かわいい子には噛みつきたい。 (マサ音)ピチチチッ、と爽やかな歌が幾重にも聴こえる。
様々な音階が掛け合わさる旋律が耳に心地よく、いつまでもこのままでいたい気持ちに駆られる。だが、その一方で身体は芯から冷え込み、寒さにふるりと身震いをして身を丸めたものの、動けば動くほどに背中、次に腿と冷える部位が増えていく。
観念してゆっくりと瞼を開けて、薄らと差し込む白に数度瞬きを零してから冷え込む己の身体に目をやれば、その姿にぎょっとした。
なんと、全裸である。周囲に寝相が悪いと幾度か言われたことはあるものの、帯のお陰でここまで破廉恥な姿を晒したことなど一度もなかった。その命綱たる帯は寝巻きの浴衣や下着と共に何故か床に散っていた。
一先ず冷えた身体を温めようと横に固まっていた掛け布団を引寄せながらこのような醜態になってしまった事の顛末を思い出そうと身体を起こせば、隣から小さな呻き声のような音が聞こえた。
「……? 、なっ⁉︎」
手繰り寄せた布団の山がなかなか消えない謎と共にはらりと捲れば、そこには同じく全裸の一十木の姿。しかもその身体には薄らとした噛み跡が幾つも刻まれており、目元は少し赤く腫れている。
状況として明らかに事後であること以外考えられないのだが、アイドルとして支障になるようなことは……こういった痕は絶対に残さないと心に固く誓っていたというのに。俺は昨日、何をしていた?
午前中は雑誌関連の仕事をして、午後は一十木と望んだCM撮影も無事に終了し……そうだ、昨晩はその打ち上げで二人してほろ酔いで帰宅して、そのまま興が乗って目眩く艶やかな夜へ────。
「(ああ、俺はなんてことを……)」
辛うじてゴムを付ける理性はあったらしく、だがしかしその数が、その……一十木、本当にすまない。
そう謝罪を込めてそっと頬を一撫ですると「ましゃ……」と舌足らずな寝言を溢し、幸せそうに擦り寄ってくる。
こんなに目尻まで腫れ上がらせて、俺はどれだけ彼を泣かせてしまったのだろう。それなのに、こんなにも幸せそうに笑ってくれるから、どうしようもないくらい愛しさが胸の奥底から込み上げてくる。
「愛している、……音也」
普段であれば決して呼ばない彼の名をぽつりと溢し、その身を抱き寄せながらそっと瞼は口付けを落とす。「ん……」と小さく声を洩らし微かに身動ぐも直ぐに規則正しい寝息が聞こえ、その様子に自然と笑みが浮かんだ。
「(……起きたら今日一日は存分に一十木を甘やかして介護しなければな)」
そんな思いを胸に抱きつつ、彼の額へと頬を寄せて再びゆっくりと目を閉じた。