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    allium328

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    クリスマスおうちデートするイコプリ2022

    #イコプリ
    iconography

    いい子にして待っててねクリスマスおうちデートするイコプリ



    「イコさんって、ほんとうにひどいよね」
     キュッ、と唇を引き結んで、瞳を潤ませながら王子は訴えた。
     生駒の貸したオーバーサイズの裏起毛パーカーを身に纏い、寝癖をつけたまま甘い顔立ちを歪める姿は、大層可愛らしかったが、言っていることは聞き捨てならない。
    「…………俺、何かアカンことしてもうた?」
     生駒は胸に手を当てて考えてみるが、まったく心当たりはない。とはいえクリスマスの朝、自宅でイブの夜を共に過ごした恋人にこんなことを言われたら、ドキッとするものだろう。
     昨夜の記憶を辿ってみる。生駒が腕によりをかけて振る舞ったクリスマスディナーは大好評だった。生駒のサンタコスプレにだって喜んでくれた。真っ赤なサンタ衣装は、王子の着てきた、緑と赤をベースにした何とも形容し難い絵柄の入ったセーター(なんでも、王子隊で開催したダサセーター選手権なる胡乱な集いで着用したとのこと。王子が優勝したことを嬉しそうに報告してくれた)とのマッチングもよく、二人して散々爆笑しながら自撮りをしまくった。それからクリスマスらしい映画でも観ようか、と小さな薄型テレビで「ホーム・アローン」を再生しながら、薄暗い部屋で肩を寄せ合って過ごすうちに、そういう雰囲気になって……以下省略。
     ウーン、と目を閉じて回想してみても、やはり駄目だった。何から何まで、全部が楽しかった。
    「ぜんぜん心当たりがない、って顔してるね」
    「あっ、もしかして今朝サンタさんがくれたプレゼントが……」
    「それはありえない」
     まぁ、あれが原因で王子が怒っている線は薄いな、と生駒も思っていた。
     なにせ朝起きて、枕元にプレゼントを発見した王子の喜びようといったら。「ええ子にしとったから、オージにサンタさん来はったんやな」と撫でてやると、ふにゃ、と蕩けた笑顔で「ありがとう、イコさん」とプレゼントを抱きしめた王子。その可愛さといったら。控えめに言って最高だった。
     丁寧に包装を解いて、王子はプレゼントを取り出す。中身は青いマフラーだ。落ち着いた色調で、普段王子が好んでいるファッションの傾向にも合致する。手触りもすこぶる良く、軽くて温かい。クリスマスを前にした生駒が、ほとんど足を踏み入れたことのなかった百貨店で、お洒落な店員さんに気圧されながらも、一生懸命にアドバイスを仰ぎ、迷いに迷った末に選んだマフラーだった。内心、気に入ってもらえるか不安だったが、「どうしよう、毎日巻いていたいくらい素敵だよ」と呟いた王子の微笑み一つで報われてしまう。生駒の胸は朝陽の差し込む窓辺のように、きらきら輝く幸福感で満たされた。
     あれが全部ウソだったと言われたら、生駒は年甲斐もなくポロポロ泣いてしまう自信があった。
    「……やっぱりわからない?」
    「すまん、ギブアップや」
    「じゃあ、大ヒント。今ぼくらの目の前にあるものは?」
    「チャーハン、やなぁ……」
    「うん。正確には、にんにくがたっぷり入った炒飯だね」
     少し遅めの朝食もまた、生駒が腕を振るったものだった。
     炒飯といえばA級隊員の加古隊長が有名だが、生駒の作る炒飯もなかなかの物だった。大切に育てた中華鍋にたっぷりの油を注ぎ、包丁の腹で潰したにんにく数欠片を惜しみなく投入するのがデフォルトで、具材は毎回冷蔵庫の中身と相談している。今日はネギと卵の他に、張り切って自家製チャーシューまで仕込んでいた。
     正直な所、生駒の自信作であった。
    「……不味かったん?」
    「美味しかったよ。美味しすぎるから問題なんだ」
     レンゲを握りしめて、王子は悔しそうに目を伏せる。目線の先には、米粒一つ残さず平らげられた炒飯の皿。美味しかったという発言に嘘はなさそうだ。
    「ほな、なんで」
    「……ぼくからしちゃいけない臭いがしてる」
    「んー……わからん」
     たしかに、王子のように綺麗な男から、強烈なにんにく臭が漂っていたら、大抵の人間はぎょっとするだろう。
     しかしスンスンと王子に鼻を寄せて嗅いでみても、生駒の好きな王子の体臭が香るばかりだった。
    「わかんないのは、イコさんも同じものを食べたからだよ。鼻が慣れきっちゃってる」
     王子の言う事ももっともだ。二人して、油がしみしみのにんにく数欠片をしっかり腹に納めたのだ。人前に出れば、体臭なり口臭なり何かしらを気取られてもおかしくない。考えてみれば当たり前のことだ、と生駒はぺろりと下唇を舐める。自信作を食べさせたいが余り、食べた後のことまで気が回っていなかった。
    「あーあ、本当なら今日は蓮之辺でやってるクリスマスマーケットに行きたかったのに。これじゃあ外に出られないよ」
     イコさん、じゃなくてサンタさんに貰ったマフラーを巻いてデートしたかった、と王子は拗ねる。
     今までの付き合いのなかで、王子は自身のキャラクター設定のようなもの、平たく言えば人からどう見られるかを気にする方だと、生駒は気付いていた。王子は言動のみならず、容姿から、それこそ身に纏う香りに至るまで、一貫して「王子様」であり続ける。某夢の国のマスコットよろしく、イメージを壊さない努力を怠らない男だった。
     そんな、奔放だの自由だの言われがちな王子の意外な一面が、生駒は嫌いじゃない。
     そもそも炒飯だって、王子が自分の意思で食べたものだ。それを理解してなお「ひどい」と生駒に文句を言うのは、常日頃から隙を見せない王子の、心を許した相手にだけ見せる隙だ。可愛げ、ともいう。こういう時、王子が自分より一つ年下であることが思い出されて、何とも言えない愛しさが込み上げてくる。
    「ほんなら、今日は一日中家おるか」
     クリスマスマーケット? は来年また行こうと諭しつつ、生駒は提案した。少し残念だろうが、人混みに出られない以上、これ以外の選択肢はない。理に適っている。納得はしてくれるだろう。
     だが、王子の返答は生駒の予想を外れていた。
    「…………イコさんのえっち」
    「エッ」 
    「やられたね。非暴力的な手段で、ぼくが一日中家にいる選択をとるよう誘導した上に、にんにく──精のつく食べ物で、肉体的にもそういう気分になり易い状況を作るなんて」
    「マジか。俺って、そないな策士やったん」
    「そうだよ」
    「知らんうちに能力開花してもうたわ」
    「みずかみんぐのお株を奪っちゃったね」
    「そないなことあらへん。水上が賢いんは変わらんからな」
    「えー、もったいないなぁ。折角なら、イコさんの策士っぷりをもっと見てみたいのに」
    「ほんなら生駒隊の頭脳は俺と水上のツートップっちゅーのもアリか。ええやん、二枚看板」
    「わぁ、手強そう」
     心底面白そうに、王子は笑った。生駒のいっとう好きな顔だ。もうすっかり機嫌は直ったみたいだ。
    「……それにしても、マーキングみたいだよね」 
    「マーキング?」
    「だって、イコさんのつけた臭いのせいで、ぼくはもう今日一日、誰とも接触できないんだよ。これってマーキングみたいじゃない?」
    「なるほどな。せやけど、その言い方やと動物みたいやん」
    「動物みたいなこと、ぼくたちこれからするんだよ」
     ドーブツ、ミタイナ、コト。
     頭の中で反芻する。思い出されるのは、昨晩のこと。あれは確かに動物じみたことだった。二足歩行を放り出して、普段理知的な王子が言葉にならない鳴き声を上げる。それを責め立てる生駒もまた、本能に突き動かされており、まさにけだものと言ってもよかった。
     アカン、アカン、アカン。頭の中で連呼して、今にも事に及んでしまいそうな己を、生駒は制止する。
    「ふう、ごちそうさま。食器はぼくが洗うね」
     王子が食器を持って立ち上がろうとした。
    「ええよ、置いといて。俺やっとくで」
     先シャワー浴びたいやろ、と生駒が止める。王子の気遣いはありがたかったが、ぶっちゃけそれどころではない。
    「……王子了解」
     すべてを見透かしたような、軽やかな返答だ。策士だ何だとからかわれても、結局手のひらで転がされているのは自分の方だな、と生駒は内心で苦笑した。
    「そうだ、言い忘れてた」
     いつの間にか、着替えにしては大きな紙袋を抱えていた王子が、浴室に続くドアの前でくるりと振り向く。
    「イコさんもこの一年いい子にしてたし、きっと来るよ、サンタさん」
    「えっ、それって」
    「あとちょっと、いい子にして待っててね」
     メリー・クリスマス、と言い残して王子はバスルームに消えて行った。
     あの紙袋の中身が何なのか、生駒にはわからない。わからないが、後の展開はまるっと読めてしまった。
     手のひらで額を覆いながら、生駒はむくむくと湧き上がる期待を噛みしめる。
    「……えっちなんはオージの方やん」
     ドアの向こうでシャワーの水音と鼻歌のジングル・ベルが響き始める。その音が止んだら、ほどなくしてクリスマスらしい装いの王子が戻ってくるのだろう。
     最高のクリスマスの予感に胸を踊らせながら、生駒は有言実行すべく、台所の片付けへと向かった。
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    allium328

    DONEクリスマスおうちデートするイコプリ2022
    いい子にして待っててねクリスマスおうちデートするイコプリ



    「イコさんって、ほんとうにひどいよね」
     キュッ、と唇を引き結んで、瞳を潤ませながら王子は訴えた。
     生駒の貸したオーバーサイズの裏起毛パーカーを身に纏い、寝癖をつけたまま甘い顔立ちを歪める姿は、大層可愛らしかったが、言っていることは聞き捨てならない。
    「…………俺、何かアカンことしてもうた?」
     生駒は胸に手を当てて考えてみるが、まったく心当たりはない。とはいえクリスマスの朝、自宅でイブの夜を共に過ごした恋人にこんなことを言われたら、ドキッとするものだろう。
     昨夜の記憶を辿ってみる。生駒が腕によりをかけて振る舞ったクリスマスディナーは大好評だった。生駒のサンタコスプレにだって喜んでくれた。真っ赤なサンタ衣装は、王子の着てきた、緑と赤をベースにした何とも形容し難い絵柄の入ったセーター(なんでも、王子隊で開催したダサセーター選手権なる胡乱な集いで着用したとのこと。王子が優勝したことを嬉しそうに報告してくれた)とのマッチングもよく、二人して散々爆笑しながら自撮りをしまくった。それからクリスマスらしい映画でも観ようか、と小さな薄型テレビで「ホーム・アローン」を再生しながら、薄暗い部屋で肩を寄せ合って過ごすうちに、そういう雰囲気になって……以下省略。
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     時も場所関係なく伝えられる言葉に、生駒は不思議そうに尋ねたことがある。
    「なんや、王子、どないしたん?」
    「うーん、何でもないよ。ただ言いたいだけ」
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    「王子も可愛いところあるじゃないか」
     嵐山が、どこが悩みなんだ? と不思議そうに言う。
    「いや、何回も続くと生駒も鬱陶しいんじゃないのか?」
     嵐山の問いに柿崎が答える。
    「いや、そんなんないな」
     生駒は、当たり前だと言うように柿崎の言葉を否定した。
    「ないのかよ」
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