6/3mfst6/6の午後の話 メフィストさんとの通話を終えて席に戻ると、隣に座っていた先輩がちらりとこちらを見た。
「ずいぶんご機嫌じゃない。いいことあった?」
「夜にちょっと楽しみな予定があって」
つい、そう言うと先輩はにっこり笑う。
「あら、いいじゃない。金曜日だもの。私もたまには旦那と二人で飲みに行こうかしらね」
おしゃべりしながら、ゆるっと午後の仕事を始めた。
……私は、そんなに機嫌良く見えるんだな。ほんの三十分ほど前までは、気分は最悪で泣きたいくらいだったのに。
メフィストさんが電話してくれただけで、他の人にもわかるくらい機嫌よくなっちゃうらしい。あまりにチョロいのでは? 彼氏に捨てられて一週間で、他の男に慰められてニコニコしてるのって、ちょっと軽すぎじゃない?
ぐうの音も出ない。
だってさ、仕方ないじゃん。
メフィストさんの甘やかし力(ぢから)、高すぎ。なんなの、一万ビルのパンケーキって! 元カレからバカにされてから、パンケーキがなんとなく苦手で、ずっと避けてた。
どうしても食べたくなったときは、ホットケーキミックス買ってきて自分で焼いてた。……ファミレスとかで食べて、また何か言われたらってと思うと怖くて、外じゃ食べられなかった。
……そこまで苦手だったのに、メフィストさんには「パンケーキ食べたい」って素直に言っちゃったんだよね。なんでだろ。
メフィストさんは笑わなかったから、結果オーライなんだけど。
楽しみだな。一万ビルのパンケーキ。きっとふっかふかで、美味しいんだろうなあ。しかも「食べ放題できるくらい頼んだ」って言ってた!
想像しただけでワクワクしてくる。
「……顔」
「えっ……?」
気づくと先輩が苦笑いでこちらを見ていた。
顔?
「顔がゆるゆるになってるわよ」
差し出された鏡に映ってたのは、仕事中の顔とは思えない、ニヤニヤ顔の女悪魔だった。
「……失礼しました」
「別にいいけどね。そんなに楽しみな予定なの?」
「はい。知り合いと……ちょっといいパンケーキを食べに行くんです」
つい口に出しちゃった。でも、笑われても、今なら大丈夫な気がする! 構えていたけど、先輩は柔らかく笑った。
「いいわね、パンケーキ。最近、自分で作っても子供たちに食べさせてばかりだわ。うん。私も土日に食べに行こう。まあファミレスだろうけど……」
……そっか。パンケーキを食べたいって、変なことじゃないんだ。
先輩やメフィストさんが大人だから、落ち着いた対応をしてくれてるのかもしれないけど。それでも、傷ついていた過去の私が、ちょっと元気になれた気がした。
早く、メフィストさんに会いたい。