その日、豚の帽子亭のコックは早速やる気を失っていた。隣で励ましてくれる係が休みだからだ。
「ちょっとぉバン、オーダー入ってるんだけど! エレインがいないからってサボらないでよね〜 」
ディアンヌはいつも通り煩い。いや、全面的にバンが悪いのだが。
「っち、しゃーねぇな。なんだっけ?」
「何で仕方ないとか言うかな。サラダだってば」
「酒の肴にサラダなんか頼むんじゃねぇつっとけ♫ どうしても食いたきゃホレ、キャベツやる♫」
「ふっざけないでよ! 団長ぉ〜バンがぁ」
「もうっ。バン、ちゃんとお仕事しなさい!」
不意に響く鈴を転がすような愛くるしい声に、ディアンヌは驚きバンは喜色満面で振り返ったのだが。
「キュピーン☆」
「ご、ゴウセル……」
「てめぇ、後でコロす♫」
何て事だ、ゴウセルなんぞの偽ボイスに騙されるとは。とにかく早く帰りたい、帰ったらエレインをふわふわもふもふして、膝枕で慰めて貰おう。その事だけを考えながら、バンは黙々と料理を作り続けた。