おひとつとうぞ 出陣先の平成の時代で主がどうしても、と部隊にお使いを頼んだのは棒が二本刺さったソーダアイスだった。三十年ほどの販売期間で人々を魅了したという。本来の目的を果たした後、購入した氷菓を保冷鞄に詰め急いで本丸へと戻ればお使いの駄賃にとひとつ渡された。
袋を破り取り出せば、なるほど、中央で割って分けて食べるものらしい。俺がアイスを一緒に食べたい相手はもちろん。
俺たち兄弟に割り当てられた部屋へと歩く道中で、二つに折り分けた一方を先にかじってしまった。この頃すっかり夏めいておりひやりと爽やかな食感にほう、とため息が出る。氷菓に冷やされた吐息も温度が下がっており、こおりのいぶき!なんつって。
部屋では兄弟が気ままに過ごしていたようで、癖の強い髪の隙間にちらりと見える耳が不意に目についた。アイスをもうひと口かじり、咀嚼する。準備完了だ。
「ふーっ」
「!?」
「はは、主にこれ貰ったから一緒に食べようぜ」
ばっと耳を抑えて振り返る兄弟に溶けつつあるもう一方のアイスを差し出す。
「お前……後で覚えてろよ」
「おーこわ、アイス食べたらなー」
しゃくしゃく。俺たちはしばし無言で不思議な懐かしさを感じる味を満喫するのであった。