1/17白く細く、力強い手 夜、かわいい秘書(研修中)とソファで並んでテレビを見ている。彼女の片手が俺の膝の上にあるので握ったり撫でたりする。
細くて、油断したら折れそうなので優しくそっと、でも温かさを感じたいからたまに力を入れる。柔らかくて、けど、水仕事をするから少し荒れている。
浮いた血管には血が流れていて生きているのがわかる。そりゃそうなんだけど、実感できるとやっぱり嬉しい。
小さな手は俺の手の中に収まるくらいしかなくて、両手で掴んだら全然見えない。けれどこの小さな手に引っ張られていると思うと大事にしたい。
「メフィスト様」
「うん?」
「テレビ見てます?」
「あんまり。間違えた。全然」
「やはり」
そう言うと彼女はテレビを消してしまった。俺 はテレビが何を映していていたかも分からないくらい観ていなかったけど、彼女は観ていたのではないのか。
「観てなかったの?」
「ええ。私はメフィスト様を見てましたよ」
「気付かなかった」
「ずっと私の手を見てましたものね」
そう言うと彼女はぽてっと俺の腕にもたれかかる。あまり甘えてこない娘だから、たまにそういうことをされると、すんごい嬉しい。あまり寄り付かない念子が指先を舐めてくれたくらい嬉しい。
彼女は俺の片手を持って膝に乗せる。親指から順番に押されたり擦られたりする。
「私、メフィスト様の手、好きです」
「そうなんだ。知らなかった」
「顔と体も好きです」
「それは知ってた」
彼女はくすくすと笑って俺の手のひらに自分の手を重ねた。
「大きくて温かいです」
「君の手は小さいけど温かいし力強くて好きだよ」
「そうですか?」
「そうなんだよ」
そう言って握った手はやっぱり小さいけど、ここまでずっと俺を引っ張ってきた力強い手だ。
一人でもきっとどうにかはしていただろうけど、それはそれ。なくて良くても、一度その温かさを知ったらもう手放すことなど出来ない。
「テレビ」
「うん」
「見ていないなら寝室に行きましょうか」
「……お誘い?」
「そうとっていただいて、かまいません」
彼女はすっと立ち上がって俺の手を引いた。その手に引かれるなら、たぶん地獄の釜にでも付いていくだろう。