バンは自分は狂っているのだろうと思う事がある。そう、エレインに狂っているのだ。彼女の全てを根こそぎ奪いたい。しかし、奪われているのは果たしてどちらだろう。
とにかくもう、バンの頭の中はエレインをふわもふする事で一杯だった。しかし、サボって帰ろうとするたびに頭の中のエレインが「めっ! お仕事はちゃんとしなくっちゃ!」とか「頑張ったら後でごほうびあげる!」などと可愛く叱ったり励ましたりするので、彼は耐えた。閉店後の後片付けまできちんと済ますと「偉いわバン! お家に帰ってきたらいっぱい褒めてあげるね」と言われたので(あくまでもバンの頭の中の話だ)、エプロンを放り出しカウンターを飛び越えて「んじゃお疲れ〜♫」とドアへと跳躍した。
「コラ待て、バーン!」
が、目の前を巨大なくまのぬいぐるみに遮られ、そのままぼすんと突っ込んだ。バン自身もしばしばお世話になっている、キングの神器シャスティフォルだ。
「何しやがるキング♫ 俺ァ早く帰ってエレインモフりてぇんだよ!」
「いやだからさ、そのエレインのお誕生日の作戦練るんじゃなかったの?」
「……あ?」
「あ、じゃないよ全く」
キングは盛大に嘆息し、クッションに戻したシャスティフォルに寝そべった。
「プレゼントだってまだ考えてないんだろ? そりゃエレインはそういう事にはオイラ以上に興味薄いし、キミからの贈り物なら何だって喜ぶだろうけど、それにしたって少しは考えてもいいんじゃない?」
「ってもよぉ、どうせ宴会はするだろ、俺はまぁ当然気合い入れてエレインの好物作るけどよ……」
エレインの喜びそうな物なんて、と言おうとして口を噤む。そう、エレインは絶対に何でも、最大限に喜んで貰ってくれるに決まっているのだ。
「だからこそ悩むよね」
「チッ! 心読むなっつったろ♫」
「読まなくてもその顔見ればわかるよ……」
はぁ、と今度は二人して溜息をつく。
エレインへの愛や感謝の気持ちが誕生日だからといって特別に膨れるわけではないのだが、この世界に生まれてきてくれた日はやはり特別で、であれば何か特別な事をやりたい。そこのところはバンもキングも一致しているのだが、そもそも特別とは一体なんだろう。
「はぁ〜……」
二人は再度、同時に息を吐いた。