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    Nullpoint_mdzs

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    雲夢から姑蘇へ贈られた蓮に、不思議な力が宿りました。

    【曦澄】イベント後もそのまま公開しますので、ゆっくり読んで頂けたら嬉しいです【全年齢】

    #曦澄
    #mdzs

    贈り物(仮) 本格的な夏の暑さがってきた頃のこと。
     まだ日が低い時間に雲夢から姑蘇への使者がやってきた。
     藍曦臣の目の前で雲夢の門弟が恭しく拱手すると、後ろに控えていた別の門弟がその隣に立ち、桐の箱を両手で支えて差し出す。
     自らその箱を受け取ると、仄かに桐の香りが漂った。
     送り主には心当たりはあるが、贈り物を貰う心当たりがない。
     はて、と首を傾げつつもあまり便りを寄こさない恋人からの贈り物は素直に嬉しく、両手でしっかりと抱えて寒室に持ち帰った。


     箱を開けると、そこには一本の蓮花の蕾。
     贈り主の霊力が微かに残ったそれを寝台の端に活けると、藍曦臣は満足そうに微笑んだ。
     毎朝欠かさず、水揚げと水切りを行い、夜にはおやすみと声をかけた。


     そうして三日目の朝。
     藍曦臣が目を覚まし、いつものように蓮へと視線を向けると、今まさに花が開こうとするところだった。
     ゆるゆると時間をかけて開いてゆく花弁の中で、なにかが動いた気がして、藍曦臣は上半身を起こし蓮の前に正座をして上から覗き込む。
     半分ほど開いたそこには、人型で親指ほどのそれは眩しそうにもぞりと動いた。
     正面から差し込む朝日を浴びて、花の中でゆっくりと伸びをするそれを藍曦臣はじっと眺めている。
     まだ眠たげに目を擦り、ゆっくりとした動作で上半身を起こしたそれが、藍曦臣を見つける。
     ぱっと笑ったその笑顔は、文字通り花が咲いたようだった。

     「……阿、澄?」

     そう呟いて、藍曦臣はそれを花の中から掬い上げ、目の高さまで寄せる。
     突然のことに驚いてバランスを崩したそれは、よたよたと藍曦臣の掌で立ち上がり、少しむっとした表情で見上げた。
     やはり、阿澄に似ている。
     悪しき霊力は全く感じ取ることができず、むしろ木陰に吹くそよ風のように爽やかな空気が寒室を満たしていた。
     これが式神であるとすれば、このように精巧で実体のあるを長距離で保てることに驚きつつ、操っているであろう本人が心配になり、藍曦臣の顔色が変わる。
     身支度もそこそこに、それを中衣の襟の間に押し込むと、寒室を飛び出した。
     取り乱したような藍曦臣の姿に、偶然通りかかった藍氏門弟は驚き、何事かと駆け寄る。

     「心配ない。急用ができただけです」

     それだけ言うと、藍曦臣は御剣で飛び去った。


     向かった先は蓮花塢。
     胸元のそれを落とさないよう、片手を襟の前に添えて、藍曦臣はいつもより早く目的地に到着した。
     無礼を承知で試剣堂のど真ん中に降り立つと、すぐに江氏の門弟が現れる。
     突然の来訪にも慌てることなく藍曦臣に対して拱手をする様に小さく頷いて、江宗主への面会を依頼すると、半刻ほどお待ちくださいと告げ、藍曦臣を残して奥へと消えた。
     すぐに門弟は戻ってきて、藍曦臣は奥の客間へと通される。
     椅子に掛け懐をそっと見下ろすと、藤花のような淡い瞳がこちらをじっと見つめていた。

     「阿澄……」

     無意識に呟くとそれは「あーちょ?」と舌足らずに反復して不思議そうにこてんと小首を傾げる。
     あぁ、幼子とはこのようなものであったろうか。
     藍曦臣はそれの頭を指で優しく撫で、向けられる笑顔にしばらく気を取られていた。


     半刻も経たないうちに外が慌しくなり、江晩吟が客間に入ってきた。
     片手をあげて後ろに連なった門弟を下げさせると、腕組をして藍曦臣の正面で立つ。

     「それで、こんな時間に供も付けず何の用だ」

     機嫌が悪い理由は、早朝だからか供がいないからか、そのどちらも、か。
     藍曦臣は、宥めるように微笑んでから胸元のそれを片手に乗せ、江晩吟の目の前に差し出した。
     江晩吟は目を丸くして、きょろきょろと周りを見回すそれを見つめている。

     「先日、貴方が送ってくださった蓮の花から生まれました」
     「は?」
     「貴方が霊力で操る類のものかと思ったのですが、どうやら違うようですね」

     江晩吟の反応にほっと胸を撫でおろす。

     「確かにあの蓮には少し霊力というか、まじないのようなものを、込めた、が……」
     「まじないとは?」

     藍曦臣の手に乗ったそれを指でちょいちょいと突きながら、江晩吟には珍しくごにょごにょと歯切れの悪い物言いに藍曦臣が訪ね返す。
     言い淀む江晩吟をじっと見つめて、答えを待っていると、掌のそれが藍曦臣の指をぎゅっと抱えた。
     藍曦臣がそれに視線を戻すと、それも藍曦臣を見て、にっこりと笑い「しーちぇん、あえた」と言った。
     藍曦臣は、「な……!」と声を上げて耳まで赤くした江晩吟と、それを交互に見てから口元を綻ばせる。

     「ふふ、もしかして、そういうこと、ですか?」
     「……」
     「阿澄?」
     「わかったのなら聞くな」

     鋭く睨まれても藍曦臣の表情は緩んだまま、掌のそれごと江晩吟を抱きしめた。
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     夜明けの気配がした。
     藍曦臣はいつもと同じように起き上がり、ぼんやりとした薄闇を見つめた。違和感がある。自分を見下ろしてみれば、深衣を脱いだだけの格好である。夜着に着替えるのを忘れたのだろうか。
    「うーん」
     ぱたり、と藍曦臣の膝に何かが落ちた。手だ。五指をかるく握り込んだ手である。白い袖を視線でたどると、安らかな寝顔があった。
    「晩吟……」
     藍曦臣は額に手のひらを当てた。
     昨夜、なにがあったのか。
     夕食は藍忘機と魏無羨も一緒だった。白い装束の江澄を、魏無羨がからかっていたから間違いない。
     それから、江澄を客坊に送ろうとしたら、「碁はいいのか?」と誘われた。嬉しくなって、碁盤と碁石と、それから天子笑も出してしまった。
     江澄は驚いた様子だったが、すぐににやりと笑って酒を飲みはじめた。かつて遊学中に居室で酒盛りをした人物はさすがである。
     その後、二人で笑いながら碁を打った。
     碁は藍曦臣が勝った。その頃には亥の刻を迎えていた。
    「もう寝るだけだろう? ひとくち、飲んでみるか? 金丹で消すなよ」
     江澄が差し出した盃を受け取ったところまでは記憶がある。だが、天子笑の味は覚えて 1652