少年のままの、君が好き!今日は、シメオンと遊園地デートに来ています。
シメオンは、あまりこういう所に来たことがないらしく、ずっと隣でワクワクしています。
こういう時、ホント、大きな子供みたいで可愛い。
「どれがいい?一緒につけよ?」
「こ、こんなにいっぱいあるの?えー、どれにしよう?」
入ってすぐ、今日一日なりきるものを選ぶ。
シメオンには初めての経験で、棚一面をキョロキョロ見回す。
「俺はねぇ、これがオススメ!」
シメオンの頭にポフッと被せたのは、キャラクターの口に頭がすっぽり入るタイプ。
「わ、可愛い!」
「でしょ?俺はこっちにするから、お揃い!」
そう言ってシメオンの方を向くと、「お揃い」という言葉に過剰に反応し、顔がみるみる赤くなる。
シメオンはリボンが魅力の女の子のキャラクター、俺はタキシードの男の子のキャラクター。
メインキャラカップルの被り物を一緒に被る、まさにベタベタの遊園地デート、正直言うと俺もやってみたかったのだ。
ショップを出て、シメオンにたずねる。
「シメオン、何乗りたい?」
「えー?いっぱいあってわかんないよ。MCの乗りたいのでいいよ」
シメオンは、園内マップをグルグル回転させながら、すでに自分がどこにいるのかわかっていないようだった。
「じゃあ…シメオン、ジェットコースター乗れる?」
「何それ?」
「速いの。ビューッて行くヤツ」
「楽しそう!乗りたい!」
「わかった。じゃあ…こっちだ!」
俺は自然にシメオンの手を引いて園内を駆け出した。
いつもは恥ずかしがってすぐ離すのに、遊園地という場所の開放感なのか、迷子になるのが怖いのか、今日はしっかりと握り返してくれた。
宇宙空間がテーマのゾーンにやってくると、シメオンは見たこともない風景にワクワクが止まらないようだった。
「なんか、キラキラしてて音がスゴいよ!建物も独特!」
「そうだね、宇宙で近未来だからね」
何百年と生きている天使に「近未来」の話をして理解されるのだろうかと思いつつ、シメオンとそんな話をしていると、アトラクションの待ち時間なんてあっと言う間に感じた。
自分たちの順番が来てコースターに乗り込むと、重厚なバーが降ろされ、シメオンは急にソワソワし始める。
「大丈夫!?これ。なんか、すんごいことされるんじゃない?先も真っ暗で何も見えないし…」
「されないよ。危なくないように押さえてるだけだから。シメオンはホント、心配症だなぁ」
眉尻を下げながら、俺の顔と真っ暗なコースターの行く先を交互に見るシメオンの頭を撫でて、落ち着かせる。
安全バーを握る手に上から手を重ねると、すでに汗でじっとりと湿っていた。
不安なままのシメオンを乗せたまま、遂にコースターはスタートする。
「ヒューーー!!」
俺は楽しくて変な叫び声上げる。
ジェットコースターが落ちる瞬間は何度味わっても気持ちいい。
と、隣から、シメオンのロボットみたいな声がする。
「あわわわわ…」
チラッと見ると、全身に力が入り、肩が上がって硬直している。
目も見開いたままで、乾燥しないのかな?と心配になる。
空は飛べてもこーゆーのはダメなんだな、と学んだ。
「ねぇ、えむしー、おれ、じめんあるいてるぅ?」
「うん、歩いてるけど、フラフラだね」
シメオンが、酔っぱらいのようにフラフラと歩いている。
ジェットコースターで平衡感覚を失い、全身力みまくっていたこともあって、足に力が入らないらしい。
可愛くて少しの間後ろから見ていたが、さすがに心配なので、近寄って腰に手を添える。
「ちょっ!こんな所でっ」
「だって、まっすぐ歩けないでしょ?そこのベンチまでだから」
「う、うん…」
人前で腰を抱かれたことに動揺するけれど、実際一人では歩けないので、素直に俺にもたれかかる。
頼られてる感じがして、嬉しかった。
「ごめんね、ジェットコースターダメだったんだね」
「ううん、俺も知らなかったから。楽しそうだと思ったんだけど、乗ってみないとわからないもんだね」
シメオンがヘラヘラ笑っている。
楽しんでくれているようでよかった。
「じゃあ、次は子供でも乗れるヤツにしよう」
「次はどんなのかなー?」
しばらく休憩した後、俺はまたシメオンの手を引いて歩き出した。
連れてきたのは、ジャングルを探検するアトラクション。
先ほどと全く違う世界観に、シメオンはまた周りをキョロキョロ見回す。
「スゴいね!おんなじ園内とは思えない!」
「でしょ?ちゃんと聞こえる音も変わってるよ?」
「…ほんとだ!鳥の鳴き声がする!」
シメオンは目をキラキラさせながら、耳に手を当てて音に耳を傾ける。
こんなに楽しんでもらえたのなら、連れてきたかいがあったというものだ。
船に乗り込むと、テンションの高いお兄さんが、森を案内しながら操縦してくれる。
とても演技派のお兄さんで、素直なシメオンはすっかりその世界に入り込んでいた。
「あ、ゾウさんこんにちはー」
「わっ!あんな所からお猿さんが見てるよ!」
気付けば、お兄さんの役目を奪うぐらいのリアクションで、シメオンは、同乗したお客さんの視線を一身に集めていた。
正直、俺はめちゃくちゃ恥ずかしかったのだが、毎度シメオンが俺の肩を叩きながら話すので、恥を捨ててそれに付き合った。
「楽しかったねー!無事に戻ってこれるかドキドキしたー!」
「…そ、そうだね。よかったね、帰って来れてね…」
俺は、周りのお客さんのニヤニヤした視線から逃げるように、シメオンを連れて外に出た。
「さ、さて、次はショーがあるから、シメオン、これ持って!」
「水鉄砲?何に使うかわかんないけど、ショー楽しみー!」
シメオンを連れてきたのは、人が殺到する正面から少しズレた場所。
目の前にダンサーがやってくる、穴場スポットなのだ。
ショーが始まるとキャラクターと一緒にダンサーが出てきてショーエリアに散らばっていく。
今回のショーは水を使ったショーで、ダンサーはみんな大小さまざまな水鉄砲を持っている。
ハイライトに差しかかると、巨大な水の柱が上がり、それと共に皆一斉に水鉄砲を発射する。
「うわっ!!なんか打ってきたよ!?」
「ほら、シメオンも打ち返さないと!」
「よぉし!えーーい!!」
ダンサーからの一撃に驚くも、俺の助言で反撃する。
その隙に、俺がシメオンに攻撃すると、もーっ!と言いながら打ち返してきた。
俺もシメオンも、気付けば全身ビシャビシャで、お互いの姿を見て大笑いした。
風が出るエリアで二人並んで服を乾かし、小腹が空いたので、カフェに入ってクレープを食べた。
「あ、シメオン、クリームついてる」
「えっ?どこっ?」
向かい合って座るシメオンは必死に口の端の右側を舐めているが、残念ながらクリームは反対の左側にある。
「シメオン、こっち」
「へっ?」
しばらく眺めていたが、さすがに可哀想なので指で取ってあげた。
「あ…ありがと」
指で掬ってそのままぺろっと舐めると、何故かシメオンが顔を赤らめた。
そのあと、海賊の世界を巡るアトラクションに乗っても、相変わらずシメオンはその世界に没入し、
「わっ!銃だ!MC危ないよ!」
「牢屋、すぐそこにあるよ?海賊さん、出てきたりしない?」
と、静かな空間にシメオンの声が響くので、また俺たちは好奇の目に晒されることになった。
でも、仕方がない、ゆっくりしたアトラクションしか乗れないんだから。
耐えろ、俺!
こんなに無邪気な恋人、可愛いの極みじゃないか!
早めの夕食でレストランに入り、キャラクターの形のハンバーグを食べる。
「可愛くて食べられない」というシメオンに、俺がナイフで切ってあーんをする。
周りの目を気にしながらも、俺が口の前まで持っていくので、恥ずかしがりながらパクッと食べる。
美味しくてほころぶ顔が、また可愛い。
先に夕食を食べたのは、このあと、夜のパレードをゆっくり見るためだ。
バッチリ場所はリサーチ済みなので、場所取りをして座って待つ。
交代で飲み物を買ったりしながら、二人でまったり時間を潰す。
シメオンとなら、他愛ない話でいつまでも話していられる気がする。
無言になっても、隣にいるだけで心が落ち着く。
そんな相手は、なかなか現れないと思う。
しばらくすると、遠くの方からパレードの音が聞こえてくる。
待ちきれずに背伸びをして遠くを見ると、小さな明かりが近付いてくるのが見えた。
二人で顔を見合わせて、どちらからともなく笑う。
フロートが目の前まで来ると、シメオンが子供のように飛び跳ねながらペンライトを振る。
それを見たキャラクターが、こちらに手を振ってくれた。
「ねっ!今の見た!?手、振ってくれたよ!」
「見てたよ!よかったね!」
シメオンは振り向くと、俺の両手をガシッと掴んでブンブン上下に振る。
チラッとキャラクラーを見ると、お幸せに、と言わんばかりに投げキッスを返された。
シメオンの天真爛漫さに感謝すべきなのか、この遊園地には何度が来たことはあったけれど、こんなに一日楽しめたのは、正直初めてだった。
パレードのクライマックスにお城の後ろで花火が上がる。
周りの人達は皆、上を向いて花火に夢中だ。
例に漏れず、シメオンも瞳に花火を映しながら見入っている。
「…シメオン」
花火の爆音に紛れないように、シメオンの耳元で声をかける。
「…え?何か言った?」
シメオンが振り向いたその時、俺はシメオンの唇を塞いだ。
「っ!!……誰かに見られたらっ」
暗闇でもわかるぐらい顔を真っ赤にしたシメオンの耳元で再び囁く。
「みんな、花火に夢中で誰も見てないよ」
「……!」
言い返そうとしたが何も言えなくなって、潤んだ瞳でただ俺を見つめる。
「今日はありがとう、楽しかった」
「俺も。連れてきてくれて、ありがとう」
お互い、耳元で囁きあってくすりと微笑む。
弾ける花火の中に、お互いの笑顔が映った。
どちらからともなく顔を寄せ合い、おでこがぶつかる。
そのあとは、引き寄せられるように唇が重なった。
花火が、あまたの大輪の花を咲かせて夜空を彩る。
お互いの姿を映す瞳が、花火の光を取り込んで煌めいていた。