traitorそれは、降って湧いたような災厄だった。
プリンセスの要求はいつも唐突だ。
レオ「だから。デパートに行きたいから二人で私を護衛して頂戴」
ヒュ「…お言葉ですが、姫。俺よりもラーが適任かと」
ラー「(何を言い出すんだこいつは、 の目)」
ヒュ「元軍団長の俺よりも格下だから、要人護衛に慣れている」
ラー「(なんかムカつくけれど間違ってはいない、 のふくれっ面)」
ヒュ「誰より速く、リーチも長い。ラーがいれば安全だ」
ラー「…その点は同意だ。だが、人間どもの街で魔族の俺は目立つだけだ。ヒュンひとりの方が」
ヒュ「いや、純粋に能力で判断すべきだ。うんのよさの数値を見るが良い。俺が行けば馬車は渋滞し、突然消費税率が上がり、安全なデパートの床も抜ける。危険すぎる」
ラー「(不憫な男… の視線)」
レオ「黙らっしゃい! 二人とも来なさい、命令よ。姫は両手に花を所望なの」
ラー「」
ヒュ「」
レオ「次期女王に歯向かったりしないでしょうね?」
ラー「…ボソ(本当にこいつは王族なのか?)」
ヒュ「…ボソ(そうだ。そして俺は逆らえない)」
ラー「(なぜ俺が巻き添えを食わねばならぬ、 の睨み)」
ヒュ「(大人しく付き合え、逃げるなよ、 の暗黒闘気)」
レオ「なにブツブツ言ってるのよ。さ、行きましょ。ヒムに買ってあげたのとお揃いのセーター、二人にも着てもらわなくちゃ。まだ残ってるといいんだけど」
ラー「(まさかあのダサ…独創的な柄の? のハンドサイン)」
ヒュ「(そのようだな、 のハンドサイン)」
ラー「うっ…」
レオ「どうしたのラー?」
ラー「誰かが俺を呼んでいる…Bラン様…この思念波は、わが主・竜騎将?!」
ヒュ「(何を言い出すんだこいつは、 の目)」
ラー「…ええ…ハイ…今すぐ推参せよ、とのご命令ですね…!」
ヒュ「(お前にそんなテレパス能力実装されてないだろう、のジェスチャ)」
ラー「心得ました…!」
レオ「どうしたの、まさか、ダイ君に何か?」
ラー「いや、心配には及ばん。しかし残念ながら、主がお呼びだ。今は部下としての務めを優先せねば。ご理解いただきたい」
レオ「…そうね。あなたの忠誠には頭が下がるわ。行きなさい」
ラー「恩に着る」
ヒュ「(裏切ったなラー! の口パク)」
ラー「(許せヒュン…こうするしかなかった… の伏し目)」
ヒュ「(誇り高き竜騎衆ともあろうものが敵前逃亡とは片腹痛い、それでも戦士か臆病者、覚えていろ、この報いは必ずや数倍数百倍の呪いとなって貴様に降りかかり、未来永劫ーー)」
レオ「じゃ、行きましょヒュン」
ヒュ「はい」
後日、ホイミスライム柄のニットセーターを装備した魔剣戦士に、出合い頭でソウルスラッシュを食らう陸戦騎。