可愛いのだと言ったらお前は怒るのだろうけれど 深夜の、寝静まったフェルディアの城の執務室。
隣に席を構えて大量の書類と格闘していたフェリクスが、もう限界だと絞り出すようにいった。あまりにも苦渋に満ちた声だったため、ディミトリが体をこわばらせた。
「…ふ、フェリクス」
もう懲り懲りだと怒られたのも懐かしいと言うほど遠くはない。あの頃を思い出したが、今は前より良くなってるはず。それでも自らの不徳故についに見限られたのではないかと心配で、紙で顔を隠しながらおずおずと見ると、フェリクスはなんというか、すごく目が据わっていた。
「眠い」
眠いと彼はこんなふうになるのかとディミトリは思う。いつもは誰かしら、少なくともドゥドゥーが側にいて時間に気を遣っていた。ドゥドゥーは寝れないからと仕事をするディミトリをいつもしかたなく許してくれたから、それはきっとディミトリというよりはフェリクスのためだったのだろうと今ではわかる。フェリクスにはどこか兄姉たちの庇護欲をくすぐる何かがあった。
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