6/4mfst6月8日の夜の話 彼女からの魔インを読んで、我慢できずに通話ボタンを押してした。
『はい、どうかなさいましたか?』
まだまだ硬い話し方。でも、口調はこの一週間でかなり柔らかくなったと思う。
「声、聞きたくなっちゃった」
俺の声は情けなくて、自分でも呆れるほどだった。このまま幻滅されてしまいそうで怖い。
『さっき分かれたばかりじゃないですか。お送りしたデザートビュッフェ、見ました?』
「うん。おいしそうだから、そこにしようか」
君が俺のために選んでくれた場所だから、そこにしたい。
こんな情けない声でも、君は呆れずに受け止めてくれる。
ああ、会いたいな。
「そうだ、他の悪魔にはセフレじゃなくて彼氏って言ってね」
『彼氏、ですか』
「他人にセフレって紹介するわけにいかないでしょ」
『そうですね。わかりました』
彼女はすんなり受け入れてくれて、ホッとした。
「会いたいな」
思わず呟く。ス魔ホの向こうで彼女はどんな顔をしているだろう。俺は、ヒトに見せられないほど情けない顔をしている。
会いたいけど、この顔は見せられない。
『明日また、迎えに来てくれるんですよね?』
「えっ、うん。そのつもり」
『わかりました。お待ちしてます』
……これは、なだめられたってことか。情けないくらい、かっこ悪い。
落ち込んでいると、ス魔ホの向こうから声がした。
『会ったら、何がしたいですか?』
「えっ、なんだろう……たぶん、顔が見たいだけなんだけど」
『それなら、ビデオ通話にしますか?』
……やめてくれ。甘やかされると、もっと欲しくなる。
「止めとく。顔を見たらキスしたくなるし、キスしたら抱きしめたくなる」
『ふうん。大変ですね』
まるで他人事みたいな声に、凹んだ。まあ、そっか。そうだよね。面倒くさい思考に陥る前に、終わらせよう。
「うん。だから、また明日会えるのを楽しみにしてる」
『はい。私もメフィストさんが迎えに来てくれるの待ってます』
その後、大きな欠伸が聞こえた。……もしかして、かなり眠いのに、付き合ってくれてる? いつもより声が柔らかい。
『あ、でも。私もメフィストさんの顔見てから寝ようかな』
「えっ?」
慌ててス魔ホの画面を見ると、彼女の顔が映っている。驚いて、ス魔ホを落としかけた。
「ちょっ、待って、えっと……これで映ってるかな? 俺の顔、見えてる?」
『映ってます。でも、すごく眠いので、ちょっとだけですよ?』
微笑む彼女は、ゆったりしたシャツを着ていて、たぶんパジャマなのかな。ベッドに寝転がって、うとうとした顔がたまらなく可愛い。……録画したくなる。
『ふわ……。メフィストさん、いつも何時くらいに寝るんですか?』
「日によるけど。だいたいもう少し遅いかな。君は、もう眠そうだ」
『はい。いろいろあったから……眠いです』
「ありがとう、付き合ってくれて」
『ん……いいですよ。デザートビュッフェ、楽しみにしてます』
彼女の目は、もう半分も開いていない。こんなに眠いのに、俺のために起きてくれてる。やっぱり、俺はこの子のことがどうしようもなく好きなんだ。
「おやすみなさい」
『おやすみ……なさい……。また、あした…… 』
しばらく、彼女の寝顔を眺めていた。いつか、その寝顔を隣で見られる日が来ればいい。