12/3お世話というより甘やかしであり、甘やかすのはもはや趣味 寒くて朝起きるのが一苦労になってきた。目が覚めたら部屋を魔術で温める。それからメフィスト様の腕をどかして体を起こす。体を起こすともう一回腕が絡まってくるのでどかして、すると体ごと乗っかってくるのでどかして……と、メフィスト様が諦めるまで格闘し、なんとかベッドから這い出る。
起きたら身支度を整えて新聞やら手紙を仕分けて朝ごはんを用意、終わったらメフィスト様を起こして支度を手伝う。
と言っても一人でベッドを出たことに対する恨み言をしばらく聞けば自分で起きるので、起こすとか手伝いというより甘やかしに行くようなものだと思っている。
「お時間です、メフィスト様。おはようございます」
「おはよ」
メフィスト様は目も開けずに腕を広げるので、はいはいとそこに収まる。
「俺を一人にしないでよ」
「わたくしにも仕事がございますので」
「君の仕事は俺のやる気を出させることだよ」
甘えたにも程があると思う。どうしてこうなった。私が毎朝毎朝甘やかしているからである。
「メフィスト様、起きてくださいませ」
「やだ」
「今日はバール様とお食事の予定ですよ」
「俺の腕の中で他の男の名前なんて出さないでよ」
「……メフィストさま」
「んー」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて苦しいのでもがくけど、開放されるわけもなく。どう説得するか悩む。
「……行かないと、来ますよ。あの悪魔は」
「それはヤダ」
「一緒に朝ごはんにしましょう? メフィスト様のお好きなメニューを用意してございますよ」
「……うん」
押したり引いたりして、なんとか説得成功。弛んだ腕からゆっくり抜け出て、少しいじけた顔のメフィスト様の額に口付ける。
「おはようございます。メフィスト様」
「そこじゃない」
まだちょっと機嫌を損ねているらく、への字になったままの口に唇を落とす。それでやっとメフィスト様は起き上がった。
「おはよ」
「おはようございます。お湯とタオルはこちらに」
「うん」
せっかくなのでもうちょっと甘やかそうかと身支度を手伝う。ちなみにメフィスト様も甘えているだけなので用事があれば朝は普通に起きるし身支度だって一から十までご自身でなさる。
今日はまあ起きたくなくて、というかバール様との食事会が面倒でごねているだけなのだ。
「メフィスト様、帰りに南方の観光地に寄りませんか」
「……うん。そうしよう。楽しい予定を入れておかないとやってられないからね」
「お振るいくださいませ」
笑って支度を終え、寝室を出る。我々の一日は始まったばかりである。