真知子さんと二人で街を歩いていると絵梨佳ちゃんと偶然会った。
「あ、麻里ちゃん」
「絵梨佳ちゃん、あれ?その人は?」
でも隣に知らない女性がいる。
「あ、初めまして。私は八雲凛子」
「姉妹ですか?」
「違うわ、同居人と捉えて構わない」
真知子さんが訪ねると、凛子さんはそう答える。
「ねえ、一緒にお昼食べない?」
絵梨佳ちゃんがいきなり提案してきたので、私は真知子さんを見る。
「いいわよ」
真知子さんが了承したので、断る理由はなかった。私たちは近くのファミレスに入って昼ご飯を食べることにする。
「お会計は私が払うから皆好きなもの食べていいわよ」
「え?いいんですか?」
「いいのよ、だって私年上だし麻里ちゃんと絵梨佳ちゃんはまだ高校生でしょ?」
「じゃあ、ゴチになります」
「年上?」
「凛子、あれでも50過ぎてるって」
「へっ!?」
凛子さんが驚いている傍ら、私は遠慮なく好きなものを頼んでいく。絵梨佳ちゃんも遠慮しないで頼んでいたので、正直助かった。
「ねえ、麻里ちゃん。最近何か気になることあるの?」
「え?」
注文した料理を待っていると、不意に絵梨佳ちゃんにそんなことを聞かれた。
「いきなりどうしたの?」
「いや、ここのところ麻里ちゃんの様子おかしかったから何かあったのかなって」
絵梨佳ちゃんは心配そうな顔をして私を見た。そんなに様子がおかしかったのかな?自分自身全く自覚がなかっただけに少し驚いてしまった。すると、今度は凛子さんが私に聞いてきた。
「麻里ちゃんってお兄さんと二人で暮らしてるって聞いてたけど・・・」
「そうだけど・・・」
「お兄さんとは上手くいってるの?」
「いってるよ、だけど人のために時間を使いすぎる癖があるのが欠点」
私と凛子さんが話していると、注文した料理が運ばれてきた。私はそれを食べながら二人に事情を話した。
「前に徹夜してまで仕事してたから真知子さんが気絶させた。あとしゃ・・・員の人達が私のことお嬢様呼びするからちょっと嫌」
「麻里ちゃん家お金持ちだもんね」
「特に月山さんなんて常に敬語だしお嬢呼びだしその気になれば仕事から家事全般までできるし」
「すごい人いるわね」
「うん、でも他のみんな癖強い」
ピザを二つ折にしながら口に運ぶ。
「麻里ちゃん、顔死んでる」
「え?あ、ごめん・・・」
絵梨佳ちゃんに指摘されて私は表情を戻した。
「それにしても、麻里ちゃんってお兄さんのこと本当に好きなのね」
「うん好きだよ」
「ちょっと妬けちゃうな~」
凛子さんはそう言って微笑んだ。私はその言葉が本当かどうか探ろうとしたが、絵梨佳ちゃんが話を進めてしまった。
「そう言えば、真知子さんって普段は何をしてるんですか?」
「負担は麻里ちゃんのお世話が殆どだけど、学校の送り迎えとか、一緒にお茶したり、外出行くことが多いわね」
「真知子さん以外だと誰と仲いいの?」
「さっき言った月山さんの他に小鳥遊さん、玉置さんくらいだし」
「結構いるね」
でも玉置さんはタメ口なのをいつも小鳥遊さんに注意されている光景を目にするけど。
「あとは御影さんと結里さん」
「あの2人は比較的話しやすい対象よね」
「ただし人のアレコレを探ろうとする結里さんの精神はどうも慣れない」
「何かあったの?」
****
「わざわざお会計まで」
「だってこういうのは年長に甘えるべきじゃない?」
「あ、ありがとうございます」
奢ってもらった料理を食べながら、私は真知子さんにお礼を言った。
「ところで麻里ちゃん」
「何です?」
「少し真知子さんと話がしたいから、絵梨佳と一緒にいてくれない?」
「いいですけど・・・?」
「絵梨佳、少しの間麻里ちゃんと一緒にいてて」
「わかった」
凛子さんは真知子さんを連れて、少し離れたところに移動した。
「絵梨佳ちゃん、どうする?」
「何かして遊ぶ?」
「うーん、じゃあトランプかな。ちょうど持ってるし」
「いいね!ババ抜きやろう!」
麻里ちゃんが鞄からトランプを取り出して、ベンチの上でババ抜きを始めた。
「そう言えば、麻里ちゃんって彼氏いるの?」
「え?いないよ」
唐突な質問に麻里ちゃんは即答で答えた。
「そもそもお兄ちゃんが高校卒業するまでお付き合いは許しませんって」
「真知子さんとかは?」
「ないない、だって流石に同性とかって・・・」
そんな話をしていると突然銃声が聞こえてきた。
「何!?」
「えっ?」
私は驚くけど麻里ちゃんは落ち着いている。すると離れていた真知子さんが何かを背負って戻ってきた。
「真知子さん!さっき銃声が!?」
「怖がらせてしまったのならごめんなさいね。気絶させたから大丈夫だと思うのだけど」
真知子さんの背中に背負われているのは、凛子さんだった。
「拳銃出して突き付けるものだから大変だったのよ。まあ、鳩尾に一撃食らわせたからいいけどね。それより、絵梨佳ちゃん」
真知子さんが私の方を向く。
「いきなりで悪いけど、ちょっとうちに来てくれないかしら?」
「なんで!?」
「2人に聞きたいことがあるからよ。安心して、拷問したりしないから」
「真知子さんが言うと冗談に聞こえないです」
麻里ちゃんが冷静にツッコミを入れるけど、私はそうはいかない。
「わかりました、行きます」
「絵梨佳ちゃん!?」
****
「麻里お帰りー!あれ?隣にいるのって友達?連れてくるなら連絡してよもうー!」
「うっさい、しつこい」
「ひどい!」
絵梨佳ちゃんと凛子さんを家に連れて帰ってきたら、兄が玄関で待っていた。
「組長、少しお願いがあるのだけど」
「真知子さんからお願いがあるって珍しいですね」
「それなんだけどしばらくこの2人を組織で預かろうと考えているの、組長ちょっと耳を」
真知子さんが兄の耳元で何かを囁いている。
「・・・分かった。2人はしばらくウチで面倒を見る。麻里はそれでもいい?」
「私はいいけど・・・」
絵梨佳ちゃんが私の方を向いて確認を取ろうとするが、首を縦に振った。
「えっと・・・組長さんでいいんですよね?初めまして」
絵梨佳ちゃんは少し緊張してる様子だったが、兄は笑って答えた。
「僕は伊月暁人、よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
「そんなに堅苦しくなくってもいいのに」
「だってこういうの初めてだもん。話は何度か聞いたけど」
「まずは部屋の案内するから、スリッパに履き替えてね」