Metal ――どっちがやる?
無言のつばぜり合いを制したのは、ヒュンケルだった。
武器も持たず、奇っ怪な扉の前に進み出る。
「待たんかヒュンケル。話を聞いていたのか」
巨大な鉄のスライムが描かれた鈍色の壁には、古代文字で呪詛が綴られている。
秘宝を求める盗っ人どもよ。
我が扉を破るは、会心の一撃のみ。
資格無き者、たちどころに鉄と成れ。
扉に挑戦した盗賊たちがそこここで、アスパラガスよろしく石化している。
ここは某国僻地、財宝伝説の眠るひなびた村。
おかしな扉が発掘されてからと言うもの、欲にかられた旅人の犠牲者が絶えない。
純朴な村民たちに懇願された国王に懇願された暇人二人が、解決に駆り出された。
先の戦いの功労者、アバンの使徒ヒュンケルと元陸戦騎ラーハルトは、すっかり便利屋扱いだ。
「何らかのコアを砕く必要がある。しかも、一撃でだ」
ラーハルトは顎を撫でる。かいしんのいちげきとやらの定義は不明瞭だが、多分そう言うことだ。
「俺も同意見だ。急所を外せば、呪いが発動する」
と答えて、ヒュンケルはするりと手袋を外した。
細剣を投げ捨て、呼吸を整える。
「……ヒュンケル。お前の戦士としての実力は評価している。だがな」
へんてこなストレッチで腕を回す相棒に、ラーハルトは一応忠告する。
「運が悪すぎるお前が。一発勝負で勝てると思うのか」
「いける気がする」
「感覚で決めるな。貴様の必殺はカウンターだ、相手が動いてこそ発揮される」
「分かってるさ」
「俺の方がまだしも」
「ラーハルトは全てにおいて迅速で正確だ、だがな」
ふう、と、意味もなく拳に息を吹く。
「運任せの一撃は素人だろ」
ヒュンケルはそう言って、ごき、と首を鳴らした。
「古代、遊び人と蔑まれた勇者の仲間は。その職業を極めた挙句、賢者へと変貌したと言う」
闘気をこめた右手を、ぐぐ、と握って後ろへ引く。
「同じことさ、ラーハルト。運の悪さを極めた俺には、資格があるんだ――いざと言う時に、必要な一撃をぶちかませる運命が」
何がどう同じなのか全く理解できなかったが、とにかく。
ヒュンケルは、ざ、と左足を踏み込むや、全力の拳を叩きこんだ。
ごぉん。
直撃から数秒。
数十秒。
華やかなファンファーレとともに、呪われし『メタルの扉』は音もなく崩れ去った。
「ほらな」
ヒュンケルはこともなげに、奥へと踏み込んでいく。
「財宝って何だろう。楽しみだな」
「……」
納得がいかないが、ヒュンケルがそう言うなら、そうなのだろう。
ラーハルトは考えるのを止めた。