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    KiyoNago32

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    KiyoNago32

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    交流会6での無配でした。かなり突貫工事でスキル「勝手にシリアス」を有している為ほんのりシリアスです。
    タイトルは天野月子さんの「龍」という曲の一説から。よければ聞いてみてください。

    ――海底の沈む 真珠になれずに 浮き上がるこの想いは
    躓く足元を漂って きらきら ひかる―――

    #曦澄

    きらきら、ひかる。山麓駅専用駐車場に止まった一台の車から地上に降りると、明らかにこれまでとは違う寒さを感じた。空気がひんやりとしていて、江澄は思わず夜空を見上げる。
    駐車場と、併設しているロープウェイ駅からの灯りのせいで満天とまではいかないが、普段自分たちが住んでいる都市部よりは格段に星が見えた。これだけでも感動的なのだが、これから更に凄い星空を見に行こうというのだから、年甲斐もなく気分が高揚している。
    「江澄、風邪をひきますからこれを」
    「ああ」
    運転席から降りてきた藍曦臣は後部座席のドアを開けると、江澄にカシミヤのコートとマフラーを渡してきた。
    つい先日プレゼントされた、江澄への誕生日祝いだ。
    「山頂駅の気温は二度だそうです。思ったよりは寒くないですね」
    「貴方にとってはな。私にとって二度はだいぶ寒いぞ」
    「ならちゃんと暖かくしないと」
    「わかってる」
    手渡されたコートを羽織り、マフラーも巻く。江澄がそうしている間に藍曦臣も準備を整えたようだ。車を施錠し、これから乗るロープウェイの駅まで歩き出した。

    何ものにも遮られない満点の星空へ。そんな広告をスマートフォンで目にしたのは三ヵ月ほど前、夏の頃だった。
    とても暑い日で、藍曦臣の家に涼みに来ていた江澄は、星空もいいな。とベッドの上でぽつりと呟いた。
    『星空ですか?』
    『ああ、これ』
    スマートフォンの画面を見せると、藍曦臣はこんなところがあったんですね。と言う。
    『飛行機で移動すれば二時間程度だし、行ってみたいなと思ったけど、夏季は来週なんだな。急すぎる』
    サイトをスクロールしながら見ると、どうやら星空鑑賞便と銘打ったこの企画は、一年の内三回しかやっていないらしい。春、夏、秋の三回。冬は氷点下を下回り雪だらけになる為やらないようだ。
    夏の便は、来週の木曜日から日曜日の四日間だった。江澄は土日休みだが、藍曦臣は確か来週、深圳に出張のはずだ。それによくよく見れば、どうやら抽選制らしい。
    来週お互いの予定が空いていたとしても、行くのは無理だということだ。
    『まぁ、いつか行けたら行こう』
    そんなふうにしてその話は終わった。江澄自身も、ふと見つけた広告に心を惹かれた、その程度のことだった。
    お互い忙しい身なのは承知しているし、行きたいと駄々をこねるほど子供ではない。それにどうしても行きたいかと問われればそうでもない。

    だから話をした事もすっかり忘れていた今年の誕生日、「明後日、星空を見に行きましょう」と藍曦臣から切り出されたのには心底驚いた。
    藍曦臣が予定を空けていたことにも驚いたが、自分の予定も、いつの間にか空いていたことに驚いた。どうやら藍曦臣に相談された魏無羨が根回ししたらしい。
    あれとあれよと言う間に準備が進み、気が付いたら飛行機に乗って、ホテルにチェックインを済ませ、今日はこうやって宿泊先から車で来ている。



    ログハウスを模したウッド調の駅舎の入口で藍曦臣は係員にチケットを見せた。そのまま駅の中に入る。
    誘導されたのは優先登場エリアだ。ロープウェイは二階建てになっており、上部の籠は優先搭乗者専用、下部の籠は一般客専用という事らしい。

    ふと下の階を見ると、下部の一般客待機列にいるある男性が、係員に何か手渡して二階に移動してきた。いわゆる賄賂、よくあることだ。
    「ああ言うのは、あまり好きではありませんね」
    「賄賂が?誰でもやっているだろう」
    「そうでしょうけど、でもあなたは受け取らないでしょう?」
    「嫌いだからな」
    江澄がそう言うと、藍曦臣は少し笑った。
    優先搭乗エリアに案内されているということは、おそらく藍曦臣は抽選に参加したわけではなく、どこからか招待を受けたのだろう。それぐらいの人脈はいくらでもある男だ。
    藍曦臣は優先エリアで案内係をしている女性に声をかけた。いくつか会話するだけで、女性は心得たように頷き、そして軽く会釈をしてその場を離れる。
    「何をした?」
    「大したことではありませんよ。あの男が一緒のゴンドラに乗ることのないよう、お願いしただけです」
    「それだけか」
    「もっと何かご希望が?」
    「いや、それぐらいでいい」
    藍曦臣なら、男を下部待機列に戻すことも、賄賂を受け取っていた従業員を解雇することも容易にできるのだろう。けれど本当に、この国ではよくあることなのだ。こういう社会に生きているのが自分達なのだ。全てのことに、主義に合わないからと目くじらを立てるほど暇でもない。
    「私はあなたと二人きりになれればそれでいいですから」
    「そうだな」

    ようやくやって来たゴンドラに乗り込むと、藍曦臣が手配した通り、二階籠には自分達だけだった。
    一階籠と違い、二階籠は天井がガラス張りで、上を見上げるだけで夜空が見える。
    今日は新月なので、月明かりはどこにもない。

    元々、入っても数組だけであろう二階籠にはゆったりとしたソファが三組置かれていた。最前列のソファに腰掛ける。
    「山頂まで約十分か」
    「満天の星空まですぐですよ」
    「しかし、よく覚えてたな。夏の話を」
    「私はあなたの言葉なら全て覚えていますよ?」
    「本当に?」
    「ふふ、冗談です。でも、江澄が見たいもの、したいこと、行きたい場所…そういうのは、すぐにメモを取ります。普段はあまり、ああしたいこうしたいって言ってくれませんから」
    「それは藍渙の方だろう」
    「そうですか?私はあなたがいればそれでいいので」
    「ほらまたそれだ。先月のあなたの誕生日に私がどれだけ苦労したか…不公平だ。もっと欲を出せばいいのに」
    「江澄のことに関してはよくばりだと思いますが…そうですね、では、もう少しこちらに来ていただけませんか?」
    隣同士に座っていたけれど、拳ひとつ分ぐらいの隙間が開いていた。
    藍曦臣に言われて江澄がその隙間を詰めると、藍曦臣は江澄の肩を抱いた。
    ゴンドラ内には空調がないので、それだけで暖かくてほっとするような心地になる。けれど同時に反射的にその身体を押し返そうとして、けれど江澄は思いとどまった。ここには誰も居ないと、そう自分に言い聞かせる。
    藍曦臣の巻いたマフラーが頬に当たって、思わずそのマフラーを剥いでしまいたいと思った。本当の本当にここがプライベートな空間なら、そのままその形のいい唇に口付けてしまいたいと思う。…もちろんやらないけれど。
    「どうしました?」
    江澄の視線を感じた藍曦臣が、にっこりと笑みを浮かべながら見ている。江澄はその頬をつねった。
    「ほうひょう?」
    つねられたまま喋るものだから、なんだかとても間抜けに見える。江澄は堪えきれずに笑うと、すぐに手を離した。
    「なんでもない。さぁ、もうそろそろ着くみたいだぞ」
    山の稜線が、いつの間にか低い位置にあった。月明かりはなくとも、遠くの街明かりが山の向こう側にぼんやりと見える。今日自分達はあの場所から来たのだ。

    ゴンドラが静かに停車すると、藍曦臣と江澄は真っ先に降りた。乗降口にはまた別の係員がいて、二人を案内する。 
    天体観測用のテラスもまた、一般客とは別のところにあるようだった。
    建物の中や階段には灯りがついていたが、テラスへの出入口は、青いライトが僅かにあるだけだ。
    テラスに出ると、人の気配はあるのに、全くその姿を識別できない。僅かに声は聞こえるが、それだけだ。隣に立つ藍曦臣の顔ですら危うくて、江澄ははぐれないように藍曦臣の腕を掴んだ。
    「江澄、せっかくならこちらを」
    藍曦臣が腕を掴んだ江澄の手をとって、自分の手と握り合わせた。温かく大きな手だ。
    「変な気分だ」
    「どうして?」
    「人がいるのに…見えない」
    「これだけ暗いとそうでしょうね。それに皆さん、星を見るために来ていますから」
    「そうだな…綺麗だ…本当に」
    極限まで落とされた人工の灯りは、人の姿を隠す代わりに、鮮やかな星空を映し出していた。
    夏に見た広告と同じ、まるで星が降ってきそうなぐらい壮大な星空。天の川もくっきり見える。空を見上げていたら、ひゅっと星が流れた。
    「流れ星だ」
    思わず江澄は呟いた。はしゃぐような声で藍曦臣の方を向く。
    「普段私たちがあまり見かけないだけで、本当はこんなにも流れているのですね」
    藍曦臣もまた、感心したように星空を眺めていた。
    彼の言葉通り、流れ星は何度でも流れた。流星群でもない限り見られないと思っていたけど、星は常に自分達の上を流れているのだ。
    真上を見上げる。天頂より下がった北の空に北斗七星を見つけた。柄杓の形の先にある星は北極星だ。全ての星の中心。
    「藍渙、あそこ、北斗七星が見えるだろ?神話の話は知っているか?北斗星君は人の寿命を記した巻物を持っているらしい」
    それは古くから伝わる国特有の神話だ。道教思想と星座が融合して、北斗七星はよく、北斗星君と呼ばれている。 
    北斗星君は死を司る神。規律に厳格で、人は死ぬと北斗星君の裁きを受けるのだと言う。
    「では長生き出来るように賄賂を渡さねばなりませんね。その巻物に数字を書き足してもらわないと」
    「金でも握らせるか?でもどうやって?」
    先ほどのロープウェイでの事を思い出しながら江澄が笑う。
    「お金に意味は無いでしょうから…内容も含め、それはこれから考えます」
    真面目くさった藍曦臣の言い方もまた面白かった。
    寿命を書き足してもらえるなら、自分達は百歳ぐらいまでは生きられるだろうか?
    途方もない先の話だ。今からでは想像もできない。彼と、これから六十年以上の月日を共に歩むというのは。
    でもそれも、実現するのであれば、とても素敵な事だと江澄は思う。
    「どれだけあなたが年老いても、そばにいられたらいいのにな」
    「阿澄…私は、たとえ北斗星君に地獄への裁きを受けても、あなたを離しませんよ」
    神話の話だ。真面目に信じている訳じゃない。けれどもし、自分が死んだ時に裁きを受けるなら、地獄に送られるかもしれないと思うのだ。
    藍曦臣をという人間を愛してしまったがために。この国は、そういう国だ。でも同じ事を彼が考えているのだと知って、江澄は嬉しいような、悲しいようなそんな気分になった。
    「なら俺も、同じだ」
    「…ねえ江澄、あなたの星座…蠍座がどんな星か知っていますか?」
    「オリオンを殺した蠍だろう?」
    「それは西洋の神話ですね。蠍座は、春告げ星なんですよ。蠍座が明け方に見えるようになったら、もうすぐ春が来る。あなたの星座と共に、春が来るんです」
    藍曦臣が自分と出会う前、どのような生活を送り、どのように生きてきたか全く知らない訳ではない。でもそれを、今蒸し返そうとは思わなかった。自分の事を春だと言ってくれるなら、彼にずっと春が訪れるといいと思う。ずっとそばに居て、彼の春でいたいと思う。

    江澄は周りを見回した。やっぱりどれだけ目を凝らしても、暗くて周囲のことはよくわからない。江澄は握りしめた藍曦臣の手を引いた。藍曦臣に体を近づけ、その首元で一言囁く。
    「藍渙、寒い…」
    「……」
    外気温は二度だ。遮るものが何もない山頂なので風も強い。体感温度は零度を下回っているかもしれない。コートとマフラーは着ているが、手袋は持ってきていないし、比較的温暖な場所で生まれ育った江澄にとっては厳しい寒さだった。
    だから「寒い」と言った。言外に「温めろ」と願いを込めて。
    藍曦臣に対して、わがままであったことは一度もない。それは自分の性格の問題だと思っている。甘え下手なのはわかっていた。だから、これが最大限の譲歩だ。これだけ暗ければ、誰にもわからない。手を繋ごうが、寄り添いあっていようが、抱きしめていようが、わからない。きっと空の北斗星君にだってわからないだろう。いや、知られても構わない。本当ならいつだって叫びたいのだ。この男は私のものだと。叫んで、叫んで、誰も近づかないようにしてしまいたい。見合いなんて来なければいいのに。

    僅かな間の後、藍曦臣は江澄の手をひくと、そのまま背後に回った。うしろから覆いかぶさるように抱きしめられる。
    「まだホテルに戻るまで時間があるんですよ…私を煽らないで、江澄」
    ぎゅうっと抱きつかれて、江澄は満足したようだった。温かいし、風避けにもなるし、これが一番いい。
    「ステイだ。我慢しろ」
    「そんなことを言って、知りませんよ。どうなっても」
    「どうなったっていいんだ…。あなたとなら」
    それは江澄の嘘偽りない本音だった。

    言いたいこと、言えないこと、その全てを思う。藍曦臣への想いの全て。

    本当に願いが叶えばいいのに。北斗星君の巻物に寿命を書き足して、遠く、遠く先の未来まで共に生きてゆきたい。
    藍曦臣の体温に包まれながら空を見上げた。更にきつく抱きしめられる。江澄の言葉に藍曦臣は言葉を返さなかった。その抱擁が、全てだったのかもしれない。

    星空を見上げる江澄の目の前で、流れ星が夜空を駆けた。



                         終
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    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
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    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
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    takami180

    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
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     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
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    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
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    1437

    takami180

    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050