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    vi_mikiko

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    降志ワンドロワンライ参加作品
    お題:
    「節分」
    「眼鏡」
    「お気に召した?」

    #降志ワンドロワンライ
    yuzhiWandolowanRai
    #降志
    would-be

     節分。
     それは立春の前日に行われる、日本古来から親しまれている行事。
     外は未だ冷たく透明な空気だが、暦上はもう春がくるのだ。
     日本を愛し日本に愛された男、降谷零は、本日招かれた会場のチャイムを意気揚々と鳴らした。

    「安室さん。いらっしゃい」

     玄関に出てきたのは、この家に住む小さな少女。仮の名で呼ばれた降谷――安室は、自分と同じ異国の血が混じる彼女を見て目を細める。遠い国に出自を持つ二人が、何の因果かこの日本で出会い、共に日本の文化を楽しめるのだ。

     少女――灰原哀との関係は、以前は目も合わせてもらえないほど殺伐としていた。しかし、徐々に関係を詰めていき、今ではポアロの配達を頼まれるくらい仲を深めている。

    「持ってきましたよ。頼まれていた恵方巻き」

     そう伝え、出前の品を掲げる。玄関で渡せばいいのだが、安室の足は廊下のフローリングを踏みしめた。哀も自然とリビングまで安室を案内する。配達のついでに彼女と世間話をするのも、お馴染みの流れとなっている。
     扉の中は、暖房が聞いていて暖かかった。そのほっとする空気は、今の自分達の関係を表しているようで、胸の裡までぽかぽかする。まさに立春。そう思い緩みかけた安室の心は、部屋の中心にいる人物が視界に入った途端に殺気立った。

    「……どうして、あなたまでいるんですか?」

     安室の問いかけに眼鏡を光らせた男は、彼女の隣人、沖矢昴。隙を見てはこの家に上がり込もうとするくせ者だ。それは安室も変わりは無いのだが……なんにせよ安室は、この男とめっぽう相性が悪かった。

    「博士がぎっくり腰になったんです……その代わりに、私は今日の行事に呼ばれているんですよ」
     そう言って沖矢が手にするのは、赤の鬼の、お面。節分のこの時期に、スーパーなどでよく見かける市販品だ。彼が何を頼まれたのか、これからこの家で何が起こるのか、安室は一瞬で悟ってしまった。

    「鬼なら僕がやる。お前は帰れ」
    「ほう……赤が嫌いなあなたが、このお面を被るというんですか?」

     キッチンに入った哀に聞かれないよう、声を落とし至近距離で睨み合う。二人のテーブルの前には、大量の大豆が用意されている。これから彼女の友人が集まり、沖矢を鬼とした豆まきが始まるのは明らかだ。
     この男が、彼女に追われ、豆を投げられる。安室の頭に浮かぶ光景は、海で追いかけっこをしてはしゃぐ男女さながらだ。この憎い男は、彼女から逃げながらお面の内で鼻の下を伸ばすに違いない。
     安室がそんな度を過ぎた妄想で頭を沸騰させていると、玄関の呼び鈴が鳴った。

    「子供達が来たみたい。昴さん、スタンバイお願いね」
     彼女はそう言い残すと、玄関に消えていった。
    「そういうことだ、君はもう用なしだ……残念だな、降谷君」
    「赤井ぃ……っ!!」
     一瞬素を見せた男にカッとなる。
     気がつくと、安室はテーブルの上の豆を鷲掴みにしていた。



    「……もう、本っ当に、最っ低!!」

     鬼のように青筋を立てる哀の前に広がる光景は、負傷して椅子に座る沖矢、反省して項垂れる安室だった。背後には、きゃっきゃと豆を投げ合って遊ぶ子供達の声が空しく響いている。

     哀が探偵団を連れて家の中に戻ると……待っていたのは惨状だった。
     巻き散らかされた豆、崩れ落ちる恵方巻。二人が先走って始めていた闘いは、豆まきなんて生やさしいものではない。あまりの勢いに、沖矢の眼鏡にヒビが入ってしまったほどだ。

    「普通、眼鏡が割るまでやる? まったく大人げない。信じられないわ」

     ぶつぶつと言った哀は、沖矢の眼鏡をそっととる。他に傷がないか確かめるように、優しく彼の顔に手を添えた。

     本当は、この豆で仮面を裂いてやろうと思ったんだ――そうも言えない安室は、昴を恭しく心配する哀の姿を見て、嫉妬で胸を痛ませた。

     なぜ安室が沖矢に突っかかるのか、哀は知らない。
     二人が実は組織のNOCで、安室は組織時代から彼をライバル視しているとういことも、
     哀に近づく男は自分だけでいいと思っていることも――彼女は知らない。

     豆のぶつけ合いでは安室の方が優勢だったが、試合に勝って勝負に負けたとはこのことだ。安室がそんなことを考えているそばで、昴が顔に伸びる哀の小さな手を取った。

    「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。眼鏡以外、傷ついてませんから」
    「そう?」

     これ以上まじまじと顔を見られ、変装だと悟られるのを危惧したのか。沖矢は立ち上がると、手にしていた赤鬼の仮面をテーブルに置いた。

    「でも、おかげ様で豆を投げられるのが少々怖くなりましたので……今日の役者は、安室さんにしてもらえませんか?」
     思いがけず指名され、安室は目を丸めた。ねえ、と沖矢に促された哀が、気まずそうに口を開く。

    「本当は、あなたにお願いしようと思って……でも、赤が嫌いっていうから、昴さんに頼んだのよ」
    「……そうなんですか?」

     先ほどまで胸に立ち込めていた嫉妬が、じわじわと雲散していく。
     それだけで十分だったのに、安室を待ち構えていたのは、期待以上の展開だった。

    「そうなの。一応、用意したのよ……でも、下手だから、恥ずかしくて」

     そう言って、彼女はテーブルの隅から、おずおずと青の紙を取り出した。
     手作りの青鬼の仮面。画用紙にクレパスで丁寧に塗ってあるそれには、耳の部分に起用に穴が開けられ、輪ゴムが通されている。

    「これ、わざわざ作ったんですか?」
    「そうよ。悪い?」

     それは、彼女が安室のために用意した、お手製のお面。
     他でもない、自分のために。
     照れているのかつっけんどんになる彼女の口調すら愛おしい。安室は彼女を胸に抱きしめるように、そのお面を大切に受け取った。

    「青鬼、お気に召しました?」

     そう言ってほくそ笑む沖矢はやっぱり憎くらしくて。にやけた顔を隠すようにお面を被った安室は、彼女が描いたとびきり怖い鬼の顔を、ライバルに向けてやった。



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