悪魔はどこまで欲しがるのか 暑い暑いと手をバタバタとさせながらうるさく入ってきた留学生が、いつもの場所にドスンと座る。腰を下ろすやいなや、右手にぶら下げていたビニール袋の中からアイスクリームらしきものを取り出し開封し始めた。毎度のことだが、新聞部を何だと思っているのか。
じっと睨みつけていると、こちらの視線に気づいたようで、顔を上げた留学生と視線が合った。
「何? 欲しいの?」
そんなもの欲しいわけがない。
「最近、冷たいものばかり食べているな」
「だって、夏だもん。暑いし」
留学生は途中まで開封しかけたアイスクリームのパッケージをこちらに向けて見せた。
「それに、懐かしいんだよね。今、購買部で「人間界フェア」をやっててさ。見覚えのあるものを見つけると思わず買ってきちゃうわけ」
こちらに向けられたパッケージには、赤い背景に餅のような絵とウサギのキャラクターが描かれていた。容器も普通のアイスクリームとは違っていたので、少しだけ興味を惹かれた。
「それは餅なのか?」
「へぇ〜、メフィストでも餅は分かるんだね」
留学生がおかしそうに笑った。馬鹿にされた気分だ。
「餅。そう、バニラアイスを餅で包んだやつ。美味しいよ。一個食べる?」
そう言いながら、ピンクのフォークで白く丸い餅のアイスを突き刺し、こちらに差し出す。しかし、それ以上は動く気がないようで、受け取るには私が立ち上がってそちらに行かなければならない。食べてみたい気持ちはあるが、そこまでして施しを受けるつもりもない。
「二個のうちの一個も貰ったらお前の分がなくなるだろう」
やんわりと断る。しかし、留学生は諦めが悪かった。
「いいのいいの。俺はメフィストにだったら何だってあげちゃう」
ニコニコと笑顔で腕を伸ばしたまま、一歩も引かない態度だ。
(詭弁、だな)
何でも差し出すと言うのなら、今すぐにその唯一の魂を私に差し出して見せればいい。
(そうすれば、お前は永遠に私の……)
「ねぇ、メフィスト。いるの? いらないの?」
はっと我に返ると、目の前に留学生の姿があった。餅のアイスが銃口のように口元に突きつけられている。
「……分かった。いただこう」
観念した私は差し出されたままのアイスにパクりと食いつく。モチモチとした食感とバニラアイスの甘さが口いっぱいに広がった。