ともあれ、彼女の千年ちょっとの人生において初めての女の子同士のお出かけを満喫したエレインは、バンに貰った結構な額のお小遣いをちょっぴり使い大いに満足して、種族の違う友らと別れた。
一方その頃、バンの家ではキングがシャスティフォルに寝っ転がり、ふわふわ浮きながらお茶を啜っていた。だがこの小一時間の間、二人の間に会話はない。
「キング、お前さ」
その沈黙を先に破ったのは家主の方だった。
「その姿でディアンヌの前でダラダラできねぇからって今ウチでダラダラしてるわけ?」
「喋りだしたと思ったらそれ?! お生憎様だけどオイラたちの間にそんなつまらない見栄はないよ」
「あっそ」
「それよりエレインの誕生日どうするか考えたの?」
「その言葉そっくり返すわ♫ つーかテメーに言われるまでもねぇよ」
「でもプレゼントあげる事も知らなかったんでしょ、人間のくせに」
「っせぇな! そんな習慣があるのは汚ねぇ商人と王侯貴族だけだと……ん?」
不意に立上がったバンに、キングの顔にも一瞬緊張の色が走る。……が。
「エレインが帰ってくる!」
「は? 何で」
そんな事がわかるんだ、と言おうとしたところで「バン、ただいま!」と馴染んだ声と共に妹が姿を現した。
バン、キミ凄い通り越してちょっとキモいよ……。
キングはそう思ったが、可愛い妹を前にして表情を改めた。
「おかえりエレイン、お邪魔してるよ」
「まぁ、兄さん!」
兄妹は抱き合って、妹は兄の頬に軽いキスをする。その瞬間キングは殺気を感じ、エレインは見えない力に引っ張られて兄から離れた。
「エレイン、俺へのチューがまだだぜ〜♫」
「もう、強引にしないで!」
エレインは一応恋人を諌めるがただのポーズなのは明らかだ。そして兄妹で交わすキスとはかけ離れたチュー、である。慣れてもいい頃だが慣れないキングは、渋い顔をして視線を反らした。
「あー、じゃあそろそろオイラ帰るね」
「そんなぁ。私が帰ってきたら帰っちゃうの?」
「ははは……。またゆっくり来るよ」
キミの隣の人が怖いからね、とは言わずに「またね」と告げてふわりと浮くと「オイ兄貴」と《怖い人》が呼び止めた。
「明日豚の帽子亭で作戦会議だ」
「……わかった」
男二人が奇妙に神妙な顔をして頷くさまを、エレインはキョトンと見つめていた。