2/16俺のかわいい娘は、たまにやたらとカッコイイ ある日、秘書と共に管轄領地内に新しくできた施設の視察に行った。
視察に行くことは事前に通達してあったので、着いたらすぐに責任者が出てきて案内をしてくれる。
通路を歩いていたら、突然目つきのおかしい悪魔が飛び出してきた。
「お前が! お前のせいで!!」
怒鳴りながら手をこちらに向ける。バチバチと魔力が弾けるような音がした。
「っ」
咄嗟に秘書を庇おうとしたけど、ソイツは白目をむいて倒れてしまった。
「メフィスト様、お怪我はございませんか?」
後ろから涼しい声がする。
振り返ると秘書がいつもと変わらない澄ました顔で俺を見上げていた。
「君が、やったの?」
「はい。殺してはいません。あの、この方は警備に引き渡せばよろしいでしょうか」
彼女は倒れた悪魔を片手で拾い上げつつ、後半は施設の責任者に向かって言う。
「は、はい。申し訳ございません!!」
「この方についてご存知ですか?」
「――元々、この施設ができる前にこの場所で商店を営んでいた者でして」
「メフィスト様」
「うん。ちょっと話を聞かせてもらおうか。俺の命も狙われたことだしね」
もちろん13冠としてのお仕事の一環だ。……けど、半分くらい八つ当たりも混じっている。
かわいいかわいい秘書に格好良い所を見せようかと思ったら、俺よりよほど彼女の方が格好良かった。
一つも動揺せず、あっという間に片付けてくれちゃって。
危ないところだった。既に好きじゃなかったら、恋に落ちるところだった。良かった、とっくに好きになってて。なんにも良くない。
「メフィスト様?」
「ん、どうしたの」
「行きましょう。あの責任者、たぶん叩いたら大量に埃が出てきます」
「――そうだね」
秘書が背伸びをして口元に手を当てるので、屈んで耳を寄せる。
「なあに」
「叩くのはお任せしていいですか。あの手の方って女悪魔の言う事とか聞かないので。――かっこいいところ、見せてください」
思わず彼女を見ると、ニコッと笑った。
相変わらず、俺は手のひらでコロッコロに転がされている。