暁人の延命の代償として神様になったKK×代償として記憶を封印された暁人暁人には記憶が全く無い時期がある。どれだけ思い出そうとしても病院で診てもらってもどうしても思い出せない、空白とも言うべき時期。それは8月22日のたった一晩だけなのに
「何でだろう、何も思い出せないのにこの日に大事な事があった気がする……それにこの日付を見てると胸がザワザワする」
8月に戻したカレンダーを見ていた暁人は「よし」と気合いをいれて、立ち上がって出掛ける用意をし始める
「……8月22日に僕が倒れてた場所はスクランブル交差点…とりあえずそこに行ってみよう」
「来たけど……誰かと話した記憶がある?」
人混みの中で交差点を見た暁人は真ん中で誰かと話した記憶を思い出した。あまり他人と言い争いをしない自分がその人物とはその場で言い争いをした記憶。その記憶に導かれるように歩き、妹の麻里が火傷で入院していた病院に辿り着く。そこでも暁人は誰かと取り引きをした記憶を思い出す
「なんだよ……これ…誰なんだよ……顔だけがわからない……」
性別も声も髪の色も背格好もわかる。ただ顔だけがわからない。そんな記憶に暁人は困惑する。それでも思い出した記憶に暁人の身体は導かれるよう足を進める。次に辿り着いたのは見知らぬ、でも何処か懐かしく感じるアパート、アパートの前で男から「持っていけ」と弓を渡された記憶を思い出す。そのまま歩き、カゲリエへ到着し高く聳えるビルを見上げる。空を舞う白い布を男と追いかけたり、水の中にいる河童を捕まえた記憶が脳の底から浮かび上がる。
「誰なんだ……アンタは……」
ふらりと記憶に導かれ、次々に暁人は歩き続ける。そうして最後に辿り着いたのは広川神社。普段だったら参拝者や社務所に人がいるのに何故か人っ子一人いなかった。静かすぎる神社を歩く暁人は本殿の扉の鍵が開いてる事に気づき、ソッと近づいて扉を開く。中にいたのは教科書の中で見た事がある着物を着た男だった。驚いた暁人は床を鳴らしてしまい、男が振り向く
「誰……だ?あ……あきと……?」
「え……あぁ……けぇ、けー……?」
振り向いた男と目が合ったと同時にぱち、ぱちん、と頭の中で泡が弾けるように思い出されていく暁人が思い出したかった8月22日の記憶たち。霧が囲う渋谷を目の前の男、KKと共に駆けて飛び回った記憶と元凶を倒したと同時に土の上に倒れる自身の記憶、そして薄れる意識の中で自分を呼ぶKKの声が一気に溢れ、膝から力が抜けそうになるが何とか立ち続けていると話しかけられる
「何で此処に来た」
「な、んでって……」
「オマエの記憶は封印されたはずだ」
『封印』という言葉を聞いた暁人は続けられた「オレの事は思い出さないはず」の言葉は聞いていなかったが、勝手に自分の記憶を相棒だと思っていた男に弄られていたとわかり、震える腕で胸倉を掴む
「なんで……僕の記憶を封印したんだ……」
「それに加えてオレが神になる事があの時、死ぬはずだったオマエの寿命を伸ばす代償だった。」
「寿命……だって?」
「あぁ、そうだ」
掴んだまま、頭を下げていた暁人がバッと頭を上げてKKの胸倉から手を離し、そして拳を握って思い切り振りかぶってKKを殴る。ドサッ!!という音と共にKKが倒れる。馬乗りになった暁人が再び胸倉を掴む
「誰が延命をしてくれなんて、神になってくれなんて頼んだ!!僕はアンタに生きて欲しかった!!生きて家族に会って欲しかった!!!!」
「……オレはオマエに、暁人に生きて欲しかった。だからその代償として神になる事もオマエの記憶を封印する事を選んだんだ」
ガクガクと揺さぶられていたKKは自分を殴ったせいで赤くなっている暁人の手をソッと触り、真っ直ぐに暁人の目を見ながらそう答える
「なんでだよ……たった一晩だけじゃないか……一晩だけの付き合いなのに……」
「オレはそのたった一晩で救われた。ただ家族や他人に認めて欲しかっただけのロクでもない男を認めてくれたヤツを助けたかっただけだ」
「……けーけー」
「なのに、何で思い出した。あの一夜を忘れて妹と暮らしていつかは可愛い嫁さんと世帯を持って生きていくオマエを見守るだけでよかったんだ……なんで思い出したんだよ……暁人」
暁人の手に優しく触れながら、淡々と話し続けるKKの表情は話していくうちに苦しげな表情へ変わっていく。それを見ていた暁人は手を離してKKに抱きつく
「KKが僕の幸せを願って記憶を取り上げても僕は絶対にあの一夜の記憶を思い出すし、KKの事を絶対に忘れてなんかやらない。それに僕、女の子が好きだったのにアンタになら抱かれてもいいって思うくらい好きになったんだ。相棒としても片思いの相手としてもアンタの責任は重いからな」
「は?」
そう言った暁人は少しだけKKから身体を離し、ポカンとしている相棒の唇にチュッ、とキスをして「ふふっ」と小さく笑って寄りかかる。KKは言われた事が処理しきれなかったがキスをされた事で正気に戻り、また抱きついて大人しくしている暁人へ声をかける
「ハハッ、それで神々の代償を破っちまうなんてオレの相棒は最高だなぁ。なぁ、暁人。オレもオマエの事が好きだよ。心配しなくてもちゃんと性欲を伴った方の好きだ」
「けぇけぇ……」
「さて、八百万の神の一柱になったオレにオマエは何を望む?」
たった今、恋人になった相棒を抱き締め返したKKが問いかける。告白され顔を赤くしている暁人が口を開く
「……僕はアンタとずっと一緒に生きていきたい。アンタの隣に立って一緒に何処までも歩いていきたい」
「いいんだな?新米とはいえオレは既に神だ。神の隣に立って生きていくという事は人としての生を捨てる事になる。今ならまだ引き返せる」
KKと目をしっかりと合わせた暁人は問われた言葉をYESと返すがまだモダモダと言いそうな相棒で恋人を黙らせる為に追撃をする
「うるさい、アンタに望みを言った時点で覚悟してるんだよ」
「本当にオマエは馬鹿だなぁ……可愛い嫁さんをもらって可愛い子供も望める未来を捨てて家族や過去を捨てたと言い張ったロクでもない男の妻になるなんて…」
「KKはグダグダうるさい。僕はそんなロクでもない男を好きになって相棒でお嫁さんになれる事が嬉しいんだよ」
良いから早く、僕をアンタのモノにしてよ。とKKに抱きしめられたまま暁人が話し、きっぱりと言い放った相棒に完敗だ、と抱きしめていた腕を離す
「グダグダ言って悪かった。が、まだ時期じゃない。ちゃんとその時期になったらオマエをオレの嫁にする」
「ホント?嘘じゃないよね?」
「嘘じゃない。ただ嫁入りには今の時期は悪いだけだ」
ぐいぐい迫る暁人にお手上げだ、と言わんばかりに腕をあげるKKにむぅ、と納得がいってないように暁人が離れる
「じゃあ、今日は帰るけどまた来るね」
「おー、今度は酒かタバコ持って来いよ」
「えーー」
来た時とは真逆の明るい表情と雰囲気を纏ったまま帰っていく暁人の後ろ姿にKKは安堵しながら姿が見えなくなるまで手を振っていた