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    vi_mikiko

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    vi_mikiko

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    第3回降志ワンドロワンライ投稿作品です。

    「匂わせ」
    「ハート」
    「本当に、○○されると思った?」

    #降志
    would-be
    #降志ワンドロワンライ
    yuzhiWandolowanRai

    『ごめん。今日、帰れそうにない」
     彼からのメッセージに、私はスマホを投げそうになった。



     今日は二月十四日。世間がバレンタインと言って浮かれている日。
     先日、彼と一緒に食べようと言って、大きな箱のチョコを買ったのに。彼はポアロから帰れなくなったらしい。
     一年で数少ないイベントの日、チョコケーキを売るポアロも繁忙だということはわかっている。
     それでも、今日は夕飯前に帰るって約束したくせに、反故にした彼に腹が立つ。先に一人で食べていようと。チョコの包装紙をビリビリに破った。

     私が購入したのは、某有名ショコラブランドのバレンタイン限定セット。人気店員である彼とは外で二人になるわけにはいかないから、一人寂しく並んで手に入れたもの。
     ピンク色の、ハート型のチョコレート。
     こんなにあざといチョコを選んだのは、彼目当ての客に対しての当てつけだ。

     本業とは別の顔、ポアロの店員でもある彼は、若い女性客から絶大な人気を誇る。
     バレンタインが近くなってから、彼にチョコを手渡そうと華やかな紙袋を持った女性客が、連日ポアロに列をなしていた。

     ショコラブランドについてSNSで調べ尽くした私は、紙袋を見ればその中身がわかるようになっていた。
     白いパッケージで清楚にみせかけたブランドA。いざ箱を開けると、中身はお菓子とは思えないほどアルコール度数の高いチョコレート。見た目で釣って酔わせるなんて、とんでもない悪行だ。私は、通称ハニトラチョコと呼んでいる。
     無難な包装のブランドBは、中身もプレーンなミルクチョコレート。慎ましやかな顔をみせているが、チョコの主役は私なんですよ、なんて裏で思っているに違いない。名づけるなら、本妻ぶりっこチョコだ。
     紙袋にピンクのハートがデザインされたブランドCは、中身まであけすけなハートのチョコレートとなっている。頭の軽い女が買う品物。あばずれチョコと呼ぶべきだ。

     連日ポアロに張り込んでいた私がデータ収集した結果、あばずれチョコを持ってくる客が抜群に多かった。
     だから私は、あばずれチョコの中でも一番痛々しいチョコを選ぶことにした。ショッキングピンクの目がチカチカする箱に、毒々しい赤のハートのチョコレート。

     私がポアロに行くたび、接客中の彼には無視をされ、家ではポアロにくるのはやめろと説教された。彼は潜入調査中。これ以上目立つわけにはいかないのだ。バレンタインが近づく中、彼女がいるなんて知られたら、さらに騒がれるなんてわかっている。

     それでも、私は行くのをやめなかった。だって、私は、彼の彼女なのに……

     買ってきたチョコを開けテーブルに広げると、ブランド名が見えるように箱と紙袋を並べた。ベストな画角に配置にすると、スマホのカメラで撮影した。




    「ただいま……」
     ポアロの仕事が終わり、彼はボロボロになって帰ってきた。両手には何も持っていない。チョコレートなんて持って帰ってくれば、私がぶち切れるとわかっているからだろう。

    「おかえりなさい」

     彼は、私を見て訝しんた。それもそのはず。約束を破られ怒っているはずの私が、機嫌の良さそうな笑みを浮かべているからだ。

    「志保、どうした?」
    「これ、彼氏の部屋で撮影したって、SNSに投稿しちゃおうかしら」

     私は彼に、先ほど撮ったチョコレートの写真を見せた。
     艶々の紙袋に、部屋に干された予備のポアロのエプロンが、反射して映っている。
     ポアロに男性店員は彼しかいない。一般の目にはわからないだろうが、SNSの情報戦に長けた彼のファン達は、「匂わせ」投稿だと気づくだろう。次の日には、タイムラインが真っ赤に炎上しているに違いない。

    「ちょ……やめろ」
     彼が焦り、私の手を止めようとする。
     疲労で動きが鈍くなる彼の手をするりと交わすと、私は勢いで画面をタップした。

    「志保!」
    「嘘よ。本当にアップすると思った? そんなことするわけないじゃない!」

     私がヒステリックに怒鳴り散らすと、彼は口を結んだ。そして、苦悶に満ちた表情を浮かべる。
     彼と付き合いだしてから、こんな顔ばかりさせている気がする。
     我ながら、卑屈で、面倒で、最低な女だと思う。
     彼は組織のことがあるから、責任感で守ってくれているだけなのに。
     組織が瓦解し全てが終わったら、振られるのもわかってる。





    「志保。今まで不安にさせてごめん」

     時は巡り、一年後のバレンタイン。組織が壊滅し、彼は勤める必要のなくなったポアロの店前で、私と正面から向き合っていた。
     エプロンを脱ぎ正装した彼には、店の中からも外からも好奇な視線が送られている。彼の熱狂的ファンの女性達からは、不安げな声が上がる。

     そんな中、降谷さんが私に差し出したのは、真紅な薔薇の花束だった。

    「こういう展開を、ずっと望んでたんだろ?」
    「え……」
     確かに、私は彼の人気にやきもきして、ずっと嫉妬していた。
     恋人なのに公表もできなくて、存在を隠すためポアロに来るなと言われるたび、悲しい気持ちになった。
     でも、こんなのって、あんまりだ。大勢の目が突き刺さる中、震える私は、立っているのもやっとだった。

     それは恐怖の震え? それとも歓喜の震え?
     そのどちらでもあるとけれど……後者の方が、ずっと強い。

     感極まって湧き出る涙を、彼に優しく拭われる。彼の指がそのまま頬を滑り、顎にかかる。これから起こる出来事に怯えて、私は瞼をぎゅっとつむった。
     いつまでも訪れない熱に、しびれを切らして目を開ける。

    「本当に、キス、されると思った?」

     彼の言葉にほっとして、軽く息をついた瞬間。

    「するけどな」

     噛み付くように唇を奪われる。薔薇の花束を胸に抱きながら阿鼻叫喚の悲鳴に包まれた私は、頭の中が真っ白になった。




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