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    桧(ひのき)

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    桧(ひのき)

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    東卍反社ココ×堅気で愛人な武道 ココ武
    花垣武道誕生日記念本 web公開 ココ武分。
    九井一(十代目親衛隊長)11~13時の出来事。

    #ココ武
    ##花垣武道BD記念

    その身一つで「くそが……ッ」
     男は小さく悪態吐いた。
     今日も今日とて反社会的組織の一員として隠れ蓑のフロント企業の経営を行う九井。カレンダーをちらりと見る。六月の四段目。二十四日であった日は、気が付けば日付が変わり二十五日の朝もとっくに過ぎていた。
     遅めの朝食兼、早い昼休憩に入り始める部下を見送る余裕すらなく。パソコンと睨み合ってキーボードを叩く。
    「ココ、本来なら今日は休みだっただろ。一旦帰るか?」
     幼馴染且つ現在の仲間である乾青宗からそう問われ、顔を上げた。帰れるものならば帰りたい。だが、下っ端の構成員がやらかした案件は意外とリカバリーに苦戦を強いられていた。証拠隠滅やデータの書き換え作業が必要になってしまったのだ。思ったよりも重大な過誤であることが発覚した。
    「イヌピー、これで帰れると思うか……?」
     隈を目の下に帯びて、地を這うような重低音。事務所の気温は二、三度低下した。共にデスクワークで四苦八苦していた者達の肩が跳ね上がる。デスクの上にはエナジードリンクどころかカフェイン剤の瓶も置いてある。カフェイン剤の効果は抜群だが、その分反動も大きい。場合によっては数日後に倒れることもあるらしい。これは重症だ、と乾は小さく溜息を吐いた。
     粗方は片付いているとはいえ、詰めが甘いと警察に尻尾を掴まれる可能性が高まる。帰ることが出来ない状況であるのは乾も理解しているが、これではいけないと私用の携帯を取り出した。
     そして九井に気が付かれないように外へ出た。彼の心を癒す、とっておきの魔法を迎えに。



     部下の一人はそろりと九井の顔色を窺う。
     九井一。昔から金を生み出す天才と称されていた。その手段は違法・合法を問わない。組織を大きくした影の功労者とも言えるだろう。反社会的組織たる東京卍會の〝財〟そのものだ。普段は経理などを担当しており、一見すると荒事とは無縁の知的犯罪専門かと舐められることも少なくない。だが侮ること勿れ。決して温厚という訳でも慈悲深い訳でもないことを九井の側近はよく存じている。

     暴走族時代――黒龍十代目で親衛隊長だった頃――には裏切り者を探しては、疑わしい者を拷問して粛正していた過去を持つからだ。そもそも東京卍會はいくつかの暴走族や不良集団が集まって形成された愚連隊が、そのまま日本の闇を牛耳る組織へと成長を遂げた、という背景がある。主にヤクザの前身であった東京卍會という暴走族の幹部達は無条件で組織の中枢となっている中、黒龍という配下の不良組織に所属していた九井と乾が同じ土俵に立っているのだから、最初から只者ではないのだ。
     九井は時流を見極める能力も高く、黒龍の出身でありながらも豊富な上納金を納める身。知的犯罪稼業の担当とで言えば良いだろうか、九井の配下は学が求められる。決して暴力的な恐怖はないのだが、求められる仕事は結果だけではなく、その道筋と精度も求められる。仕事に足が付けば、公的機関に嗅ぎ付けられる確率も跳ね上がるからこそ、隠蔽工作も重要となるのだ。その為、細やかで緊張する仕事を膨大にこなす九井の部下は、精神的に追い込まれてしまう者が後を絶たない。
     荒事で成り上がることが多いヤクザ者だが、時代の波はそれを許さない。デスクワークをこなすような知的犯罪稼業に馴染めない者は時代にそぐわず脱落していく。「これくらい耐えられないようでは先が知れる」とはシビアな九井の言葉だが、側近たちはその意見に概ね首肯するところだ。


     九井の部下としてやって行けている彼等の中で、この半年程、九井の雰囲気が柔らかくなったとは専らの噂であった。〝イロ〟が出来た故だということは部下の中でも一握りの側近だけが知る事実。口外しようものなら額に穴が開くことだろう。
     その側近の中でも件の恋人と対面したことがある者は更に限られる。例の恋人は九井と同性であるが、愛嬌の感じられる丸い瞳で。毛量が多く、うねる頭髪や少しだらしのない雰囲気を纏っている。だが彼はその恋人の垢抜けていない点が癒しとなって、心を鷲掴みにされたらしい。
     好みとは分からないものである。

     勿論、きちんと恋人になるまで紆余曲折あった。
     何と九井は裏で敢えて意中の人物に借金を背負わせ、表では恋人関係を持ちかけながら「借金も肩代わりするから気にしなくていい」と同情するように優しく囁いたらしい。側近中の側近はその搦め手を用いる程に本気な九井に遠い目をしながら、相手――現在の〝イロ〟――に同情した。それはもう心の底から。
     その後の詳しい馴れ初めは部下などには語られはしないが、借金を態と背負わせてから数年後、つい半年前に九井の機嫌が最高潮になっていた所を見ると、漸く陥落することに成功したらしい。その例の人物が借金苦に耐えかねて九井の甘言に乗ったのであろうが、外野に過ぎない彼等は詳らかにはされていない。真相は闇の中である。





     本来ならば二十四日を含めて三日間、休暇の予定であったのだ。一般的な企業と違って有給などという概念は無いが、それでも恋人の誕生日ともなれば周囲も九井の休暇を阻むことはできない。東京卍會が日本一の反社会的組織になった理由の一つに九井の金策がある。つまり、九井を粗雑に扱うことは東京卍會への繁栄を足止めさせる事態につながりかねないのだ。断固として休暇を取ると彼が言い出せば、それを拒否できない。
     敵の多い九井の恋人となったが為に、普段外へ気軽に出られなくなった花垣に旅行にでも行こうと提案したのだ。荷造りを終え、いざ行かん成田空港へ、というタイミングで無情に鳴り響いた、天国から地獄へと誘う軽快な手招き。
     この時ばかりは、日頃の行いが世間的に悪い己を恨んだ。過去と現在の間で思考を揺蕩わせながら、目をぐいと擦る。

     眠気と空腹。そして精神的疲労による思考の麻痺。状態異常の詰め合わせだ。


    「昼飯でも食ってこい」
     いつもの所予約したから、と少々部屋を出ていたらしい乾が戻って来て、そう口にする。気を遣われた九井は内心で泣いていた。持つべきものはやはり心を許せる幼馴染である。

     時計は長針も短針も天辺に揃っていた。
     今日という日が、既に半分終わってしまったことを指し示していた。今夜も帰れないだろう。肩を落とし項垂れて。心が死んでいく。疲労はピークに達し、何度眠気を押し殺したか分からない。それでも何とか生きていることを叫ぶように九井の腹は鳴る。なんと小憎たらしい正直な身体であろうか。
     なんとか紆余曲折を経て、それも四年掛かりで恋人になることができてから初めて迎える誕生日であるのに。誕生日は何が欲しい、車か、別荘かと問えば。
     返って来た答えは「ココ君と一緒に居られる時間が欲しいな」である。
     なんと健気なことよ、と天を仰いだ記憶も真新しい。
     はにかみながら少し甘えたように述べるその姿を脳内で反芻させて正気を保った。
     否、だからこそ余計に口惜しい。誕生日当日の二十五日に帰れないとは何事か。今ばかりは、こんな組織潰してやろうか、と歯軋りしてしまう。


     心なしかふらつきながら、いつもの数倍は人相の悪い九井に、廊下や道すがらですれ違った者から小さな悲鳴が。取り合わず、視線も向けないまま、乾の予約してくれたらしい飲食店に辿り着いた。
     店員の来店の歓迎を表す挨拶。
     いつもと同様、贔屓の客である九井は個室へと案内される。この高級中華料理店は幹部達も御用達の店。加えて、九井含めた彼らがヤクザ者であることを了承している。何故ならば答えは簡単だ。この店も所謂、裏家業の者達による隠れ蓑の店であるからだ。
    「お連れ様がお先にお待ちです」
     その言葉に、片眉を釣り上げて怪訝な声を漏らす。その九井の反応に当惑したのは店員だ。
    「乾様より二名と伺っておりますが……」
     乾の差金だというならば、害ある相手ではないのだろう。
    「……本当に乾の番号だったか?」
    「……はい。間違いございません。」
     店内を歩くその足は止まり、両者の間には不穏な空気が増していく。
    「乾様よりお連れ様に伝言で『誕生日おめでとう』とありましたが……」
     だがその言葉で九井は眠気が一気に飛んだ。

    「部屋は何処だ。すぐに案内しろ」

     気迫に押された店員が上擦った声で返事を。たかが数メートルの距離がもどかしい。
     歓喜と共に舌打ちする。用意していたプレゼントの大半は、旅行先にある。それは指輪も同様だ。旅行がキャンセルになった直後に日本の自宅へと配送するように切り替えたが、海外であるからまだ届いていないだろう。花垣が来ていると知っていたら、せめて薔薇の一輪ですら買ったというのに。
     着の身着のままの、ただの九井一が良いとあの爛々と輝く瞳で告げたその言葉を体現するように、誰の力も借りずに四年で返済してみせた。それも、彼にとっては不当に背負わされた筈の数百万の借金を。
     身綺麗になったから付き合って下さいと、彼の方から微笑んで手を差し出して来たのだ。
     逃がしてやることもできた。手放すべきだった。一度は「もう飽きたから」と、敢えてその手を振り解こうと思った。だが、薄暗い世界でだって幸せになってもいいじゃないか、と言い募る彼の姿に。半ば惰性で生きて来たこれまでには意味があったのだと気付かされてしまっては、九井は花垣を手放せなくなってしまったのだ。
     だから開き直って泥濘の中に引き摺り込もうと決めた。一生真綿で包むように愛する、と。

     個室の扉を乱暴に開けて、中に居た彼の美しい青藍が九井に向けられる。
     きつく、きつく抱き竦めて。心を満たすのだ。そのいっぱいの愛で。

    「誕生日おめでとう、花垣」

     指輪はない。花の一輪さえ持たず。身嗜みも気にしていられない程によれよれの、世界一恰好のつかない男による渾身の祝福であった。君が生まれてきてくれたから、己は幸せになったのだと感謝を込めて。





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    Replies from the creator

    桧(ひのき)

    DONE五十路真一郎×四十路武道……と言いつつあまり年齢操作感の無い真武

    花垣武道誕生日記念本 web公開 真武分。
    佐野真一郎(初代総長)23~24時の出来事。

    ※本の中では4839字だったんですが、ポイピクでは5千字超えてしまっています。
    愛の特権 散々な一日だった。
     近年稀に見る程に、疲れた日であったとも言えよう。

     その地域のレンタルビデオ店のエリアマネージャーであるとは雖も、その日は久方振りの二日間連続での休暇であった。だが悲しい哉、脆くも崩れ去る。
     その店の社員は三人。本来、この日に出勤予定であった社員の家族が緊急入院したのである。良く言えば少数精鋭、悪く言えば人員が不足気味な職場である。故に急遽、花垣が休暇の予定を返上して勤務に入ることになったのだ。

     記念すべき四十歳になる日。世では『不惑』と定められる年齢になったが、物事に惑わされない精神を保つ事は難しく。感情に振り回されてしまうことも屡々。己の精神年齢は成長していないように思えて。ただ無意味に年齢だけを重ねているのではないかと、毎日思う。同棲して既に二十年を越した恋人からの十分大人になったよ、という言葉を胸に、今日も〝大人〟を演じるのだ。
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