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    ムー(金魚の人)

    @kingyo_no_hito
    SS生産屋

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    モクチェズワンライ0417「カウント」で参加です。同道直後のモクチェズ。指折り数えて待つ相棒の下へ急げ〜💨

    #モクチェズ
    moctez

    「ありがとうございました〜!また来てくださいね」
    「うんうん、どうもねえ」
    自動ドアと若い店員の元気な挨拶に背を向け、モクマは商店を後にした。一人でぶらぶら散歩していた道すがら見つけた個人商店だ。並ぶ食品はどれも新鮮で、看板娘のお嬢さんも話し好き。実にモクマ好みの店だった。
    紙袋を左脇に抱える。
    地平線へ沈む夕陽を追いかけるように石畳の道を進んだ。
    紙袋から覗く真っ赤に熟れたトマトが歩調に合わせて揺れる。いい食材がたくさん手に入った。調理するのが嬉しみだ。
    「これだけあれば5日は足りるでしょ」
    陽に焼けた右手を広げる。
    まずは1日目、トマトとレンズ豆を煮込んだミネストローネスープ。
    2日目は煮詰めたスープをソースにリメイクして、ミートスパゲッティとしよう。
    3日目、4日目と献立を考えながら親指から順に隣り合う指を1つ1つ折っていく。
    「…………」
    4本の指を折って現れた形にモクマは息を止めた。ピンと伸びた小指が夕陽に曝されている。
    ひとつ、脳裏に蘇るシーンがある。

    ――指切りしましょうか

    提案というよりも願いに近い、震える声を必死に隠した真摯なことば。
    絡めた小指を証に同道の契りを交わす瞬間。
    モクマがチェズレイと生涯を共にする相棒となった日の出来事だ。
    夕陽に染まったチェズレイの指。初めて触れるまっさらな手指から伝わる温度は、彼の心臓そのものに触れているかのように熱く震えていた。
    ――…………見たことない顔してるねえ
    ――お前それ、どういう感情?
    ミカグラ海岸で小指を絡めてから2ヶ月近く経とうというのに、今でも鮮烈にあの時の感慨が胸に浮かぶ。
    これから先ずっと、来世でだってチェズレイと一緒に生きるのだ。色んな顔を見てみたい。
    まずは手料理を振る舞ってみようか。
    ピリリリリ。
    懐のタブレットが着信を告げる。登録のない番号だったが、チェズレイからだと疑いなく思った。すぐに応答ボタンを押す。
    「もしもーし」
    「モクマさん、今どちらにいらっしゃるのですか?」
    モクマの勘は当たった。相棒の男が不満そうな声を出す。
    散歩に出てくると告げてからそう長い時間外に居たつもりはなかったが、何か事件だろうか。
    「どこって、アジトから徒歩で15分くらいのとこだけど。何かあったかい?」
    「何かあったかと聞きたいのは私の方です。暫く戻らないのであなたのタブレットから追跡してみれば、マーケットに長居している。レジ打ちの女性に浮気とは関心しませんねェ……」
    (それ、浮気カウントなの?)
    と、喉まで出かかった言葉を飲み込み、モクマは「情報収集だよ」と答えた。
    「この街の見どころを教えてもらってたんだよね。おじさん、ここ初めてだしさ。あとね、真っ赤なトマトと目が合っちゃったから連れて帰るね」
    「買い物を頼んだ覚えはありませんでしたが」
    「ありゃ、もしかしてご飯の支度しちゃってた?」
    そういえば、今日の夕食について相談してなかったと気づく。モクマは散歩ついでに商店へ寄ったので、チェズレイへ買い物することも伝えていなかった。
    慌てるモクマに対し、チェズレイは「いいえ」と答えた。
    「あなたが得た情報は戻って来てからお聞きしましょう。10数える間に帰ってきてください」
    「ひえっ んな無茶な……」
    いかに健脚の忍びといえど、10秒間で1km先のセーフハウスには戻れない。ここはチェズレイの小言覚悟で戻るしか選択肢がない。
    困るモクマへチェズレイが畳み掛ける。
    「あァ……、この瞬間にも私があなたの道理に反することをなさっているかもしれませんのに。不殺の約束が実行されているかそばで見張っていなくていいのですかねェ、モクマさん?」
    約束事を持ち出して煽るような言い方をしてくる相手にモクマは困った奴だと苦笑を漏らす。
    「はいはい……。ちょっぱやで帰るから良い子で待ってな」
    チェズレイの返事を待たず、電話を切る。足先にグッと力を入れた。前傾姿勢を取る。
    (……寂しいなら素直にそう言えばいいだろうに。回りくどいこと言っちゃってさ)
    あの時の指切りだってそうだ。不殺の約束を持ち出さなくてもモクマは彼に着いていく心積もりだった。
    「ま、そこがなんだか可愛く思えるんだけどっ!」
    独り言ち、モクマは力強く石畳を蹴った。

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