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    ムー(金魚の人)

    @kingyo_no_hito
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    モクチェズワンライ0821「ホテル」です。
    チェに頼まれて次のホテル選びに悩むモさんの話。

    #モクチェズ
    moctez

    「う〜〜〜ん」
    大きく開いた足の間、フローリング床に広げた紙を見下ろしてモクマは唸り声を上げた。羽織の裾に引っかかっていたちびた鉛筆を摘み、鼻の下と上唇でそれを挟んで天井を仰ぐ。
    紙には黒鉛の線で走り書きされたいくつかの単語が並ぶ。その上にはマルやバツ印が散っていた。まるで競馬新聞を広げて投資する馬券に悩むおじさんの思案模様に思えるが、モクマの悩みの種は馬ではない。いや、じゃじゃ馬という意味ならばそうかもしれない。
    数日前、長毛種の馬の毛並みに似たサラサラとしたプラチナの髪を月夜に靡かせて、モクマの相棒が放った言葉にモクマは頭を悩ませている。

    ――次の滞在地でのホテル選びをあなたへお任せします

    チェズレイと同道して半年。渡り歩いた街はそろそろ両手の数では足りなくなるというところだった。
    その半年間すべて、二人が滞在する拠点を用意していたのはチェズレイだった。
    ある時は彼が使用していた一軒家タイプのセーフハウス、ある時は高級感あふれるラグジュアリーホテル。
    それまで薄汚れた安宿で寝泊まりしていたモクマには一生縁のないタイプの建物ばかり。
    今滞在しているここも最上階ワンフロアまるごと貸し切りのプラチナスイートルームである。モクマが座っているリビングの後ろには寝室が2つ。そのうちの1つでは、チェズレイがタブレットを駆使して次の国で行う仕事の下準備をしている。
    モクマは準備のうちの1つ、滞在拠点選びを任されたわけだ。
    「あ〜」
    尖らせた唇を大きく開き、大の字に寝転がった。モクマの口元から転がり落ちた小さな鉛筆が床を転がっていく。綿埃ひとつ見つからない綺麗な床の上に仰向けになって、モクマは唸った。
    任された以上、チェズレイのお眼鏡に適う場所を選びたい。失敗出来ない。
    (しくじったら「あなたとは一緒にいられません」って約束を破棄されちゃわない? 仲の良い夫婦もいざ新居選びとなると意見が合わなくて離婚危機 みたいなことも良く聞く話だし。いや、俺とチェズレイは新婚夫婦とは訳が違うが、寝食共にしてるって意味じゃあ、そこいらの夫婦と同じであって……)
    夫婦と違うのは二人を繋ぐものが法的拘束力をもつ婚姻届けや契約書などではないこと。二人を繋ぐのは小指に結んだ同道の誓いのみだ。
    (失敗したら小指詰めるとか言わんかね)
    嫌な想像をぶんぶんと首を振って払う。
    試されていると思った。モクマがチェズレイにとって有用で有益で日常生活から任せられる男かどうか。よくて、ゲームとしてからかわれているといったところか。
    いずれにせよ、チェズレイはモクマがどのような拠点を選ぶのか楽しみにしている。モクマがズボラでだらしない性格なのは出逢った当初から知られているので、今更見栄を張れるほどの期待値は残っていないだろうが、幻滅はされたくない。好きな子にはカッコつけさせて欲しいのだ。年上の矜持として。
    そんなわけでモクマは、床に広げた紙と数時間にらめっこをしている。これまで過ごしてきた拠点の特徴をかき集め、チェズレイが気に入りそうな高級感あふれるホテルや別荘地を候補に上げて紙に書き連ねる。しかし、そこから絞り込めない。一長一短、決め手にかけるのだ。
    悩むのも面倒だし、六角形の鉛筆に選択肢を彫って転がしてサイコロのように決めてしまうか。
    「いいや……」
    モクマは上体を起こし上げた。
    「もういっそ、あいつに3択で選んでもらっちまお」



    「チェズレ〜イ、休憩にしない?」
    ノックと同時に寝室へやってきたモクマに声をかけられ、チェズレイは顔を上げた。鼻をすんと鳴らす。薫り高い豆の香りに目を眇める。
    モクマは両手にトレイを持ち、こちらへ近づいてきていた。
    「ホットコーヒー淹れてきたよ。ここらでほっと一息、なんつて」
    「……お気遣いをどうも」
    モクマの戯けた「ホットコーヒー」と「ほっと一息」の駄洒落を無視し、チェズレイはトレイを見下ろした。
    コーヒーが注がれたカップの脇に、スティックシュガー、ミルクが添えられている。
    モクマと出逢う以前ならばブラック一択だったが、今は砂糖やミルクを混ぜて甘さと濁りを楽しむことも覚えた。その日の気分で味をかえる楽しみを知った。
    今日は甘みが欲しい気分だった。下準備のための脳内会議で頭を使ったので糖分を摂取しようと思い、チェズレイはシュガースティックを破ってブラックコーヒーへ注ぎ入れた。
    「ところでモクマさん、次のホテルは決まりましたか?」
    砂糖のみを入れたコーヒーを一口含んでから、チェズレイは尋ねた。そろそろ目的地である次の国へ移動してしまいたい。
    見上げるとモクマはにっこりと笑っていた。
    「うん、今お前さんのおかげで決まったところ」
    「……そうですか」

    チェズレイがコーヒーに何を加えるか、または加えなかったかで、モクマが拠点を決めていると知ったのはもう少し後のお話し。

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    💤💤💤

    INFO『シュガーコート・パラディーゾ』(文庫/152P/1,000円前後)
    9/19発行予定のモクチェズ小説新刊のサンプルです。
    同道後すぐに恋愛という意味で好きと意思表示してきたチェズレイに対して、返事を躊躇うモクマの話。サンプルはちょっと不穏なところで終わってますが、最後はハッピーエンドです。
    【本文サンプル】『シュガーコート・パラディーゾ』 昼夜を問わず渋滞になりやすい空港のロータリーを慣れたように颯爽と走り去っていく一台の車——小さくなっていくそれを見送る。
    (…………らしいなぁ)
    ごくシンプルだった別れの言葉を思い出してると、後ろから声がかかった。
    「良いのですか?」
    「うん? 何が」
    「いえ、随分とあっさりとした別れでしたので」
    チェズレイは言う。俺は肩を竦めて笑った。
    「酒も飲めたし言うことないよ。それに別にこれが最後ってわけじゃなし」
    御膳立てありがとね、と付け足すと、チェズレイは少し微笑んだ。自動扉をくぐって正面にある時計を見上げると、もうチェックインを済まさなきゃならん頃合いになっている。
     ナデシコちゃんとの別れも済ませた今、ここからは本格的にこいつと二人きりの行き道だ。あの事件を通してお互いにお互いの人生を縛りつける選択をしたものの、こっちとしてはこいつを離さないでいるために賭けに出ざるを得なかった部分もあったわけで、言ってみれば完全な見切り発車だ。これからの生活を想像し切れてるわけじゃなく、寧ろ何もかもが未知数——まぁそれでも、今までの生活に比べりゃ格段に前向きな話ではある。
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    AmatsuBmb

    DONE守ってあげたいDomなモと、構って欲しいsubなチェのどむさぶパロです。
    前半モ視点、後半チェ視点。

    画像(新書ページメーカー版)はツイッターで↓
    https://twitter.com/AmatsuBmb/status/1424922544155414530?s=20
    https://twitter.com/AmatsuBmb/status/1432684512656310281?s=20
    Dom/subユニバースなモクチェズ***

    「私たちもそろそろ、パートナーになることを考えませんか」

     二人が生活するセーフハウスの一室でなされたチェズレイの提案に、モクマは思考も動作も停止した。
     夕食を終え、二人は並んでソファに座っている。時折晩酌に付き合ってくれる相棒に、今日は酒は無し、と言われていたので、何か大事が話があるのだろうと思ってはいたのだが。
     パートナー? 俺たちは、すでに唯一無二の相棒だと思っていたのだが、違ったのだろうか。落胆しかけてすぐに、いや、違う意味なのだとわかった。

    「……おじさん、これでもDomなんだけど」
    「それが何か問題でも?」
    「へっ? ってことは――お前さん、subだったの!?」
    「ええ」

     男や女という身体的あるいは精神的な性別の他に、人間は第二の性別をもつ。それが、DomとSubだ。一般的に、Domは支配したい性、subは支配されたい性、と理解されている。欲求が満たされない状態が長く続くと、Domもsubも抑うつ症状などの体調不良を起こすため、特定のパートナーがいない場合は、一時的なパートナーとの行為に及ぶか、抑制剤を服用する場合が多い。
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