鍋は割れず蓋も閉じない凸凹コンビ
「はあ~、北海道はでーじ面白いところがいっぱいさあ~」
練習を終えホテルの部屋に戻ると、乙音は自分のベッドへ思いっきりダイブする。
「明日はどこに行こうかな~」
そう言って、握りしめて過ぎて端がぼろぼろになってきたパンフレットを胸に抱えて乙音は楽しそうにごろごろとベッドの上で転がった。
「楽しそうですね南さん」
「うん、だって僕スタオケに入るまで沖縄から出たことなかったんよ、だからこうやって源一郎やみんなと一緒に北海道に来てるってだけで、胸がキューってしてくるんさ」
乙音はそう言って目を細めて微笑んだ。
たとえそれがパンフレットを見ながらの空想であったとしても、乙音にとっては北海道のかけがえのない思い出なのだろう。
「あの南さん、これを」
「ええ、これって!!」
源一郎が鞄から取り出したものは、昼間乙音がパンフレットを見ながら食べた気になっていたフワフワのシフォンケーキだった。
「ホールの近くに店があったんで、買ってきました……でも、俺と南さんの分しかないので他の人には内緒にしていてくださいね」
「もちろんさ~、僕と源一郎だけの秘密さ~」
まるでクリスマスにプレゼントをもらった子供のように喜ぶ乙音を見て、源一郎は買って来て良かったとつられて口元をゆるめた。
「それと、円山動物園ならホテルからバスで行ける距離ですので、明日の自由時間で行ってみますか?」
「え、良いの?」
「はい、俺で良ければ付き合いますよ」
「えへへ~、僕なあシロクマって一回生で見て見たかったんよ~……そうだ、朝日奈ちゃんも誘ってみらん?」
「良いですね、きっと喜びますよ」
源一郎の言葉に、乙音は早速マインを開いて朝日奈にメッセージを送った。
─了─