だった。






    ―――不穏な話を風が運んでくるまでは。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏❤❤💯💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ロビぐだ♂とヘクマンを書きたい

    DONEそれは誰も知らない、本を閉じた後のお話。

    昔呟いてたロビぐだ♂ファンタジー(元ネタ有り)パラレルを今更小説の形でリメイクしてみたものの最終話。
    てなわけで完結です。長々とありがとうございました。

    ちなみにこのシリーズの全部をまとめた加筆修正版を一冊の文庫本にして今度のインテに持っていく予定です。紙媒体で欲しい方はよろしければ。
    ハッピーエンドは頁の外側で──────復讐を果たした代償のように魔道に堕ち、死ぬことさえ出来なくなった男は、それからの長い時を惰性で生きた。
    妖精達と再び会話を交わせる程度には理性を取り戻したものの、胸の内は冬の湖のように凍りつき、漣さえ立たない。自発的に行動しようとはせず、精々が森を荒そうとする不届き者を追い払ったり、興味本位でやって来る他所からの訪問者をあしらったりする程度。
    このまま在るだけの時間の果てにいつの日か擦り切れて、消滅を迎えるのだろう。その刻限を恩赦と捉えて待ち続けることを化け物は己自身へ科した。巡る季節と深さを増す樹海を他人事として感じ取りながら、摩耗しきるまでただ無為に時間をやり過ごす日々。繰り返しでしかない朝と夜を重ねること幾百年の末。
    5182

    related works

    recommended works

    nekoruru_haya

    DONE現パロ、ナチュラルに同棲。細かい事は気にしない方へ。
    ちょっとだけ血が出ます。
    「僕に洗わせてくれないかな!」

     真っ新な碧空みたいにキラキラした目でそう言われたら、断る事なんて出来ないよねえ。



     事の発端は僕が右手に包帯をして帰ってきたところから。まあ、手のひらをざっくり切ってしまっただけなんだけれど。それを見た松井が何故か喜々として「お風呂はどうするんだい?」って訊くから、どうしようねえ、なんて悠長に返事をしてしまった訳だ。身体はともかく、頭を洗うのは片手では不便かもと一瞬でも浮かんでしまった自分を呪う。
     その結果が冒頭の一言。
     そして今、僕は非道い目に遭っていた。

     先ずは冷水を頭から被せられた。初夏の気候とは言え冷たいには違いない。松井が温度の調節をする間中、冷水と熱湯を交互に掛けられてある意味健康になれそう。そう言う意味では健康だから必要ないんだけれども。
     漸く頭を濡らし終わっていざシャンプーな訳だけど、ここでも一悶着。
    「待って、松井。それ松井のシャンプーでしょ」
    「そうだけど」
    「僕ので洗ってよ」
    「もう手に出してしまったし、これ髪がサラサラになって」
     松井の髪ならサラサラになっても構わないし、むしろその方が良いんだけれど、僕の髪が 1626

    genko_gorilla

    MAIKING雑伊で現パロ(作家と編集)。
    長文や会話練習、体力づくりを目的に、毎週更新→ある程度まとまったら整えて支部にアップを予定しています。毎金曜目安。秋までに書ききりたい。ファイト自分。

    ・支部にアップする際に大幅加筆・修正の可能性があります
    ・誤字脱字因果関係の齟齬もその段階で直しますので見逃してください
    ・週刊漫画誌のネーム連載とか許せない方には向いてないです
    ・これは雑伊なのか?
    タイトル未定(作家と編集)★8/22追記 Pixivにて完成版を掲載しました!★
    みなさんからのリアクション(絵文字)を消すのが忍びないので、
    こちらのポイピク版はこのまま残させてもらいます〜




     編集長に声をかけられたのは、あるうららかな春の昼下がりだった。
    「善法寺、お前そろそろ担当つくか」
     薄汚れた社内の廊下。切れかかった蛍光灯が、ぢりぢりと小さな音を立てている。企画書のコピーとゲラの束を抱え、会議室に走っていた伊作は、すれ違い様の唐突な申し出につんのめりそうになった。
    「担当……ですか?」
    「うん。文芸編集部に入ったからには、やっぱり作家の一人や二人担当してなんぼだろ。お前、今月で二年目に入ったよな?」
    「はい」
    「じゃ、そろそろいいだろ。いい加減雑用だけで給料もらうにも飽きた頃だろうし」
    20414