Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    Nullpoint_mdzs

    @Nullpoint_mdzs

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    Nullpoint_mdzs

    ☆quiet follow

    雲夢から姑蘇へ贈られた蓮に、不思議な力が宿りました。

    【曦澄】イベント後もそのまま公開しますので、ゆっくり読んで頂けたら嬉しいです【全年齢】

    #曦澄
    #mdzs

    贈り物(仮) 本格的な夏の暑さがってきた頃のこと。
     まだ日が低い時間に雲夢から姑蘇への使者がやってきた。
     藍曦臣の目の前で雲夢の門弟が恭しく拱手すると、後ろに控えていた別の門弟がその隣に立ち、桐の箱を両手で支えて差し出す。
     自らその箱を受け取ると、仄かに桐の香りが漂った。
     送り主には心当たりはあるが、贈り物を貰う心当たりがない。
     はて、と首を傾げつつもあまり便りを寄こさない恋人からの贈り物は素直に嬉しく、両手でしっかりと抱えて寒室に持ち帰った。


     箱を開けると、そこには一本の蓮花の蕾。
     贈り主の霊力が微かに残ったそれを寝台の端に活けると、藍曦臣は満足そうに微笑んだ。
     毎朝欠かさず、水揚げと水切りを行い、夜にはおやすみと声をかけた。


     そうして三日目の朝。
     藍曦臣が目を覚まし、いつものように蓮へと視線を向けると、今まさに花が開こうとするところだった。
     ゆるゆると時間をかけて開いてゆく花弁の中で、なにかが動いた気がして、藍曦臣は上半身を起こし蓮の前に正座をして上から覗き込む。
     半分ほど開いたそこには、人型で親指ほどのそれは眩しそうにもぞりと動いた。
     正面から差し込む朝日を浴びて、花の中でゆっくりと伸びをするそれを藍曦臣はじっと眺めている。
     まだ眠たげに目を擦り、ゆっくりとした動作で上半身を起こしたそれが、藍曦臣を見つける。
     ぱっと笑ったその笑顔は、文字通り花が咲いたようだった。

     「……阿、澄?」

     そう呟いて、藍曦臣はそれを花の中から掬い上げ、目の高さまで寄せる。
     突然のことに驚いてバランスを崩したそれは、よたよたと藍曦臣の掌で立ち上がり、少しむっとした表情で見上げた。
     やはり、阿澄に似ている。
     悪しき霊力は全く感じ取ることができず、むしろ木陰に吹くそよ風のように爽やかな空気が寒室を満たしていた。
     これが式神であるとすれば、このように精巧で実体のあるを長距離で保てることに驚きつつ、操っているであろう本人が心配になり、藍曦臣の顔色が変わる。
     身支度もそこそこに、それを中衣の襟の間に押し込むと、寒室を飛び出した。
     取り乱したような藍曦臣の姿に、偶然通りかかった藍氏門弟は驚き、何事かと駆け寄る。

     「心配ない。急用ができただけです」

     それだけ言うと、藍曦臣は御剣で飛び去った。


     向かった先は蓮花塢。
     胸元のそれを落とさないよう、片手を襟の前に添えて、藍曦臣はいつもより早く目的地に到着した。
     無礼を承知で試剣堂のど真ん中に降り立つと、すぐに江氏の門弟が現れる。
     突然の来訪にも慌てることなく藍曦臣に対して拱手をする様に小さく頷いて、江宗主への面会を依頼すると、半刻ほどお待ちくださいと告げ、藍曦臣を残して奥へと消えた。
     すぐに門弟は戻ってきて、藍曦臣は奥の客間へと通される。
     椅子に掛け懐をそっと見下ろすと、藤花のような淡い瞳がこちらをじっと見つめていた。

     「阿澄……」

     無意識に呟くとそれは「あーちょ?」と舌足らずに反復して不思議そうにこてんと小首を傾げる。
     あぁ、幼子とはこのようなものであったろうか。
     藍曦臣はそれの頭を指で優しく撫で、向けられる笑顔にしばらく気を取られていた。


     半刻も経たないうちに外が慌しくなり、江晩吟が客間に入ってきた。
     片手をあげて後ろに連なった門弟を下げさせると、腕組をして藍曦臣の正面で立つ。

     「それで、こんな時間に供も付けず何の用だ」

     機嫌が悪い理由は、早朝だからか供がいないからか、そのどちらも、か。
     藍曦臣は、宥めるように微笑んでから胸元のそれを片手に乗せ、江晩吟の目の前に差し出した。
     江晩吟は目を丸くして、きょろきょろと周りを見回すそれを見つめている。

     「先日、貴方が送ってくださった蓮の花から生まれました」
     「は?」
     「貴方が霊力で操る類のものかと思ったのですが、どうやら違うようですね」

     江晩吟の反応にほっと胸を撫でおろす。

     「確かにあの蓮には少し霊力というか、まじないのようなものを、込めた、が……」
     「まじないとは?」

     藍曦臣の手に乗ったそれを指でちょいちょいと突きながら、江晩吟には珍しくごにょごにょと歯切れの悪い物言いに藍曦臣が訪ね返す。
     言い淀む江晩吟をじっと見つめて、答えを待っていると、掌のそれが藍曦臣の指をぎゅっと抱えた。
     藍曦臣がそれに視線を戻すと、それも藍曦臣を見て、にっこりと笑い「しーちぇん、あえた」と言った。
     藍曦臣は、「な……!」と声を上げて耳まで赤くした江晩吟と、それを交互に見てから口元を綻ばせる。

     「ふふ、もしかして、そういうこと、ですか?」
     「……」
     「阿澄?」
     「わかったのなら聞くな」

     鋭く睨まれても藍曦臣の表情は緩んだまま、掌のそれごと江晩吟を抱きしめた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💗☺☺💘👏👏❤💖💕👍☺❤❤💕💘☺☺☺👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

    takami180

    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

    takami180

    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

    recommended works