1/19趣味がバレている「……」
私は衣装部屋で悩んでいた。明日の貴族との会合でメフィスト様に着ていただくスーツについてである。
「何着ても似合うからなー」
そう、メフィスト様は何を着ても似合う。何を着てもかっこいいので逆に選べない。とりあえず冬物で、お偉いお貴族様に新13冠だからと舐められないよう仕立ての良いもので、尚かつメフィスト様の良さを100%引き出せるもの。
「うーん。こないだストライプだったから……次は無地か……や、でもこっちのスリーピース好きなんだよなあ」
私が! 私がスリーピーススーツが好きなのだ。いいよね、スリーピース。けど、うーん。もうちょっとラフなものでも……。
「ねえ、まだかかる?」
「うっわ、びっくりした。メフィスト様、いかがなさいましたか」
突然声をかけられて、びっくりしすぎてちょっと浮いた。メフィスト様は一枚の書類をヒラヒラさせている。
「これ、この書類の宛先を確認しに来たんだけど」
「それはワンダラー・ガイスト氏宛のものです」
「……スーツもそれくらい一瞬で決まらない?」
「それは無理ですね」
どうして……。メフィスト様が口の中で呟く。いや、無理でしょ。無理だよ……。
「仕方ないじゃないですか、メフィスト様かっこいいから」
「関係ある?」
「ありますよー! 何を着てもかっこいいなら全部着てみてほしいんです。でも着てくれないじゃないですか。だから、毎回毎回苦慮の末にその時一番似合いそうなものを選んでいるんです」
「そっか」
そっかで済まされた!!
「じゃ、明日はこれね。細いやつ」
「えー」
「えー。じゃないよ。他にもやることがあるでしょうが。俺まだコーヒー出してもらってない」
子供みたいなことを言うな!! と、思うけど、たぶん向こうもそう思っているので引くことにする。
「わかりました。そうしましたらこちらのスーツの用意が済み次第、書斎にコーヒーと茶菓子をお持ちします」
そう言ってメフィスト様を衣装部屋から出す。
これかあ。悪くはない。ぜーんぜん悪くない。むしろ好き。なにが悔しいって、たぶんこの細身のスーツを私が好きなのバレてて選ばれたことなんだよな。