『子守り』「1日だけでいいから!」
暁人が両手を合わせながらお願いしているのは祟り屋達だ。室内にも関わらず傘を被り、顔を布で隠している。
「そもそも我々は子守りでも無く、家政婦でもないぞ」
「そこを何とか~」
「我々に頼らずとも他にいるのではないか?」
「麻里も絵梨佳ちゃんも学校があるし、凛子さんには断られて、エドさんとデイルさんは麻人から金的を食らってそれ以降軽くトラウマになって、金的に関してはKKも」
「祓い屋もか」
確かにあれはクリティカルヒットだった、思い出すだけでヒリヒリしてくる。
「1日だけいいですし、ご飯も作っておいとくので、だったらこの金額で」
暁人は懐から札束を取り出し、おい待てその金はどこから出てきた。
「おまっ」
「で、日にちの方が」
「ちょっと待て、我々にも仕事が」
「テメェふざけたこと抜かすと挽肉にして内臓ぶち撒けてカラスの餌にすんぞ」
「アッハイワカリマシタチャントヒキウケマスノデ」
暁人の顔の左半分が黒く染まりながらドスの効いた声で脅す。過去に麻人を誘拐した前科があり暁人がブチギレて祟り屋達にトラウマを植えつけたため、暁人の前では強く出れないのだ。祟り屋は暁人から札束を受け取ると、暁人は俺に向かってガッツポーズした。そして
「麻人のこと頼んだから、もし何かあったら骨だけは拾ってあげる」
暁人は半ば脅しのようなことを言い残して、俺と一緒に家から出ていった。
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祓い屋に子守りを頼まれてしまった。彼の前では強く出ることができないことを逆手に取られ、断れなかった。とりあえず子守りをするわけになったのだが、あの子供が物陰からずっとこちらを睨み付けている。誘拐紛いのことをされた手前警戒心が強いのだろう。
「そんなところに立ってないでこっち来い」
そう言うと子供は恐る恐る近づいてきた。
「名前は?」
「・・・あさと」
「歳は?」
「ごさい」
名前と年齢を言ったあと黙ってしまった。これは会話を続けるのが難しいな。
「好きな食べ物とかあるのか?」
「・・・りんご」
「なんでりんごが好きなんだ?」
「・・・あまいから」
「そうなのか」
それから麻人との距離を縮めるために質問をした。しかし、距離感が掴めず、話が続かない。掴み所がなさすぎる。
「何か嫌ことでもあるのか?」
「なにも」
「悩み事とかないか?」
「なにも」
「じゃあ何か欲しいものはないのか?」
「とくにない」
「今はないのか?」
「・・・だっこして」
「わかった」
麻人に言われるがまま抱きかかえた。すると麻人は満足そうな表情を浮かべた。どうやら正解だったようだ。
「へやつれてって、あっち」
「承知」
階段を上がり、ネームプレートが掛けられたドアを開けた。部屋には乱雑に置かれたぬいぐるみや玩具が散らかって、ベッドの上にも所狭しと置かれている。壁には巨大な熊のぬいぐるみが置かれていたが所々引き裂かれて綿がはみ出ている。部屋中に貼ってあるシールには、クレヨンで書かれたような字で『まーくん』と書かれている。恐らくだが、彼が落書きしたものだと思われる。ただの子供部屋にしては異質さが漂ってくる。
「君の部屋なのか?」
「うん」
彼の腹を突き破って出た時点で、既に察していたがやはり異質なものを感じ取ったのは間違いではなかった。
「普段はここで何をしているんだ?」
「ひとりあそび」
彼は人形遊びをしているつもりなのだろか。確かに遊んでいるように見えなくもないが、傍から見るとぬいぐるみを引きちぎって、それをゴミ箱に投げ入れているだけだ。この光景を見たら一般人は間違いなく卒倒するであろう。
「楽しいか?」
「うん」
「それは良かった」
「いっしょにやる?」
「遠慮しておくよ」
「そっか」
麻人は悲しそうな顔をしていた。彼なりに気を使っているのだろうか。しかし、こればかりは譲れない。この子と一緒に遊ぶのは非常に危険だと本能で感じ取っているからだ。
「そうだ、一緒に昼寝でもするか」
「ねるのすき」
「そうか、なら早く横になれ」
麻人を横にさせると、すぐに眠気が襲ってきたようで、スヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。これでやっと
「好き勝手できると思ったら大間違いだ戯け」
子供とは思えない声と共に後ろに引っ張られた。
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「ただいま~いい子にしてた?」
「あっママ」
「なんだこれ?」
暁人と出先から帰ったら麻人が祟り屋を引きずってたんだが
「見てないで助けろ」
「えっ普通に嫌だけど」