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    allium328

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    allium328

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    付き合っているイコプリに巻き込まれるくら〜ち。くら〜ちとお〜じが仲良くしているだけの話です(not恋愛)。

    #イコプリ
    iconography

    迷惑をかけるイコプリ【クラウチ編】「イコさんって、ぼくに夢見てるところがあるんだよね」
     そう心の底から困ったような声音で、しかしその実まったく困っていない王子が、ため息混じりに言った。

     学校を終えた、夜間防衛任務までの待機時間のことだった。俺が一人で隊室のソファに腰掛け、タブレットで先日のランク戦の映像データを視聴していると、音もなくドアが開いた。現れたのは王子だった。
    「ねぇクラウチ、ちょっと話を聞いて欲しいんだ」
     そう切り出しながら、王子は「いいとこのどら焼き」を軽く掲げた。おすそ分けだとのことで、小さめの紙袋に4つ、こしあんと栗あんの2種類が2つずつ。隊員皆の分を貰ってきたようだ。
     「クラウチは栗のほうがいいよね。ちゃんと選んできたんだ」と殊勝なことを口にしながら、王子はローテーブルの上にどら焼きを置く。
     それと入れ替わりに俺は立ち上がり、お茶を淹れる支度を始めた。隊室に給湯設備がなくて若干の不便はあるが、慣れればなんとかなるものである。セージグリーンの紅茶缶から、ティーメジャーで茶葉を掬い、分量通りにティーポットへと放り込むと、ローズとベルガモットの香りがふわりと立つ。王子が先週、生駒さんとのデートで立ち寄った紅茶専門店で買ったというフレーバーティーだ。
     近頃、王子はこれを毎日のように飲んでおり、自然、俺もご相伴に預かる機会が多い。「何だかんだ俺が半分くらい飲んでいるような気がするが、いいのか?」と訊いたところ「もちろん。無くなったら、またイコさんと一緒に買いに行くって口実ができるからね」と笑顔で返されたので、以来、俺の頭から遠慮の文字は消えた。
    「で、聞いて欲しい話っていうのは?」
     とティーカップを配膳しながら俺が問いかけたところ、返ってきたのが冒頭の発言。

     イコさんって、ぼくに、夢見てるところが、あるんだよ、ね。

     頭の中で無意味に言葉を区切ってみる。が、やはり理解できなかった。何なら若干げんなりとした心持ちになる。
     俺には正直、防衛任務やランク戦での王子を知る生駒さんが「夢を見てる」というのが、どうもピンとこなかった。試合では喜々として敵の首を刈り取り、ときに狡猾な立ち回りで盤面を支配する。あの姿が悪夢に出てきそう、という意味なら間違いではないかもしれないが。
     とはいえ、王子が困っていると宣言したのだ。放置するという選択肢はない。健気にも、どら焼きまで用意してきたし。
     それに、過去はともかく現在の王子は遠慮がないように見えて、本当に許せないラインを越えてくることは、ほぼ無い。そういうバランス感覚に長けた男だからこそ、後輩や同輩に珍妙なあだ名を付けて自由気ままに振る舞えているのだろう。少なくとも俺の目にはそう映っている。
     まあ、悪いようにはならない筈だ。まずは話を聞こう。
    「生駒さんがお前に夢を見ている、か。具体的に何があってそう思ったのか、まず聞かせてくれないか」
    「もちろん」
     王子はソーサーとカップを手に取り、優雅な動作で口をつけた。ほぅ、と一息ついてから、ローテーブルにお茶を置く。俺はそれを見て、長い話になりそうだと予感した。
    「これは、イコさんとお付き合いを始めてから、一緒に弓場さんの所に挨拶に行った時の話なんだけどね」
    「……ん?」
     早速おかしなことを言い出した。
     いや、ここで話の腰を折ってはいけない。突っ込みたい気持ちは一旦抑えておこう。
    「事の発端は、ぼくがイコさんの前でしたある発言だ」
    「何て言ったんだ」
    「『弓場さんがいなかったら、きっとぼくは今のぼくじゃなかったと思うんだ。だから弓場さんは、ぼくのお父さんみたいな存在かもしれない』……だったかな。そういう旨のこと」
     弓場隊での王子を見てきた俺からしてみれば、違和感はない。生駒さんと弓場さんが同い年という所が関係するのだろうか。
    「生駒さんの反応はどうだったんだ」
    「『ほんなら、挨拶行かんとなぁ』と返してきたよ。ぼく、てっきりいつもの冗談かと思って笑って流しちゃったんだけどね……今日になってイコさんが『これから弓場ちゃんとこ行くで』って」
    「それは……いや、何でもない、続けてくれ」
    「うん、言いたいことは何となく分かるよ。でもね、のし紙までついた手土産を見たら、止めようって発想は生まれないよね」
    「おもしろいからか」
    「おもしろいからだね」
     ニコッと満面の笑みを浮かべ、王子はどら焼きの包装を開ける。フィルムをビリビリと千切る音は、首から上の朗らかさに反して粗雑である。
    「そんなわけで、ぼくとイコさんは弓場隊の隊室──ぼくにとっては勝手知ったる懐かしの、ね──を訪ねたんだ。すると、ドアが開いた途端、仁王立ちの弓場さんが目に入って」
    「仁王立ちの弓場さん」
    「ぼく、もう笑いが堪えられなくて噴き出しちゃった」
     その光景を想像して、俺は苦笑した。多分、俺でも我慢は難しいだろう。
    「それで、弓場さんに怒られちゃうなぁって思ったわけ」
    「当然だな」
    「でも、そうはならなかった」
    「どうして」
    「それより先にイコさんが勢いよく直角にお辞儀して『この間から、王子クンとお付き合いさせていただいてます、生駒達人言います。こちら、つまらないものですが、よければ!』って紙袋を弓場さんに差し出たからね」
    「……凄いな、生駒さん」
     というか、何故自己紹介から入るんだ。弓場さんとは旧知の仲だろうに。
    「どうなったんだその後は」
    「さすがの弓場さんも『……おぅ』って引き気味に受け取るしかなかったみたい」
     現場に居合わせなくて良かった。生駒さんにまったく悪意がない分、余計にたちが悪い。弓場さんには心底同情する。
    「で、我に返った弓場さんが『おい王子、てめェーが生駒におかしなことを吹き込んだのか?』って凄んでくるから『やだなぁ、今回は違いますよ』ってぼくが弁解して。もちろん、聞き入れてもらえる訳なんて無いよね。……そんな時、イコさんが庇ってくれたんだ」
     うっとりとした表情で、王子がため息を吐く。花も恥らうとはこのことか。
    「『あーそれな、王子が弓場ちゃんのことを、お父さんみたいな存在って言うててな。ならちゃんと挨拶せなあかんなーって、俺から言い出したんや』……格好いいよね」
    「そうだな」
     俺は早々にツッコミを放棄して、栗どら焼きに手を付ける。上品なカステラの甘みと栗の風味が絶妙で、和洋中、どのお茶にも合うだろう。ああ、美味い。
     考えてみればこのどら焼きだって、王子が選んできてくれたものだ。そうだ、こいつにだって人の心はある。優しさもある。健気さもある。話している内容だって、今のところは単なる惚気話だ。可愛いものだ。たとえそれが、俺たちの恩人たる弓場さんを壮絶に困らせる内容だったとしても。
     弓場隊からの脱退時、弓場さんから「王子を頼む」と託されたのを思い出す。頼まれておいてこのざまだ。俺はなんて不甲斐ないのだろう。罪悪感で胸が締め付けられる。
     正気を保つため、無心にどら焼きを咀嚼する俺をよそに、王子の語りは続く。
    「そしたら弓場さんは露骨に嫌な顔してさ。『てめェーの父親になった覚えはねェぞ』って。ぼくが『まぁまぁお父さん……いやパパ、って呼んだ方がいい?』って言ったら、弓場さんにアイアンクローされちゃった」
     王子が、甘い声で「パパ」と言いながら小首を傾げる仕草を実演する。どことなく、いかがわしい響きがある。これはセクハラで訴えれば勝てるのではないだろうか? アイアンクローで勘弁してくれた弓場さんの優しさに、涙を禁じえない。
    「弓場さん、ドスの効いた声で『おい生駒ァ、本当の本当にコイツで良いのか?』ってイコさんに訊んだよ。ひどくない?」
    「全然ひどくない」
    「そしたらイコさん、なんて言ってくれたと思う?」
     おい、せめて会話をしてくれ。
     俺の返答を待たずに、王子は言葉を継ぐ。
    「『んー……弓場ちゃんの言いたいことはよおわからんけど、王子は俺にはもったいないくらい、ええ子やで』って」
     ……生駒さんは、強めの記憶処理でも受けたのだろうか。もう相槌を打つ気力も湧いてこない。
    「こんなこと言われちゃ、弓場さんもぼくとイコさんの仲を認めるしかないよね〜」
     忠告を諦めた、の間違いじゃないだろうか。そもそも弓場さんは最初から反対していなかっただろう。賛成もしていないが。
     俺は栗どら焼きを一気に頬張り、口に物が入っているから喋れないという体を装う。口内がモサモサしてきたが、構うものか。
    「その後は、特段変わったことも起こらず、イコさんの手土産をお茶請けにして、ちょっとだけお茶して、それでおしまい」
    「……」
    「ちなみに、帰り際に弓場さんが『お裾分けだ』って持たせてくれたのが、今ぼくらの食べているどら焼きだよ」
    「んンッ……」

     噎せた。

     飲み込もうとしていたどら焼きが、気管に入る。ゴホッゴホッと俺が苦しんでいると、王子が気遣わしげに背中を擦ってきた。
    「クラウチ大丈夫? 一気にたくさん頬張るからだよ。ほら、お茶飲んで」
     差し出されたカップを手に取り、冷めかけていたお茶をぐいと煽る。これも出処は生駒さんだ。この傍迷惑なカップルから、逃がれる術はないのか。
     というか、どら焼きの出処へのショックが地味に大きい。王子の優しさとか気遣いの根拠として頼りにしていたのに、あんまりだ。
     俺の咳が落ち着くと、王子は浮かせていた腰をソファに戻し、指先を顎に当てる仕草をする。
    「で、ここからが本題なんだけど」
    「ようやくか」
    「イコさんって、ぼくのどこが好きなんだろうね」
     知るか、と切り捨ててやりたい衝動に駆られる。実際、喉まで出かかった。踏み留まれたのは、単なる意地だ。一度引き受けたことを投げ出すのは性分に合わない。
    「クラウチは、どう思う?」
    「………………性格、とか」
    「そこは迷わずに言ってよ」
    「逆に聞くが、お前は自分の性格が良いと思っているのか?」
    「『いい性格をしている』とはよく言われるよ」
    「自覚があるようで助かる」
    「さすがにね。『ええ子』ではないよ。イコさんは、ちょっとぼくに夢を見過ぎなんじゃないかな」
     それには俺も同意見だ。
     一応、王子の容姿に惹かれた可能性も考えはした。知的に輝くターコイズの瞳に、甘く整った顔立ち。絵本の王子様を彷彿とさせる、浮世離れした美貌だ。可愛い表情を作るのも上手い。
     だが、性格の癖が強すぎる。
     俺たちの所属するボーダーには顔も性格も良い人間が、男女問わず数多くいて、生駒さんはその中で敢えて王子を選んだ。相当の面食いなら話は別かもしれないが、生駒さんはそういうタイプでは無いように思える。
     ならば、性格が好きなのだろう。
     恋人としては少々、いや大分難のある性格ではあるが。これに関しては、王子の性格を把握した上で、長いこと友人関係を続けている俺が1つのサンプルと言えるかもしれない。
     そもそもだ。
    「別に、理由なんて追い求めなくても良くないか。どこが好きとか、嫌いとか、考えすぎるのは却って逆効果な気もするぞ」
     だから、そろそろ俺を解放してくれ。
    「一理あるけどねぇ、ぼくがそんな答えでお茶を濁されて納得するタマに見えるかい?」
    「見えない」
    「だよねぇ」
     どら焼きをぱく、と食んだ王子は、眉を下げて「困ったなぁ」とでも言いたげな表情を作る。
    「現状には概ね満足しているよ。イコさんとは非番が重なった時は大抵一緒に過ごしているし、喧嘩の一つもないし、愛されているって実感もある」
    「なら別に良くないか?」
    「あのねクラウチ、ぼくは元々欲張りな人間なんだよ」
     知っている。いつ何時も勝利に貪欲でありつつ、楽しむことを決して諦めない。欲しい物があれば、全てを手に入れたがる。それが王子一彰という人間であり、俺が選んだ隊長だ。
    「何か、現状に不満があるってことか?」
    「というか、現状で得られている愛情を、今後も永続的に受けたいって話かな」
     ようやく、話の核心に近づいてきた気がする。
    「つまり、好かれている理由が分からないから、現状に再現性がない。だから、何が切っ掛けで生駒さんの心が離れてしまうか分からなくて、不安ということか」
    「そう。……ぼくはイコさんに幻滅されたくないんだよ」
     他人を幻滅させるのが趣味みたいなところのある王子から出た発言とは、にわかに信じがたい。恋とは、ここまで人を変えるものなのか。
     らしくない発言に驚くが、同時に、そのらしくなさを王子は楽しんでいるのかもしれない、とも思った。
     綿密に予想を立てた上で、それを覆されるのを何より好む王子だ。恋をして自己制御が効かなくなる感覚に敢えて身を委ね、振り回されるのは、案外嫌いではないのだろう。自分の意志でコントロールを手放している、と言ってもいい。
    「……悩んでいるわりに、随分と楽しそうだな」
    「あれ、わかっちゃう?」
     王子は悩んでいる。
     悩んでいるけれど、それは王子自身が望んでのことなのだ。ついでに俺を困らせて、振り回して、面白がってもいる。本当にいい性格をしている。
    「分かるさ、お前のことだからな」
     きっと生駒さんは知らないだろう。だから夢を見られるのだ。俺は、若干の優越感を覚える。少しだけ気分が上向く。
     ……しかし、それも束の間のことだった。

    「あーあ、いっそぼくはクラウチのことを好きになれば良かったなぁ」
     
     王子がまたおかしなことを言い出した。
    「だって、ぼくに夢見てないし」
    「……」
    「どんなぼくでいたら、クラウチが好いてくれるかだって、大体理解できている」
    「……」
    「ねぇクラウチ?」
     腹が立つほどに綺麗な笑顔だ。唇が三日月のような弧を描く。揶揄っているのが丸わかりな顔だ。
    「それは……俺がお前に恋愛感情を抱いていた場合、とてつもなく残酷な発言になると理解して言っているのか?」
    「抱いてないでしょ」
    「分からないぞ、隠しているだけかもしれない」
    「それは、ありえないね」
     王子がバッサリと切り捨てた。
     事実、俺は王子に対して一切の恋愛感情を抱いていない。
     だが、暗に隠し事の一つもできないと断言されるのは、見透かされているようで、侮られているようで、癪だ。負けず嫌いの性が騒ぐ。
    「無いことの証明なんて、できるものか」
    「仮にあったとしても、ぼくに責任はないよ」
    「さっきまではな。……でも今は違う」
     ソファから腰を浮かせて、王子の背後の背もたれに左手を添える。上から覗き込むような姿勢で、俺は王子の顔を正面から見据える。
    「お前が言ったんだろう、俺のことを好きになれば良かった、って」
     俺は高校一年生の時の、クラス劇のことを思い出した。当時も今みたいな体勢で、ヒロイン役を口説く役を与えられていた。俺が王子役だなんて柄ではないと思いつつも、熱心な推薦を受けて仕方なく引き受けたっけ。相手役の女子生徒が、ラブシーンで尽く卒倒するので、幾度ものヒロイン交代を経て、最終的にヒロインにキャスティングされたのは女装した荒船だった。あの時は本当に大変だった。
     ……いや、そんなことはどうでもいいんだ。
     現実に他人を口説いた経験なんて、あいにく俺にはない。恋愛物のコンテンツに触れる機会もそこまでない。だから芝居を参考にして芝居をする。
    「クラウチ、どうしちゃったの」
     王子が声に微量の怯えを滲ませる。俺に見下ろされて、自然と上目遣いになる様は、いつもの勝ち気な王子とは打って変わって、御し易そうに見えた。
     ちょっと気分がいい。
     空いている右手を、王子の頬に添える。肌理の細かい、すべすべとした肌が指先に触れる。びくり、と肩を震わせる王子。常に浮かべる余裕の表情を、剥ぎ取ってやりたい衝動に駆られ、自然と台詞にも熱が入る。
    「俺が、どんな気持ちでお前と生駒さんの話を聞いていると思っているんだ」
    「……クラウチ」
     王子の青い目に、縋るような感情が宿る。見様見真似の口説き文句でも、何とかなるものだ。このまま攻めて、寸前のところで「冗談だ」と勝ち誇ってやろう。
     さて、どうしようか──と次の一手に意識を割いていた時だ。

     バサリ、と紙束の落ちる音がした。

     俺の後ろ──隊室のドアの方からだ。
     振り向くと、羽矢さんが顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。足元には数冊のバインダーが転がっている。

     どうやら、とんでもないところを見られてしまったらしい。

    「くら……エッ……でも、王子くんと生駒くんは、エッ、あれ……?」
     忙しなく俺と王子に目線を向け、生駒さんと王子との関係を思い出し、混乱に陥っているのが見て取れた。王子隊最年長で、しっかり者でクールな羽矢さんは、完全に崩壊しきっている。
    「あれ、羽矢さん。おつかれさま」
     羽矢さんの動揺とは対照的に、王子はすっかり通常運転だ。
     ……もしかして、先刻までのしおらしい様子は演技か?
     あまりに露骨な釣りの戦法。引っかかったと気付いた瞬間、俺は悔しさと敗北感に打ちのめされた。
    「ご……ごめんね、お取り込み中だったかしら、出直すわ」
    「いや、もう終わったよ」
    「終わったって、でも……」
     羽矢さんが恐る恐る、俺の方に視線を向けてくる。早く誤解を解かなければ。
     俺が口を開きかけた時だ。
    「おつかれさまです! すいません、生徒会の用事が長引いてしまいました。……あれ橘高先輩、荷物を落とされていますよ」
    「あー……あぁ! ごめんなさいね、ちょっと取り落としてしまって」
     カシオが隊室に現れた。またしてもタイミングが悪い。
     これで俺は完全に弁明の機会を逃してしまった。
     呆然としている内に、カシオが羽矢さんの落としたバインダーを拾い集め、王子隊室はいつもの作戦室然とした雰囲気に収束していく。このままいっそ、何もなかったことにしてしまいたい。
     してしまいたかったのだが。
    「私は何があっても蔵内くんの味方だから」
     すれ違いざまに羽矢さんが小声で伝えてきた。別の場面で言われたら、その絶対的な信頼に涙が出たかもしれないが、今は別の意味で泣きたい気持ちだ。完全に誤解されている。

     そして、諸悪の根源たる王子といえば。

     途方に暮れる俺がおもしろくてたまらないのか、凄まじく良い顔をしている。腹立たしいほどに魅力的だ。きっと内心で「あーあ、おもしろいことになっちゃったなぁ」と胸をときめかせているに違いない。

     結局、俺はこれからも王子に振り回されて、勝敗に一喜一憂して、やきもきして、腹を立てて。それでも友人関係を続けていくのだろう。
     まったく、やっていられない。
     何が夢だ、幻想だ。
     俺だって王子に夢を抱けるものなら、是非抱いてみたい。そんなこと、一生叶わないだろうけれど。
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    allium328

    DONEクリスマスおうちデートするイコプリ2022
    いい子にして待っててねクリスマスおうちデートするイコプリ



    「イコさんって、ほんとうにひどいよね」
     キュッ、と唇を引き結んで、瞳を潤ませながら王子は訴えた。
     生駒の貸したオーバーサイズの裏起毛パーカーを身に纏い、寝癖をつけたまま甘い顔立ちを歪める姿は、大層可愛らしかったが、言っていることは聞き捨てならない。
    「…………俺、何かアカンことしてもうた?」
     生駒は胸に手を当てて考えてみるが、まったく心当たりはない。とはいえクリスマスの朝、自宅でイブの夜を共に過ごした恋人にこんなことを言われたら、ドキッとするものだろう。
     昨夜の記憶を辿ってみる。生駒が腕によりをかけて振る舞ったクリスマスディナーは大好評だった。生駒のサンタコスプレにだって喜んでくれた。真っ赤なサンタ衣装は、王子の着てきた、緑と赤をベースにした何とも形容し難い絵柄の入ったセーター(なんでも、王子隊で開催したダサセーター選手権なる胡乱な集いで着用したとのこと。王子が優勝したことを嬉しそうに報告してくれた)とのマッチングもよく、二人して散々爆笑しながら自撮りをしまくった。それからクリスマスらしい映画でも観ようか、と小さな薄型テレビで「ホーム・アローン」を再生しながら、薄暗い部屋で肩を寄せ合って過ごすうちに、そういう雰囲気になって……以下省略。
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    「いや、そんなんないな」
     生駒は、当たり前だと言うように柿崎の言葉を否定した。
    「ないのかよ」
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